第5話 悪役豚貴族は哀れまれる
「これは料理長にとってもチャンスでは?」
「チャンス?」
俺の言葉にコッホは反応する。
この提案のどこにそんなものがあるのか、と疑問に思っているのだろう。
「俺の料理だけ別に調理する。つまり、その皿に毒を盛れば、俺を暗殺できるわけだ」
「・・・・・・馬鹿にしているのですか?」
「いや、そんなつもりはない。だが、この屋敷で毛嫌いされている俺を排除すれば、父上たちからの覚えが良くなると思わないか?」
少し苛ついたコッホに毒を盛るメリットを説明する。
嫌われていることを自覚しているからこその提案である。
正直、ポールのまま生活を送るのはかなりハードモードである。
どうせ主人公にやられるのなら、ストーリー前に排除されても問題ないと思っていた。
「お断りします。料理に毒を盛るという命令は我々にとって侮辱に等しい行為です」
コッホははっきりと断った。
俺への敵意はあるようだが、料理人のプライドが勝ったらしい。
これは俺の提案の方が悪いな。
「すまない。そんなつもりはなかった」
「っ⁉」
俺は素直に頭を下げる。
なぜかコッホは驚いたような反応をしていた。
頭を下げて見えないが、周囲も同様のようだ。
「どうやら本気のようですね。言われたとおりのメニューを用意させていただきます」
「良いのか?」
コッホが提案を受け入れてくれたので、俺は顔を上げる。
彼の表情は先程よりも和らいでいるように見えた。
それでも警戒心は完全に抜けてはいないが・・・・・・
「ただし、しっかりとしたメニューを作らせていただきます。我々もプロですので、そこは譲れません」
「良いのか? 俺だけ別のメニューを作らせるのは手間になるだろ?」
受け入れてくれたのは嬉しいが、わざわざ手間をとらせるのは申し訳ない。
正直、鶏むね肉とブロッコリーを湯がくだけでも十分だと思っていた。
「それは我々の矜持に反します。食べていただく人に美味しいと言ってもらうことこそ、料理人の使命なのです」
「・・・・・・わかったよ。作るメニューは任せる」
「ありがとうございます」
こちらの提案を受け入れてもらったのだから、向こうの提案をのまないわけにはいかない。
こちらとしても美味しい料理を食べられるのだから悪い提案ではないはずだ。
「では、料理は我々が運びましょうか?」
「いや、それは俺自身が持っていきたい。運動する習慣をつけておきたいからな」
「・・・・・・自室と調理場の往復がですか?」
コッホから呆れたような視線を向けられる。
彼からすれば、その程度の距離の往復を運動とは思えないのだろう。
普通に考えれば、運動にはならないはずだ。
だが、ポールの身体にとっては違う。
「残念なことに、俺の身体にとってはその距離ですら運動になってしまう。現に今も汗を掻いている」
「・・・・・・たしかにそうですね」
怒りが落ち着いたおかげか、コッホは俺の様子にようやく気づいたようだ。
多少は時間が経っているので落ち着いているが、先程までは大量の汗をかいてしまっていた。
正直、自分でも嫌な臭いを感じてしまう。
早く風呂に入りたい。
「ついでにぬるめのお湯をわけてもらえるか?」
「別に構いませんが、飲む用ですか?」
「いや、身体を拭くようだ。専属の使用人がいないから、自分で汗を拭かないとな」
「・・・・・・タオルも用意しておきますね」
コッホからの視線が哀れみに変わった。
周囲も同様の表情を浮かべていた。
敵意がなくなったのはありがたいが、これはどうなのだろうか?
あまり嬉しいとは思えなかった。
だが、これでポールのダイエット計画が始められる。
毒云々はプロにとって侮辱でしょうね。
作者は料理人ではないですので、あくまで偏見ですけど・・・・・・
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