第37話 悪役豚貴族は恥ずかしい気持ちになる
「あなたのことを考えれば、不用意な行為をしてしまったわ」
「いや、その場の流れですから、謝るようなことじゃないですよ」
エリーゼさんの後悔を聞き、俺は問題ないと伝える。
たしかにポールの立場からすれば怒ることかもしれないが、今の俺はポールであってポールでない。
この程度で怒ることはしない。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。そんな状況で申し訳ないけど、一つ頼んでも良いかしら?」
「なんでしょうか?」
何を言われるのだろうか?
とんでもないことは言われないだろうから、何の気なしに聞き返してしまった。
それが良くなかった。
「私のこと、「ママ」と呼んでくれないかしら?」
「え?」
予想外の頼みに思考がフリーズする。
どうしてそんな話になったのだろうか?
「もちろん、ポール君にとっての母親は1人だけなのはわかっているわ。でも、せっかく家族になるんだったら、ポール君にも「ママ」って呼んでもらいたいの」
「・・・・・・」
彼女の言っていることがわからないでもない。
だが、先程まで距離のあった女性を「ママ」と呼んでもいいのだろうか?
「呼んであげなさい」
「え?」
実父の言葉に驚いてしまう。
まさか厳格な雰囲気の彼が背中を押してくるとは思わなかった。
「仲を深めるためには親しげに呼び合うことも大事だ。ならば、この提案は受け入れるべきだろう」
「理屈は分かるけど、いきなりは難しいって」
思わず反論してしまう。
いくら見た目は子供でも、中身はアラサーの成人男性である。
ほぼ同年代の女性を相手にママ呼びは恥ずかしすぎる。
だが、そんな状況を相手は知らない。
「では、魔法訓練を禁止するぞ」
「っ⁉」
まさかの言葉に目を見開いてしまう。
どうしてそんな酷いことを言うのだろうか?
「報告を聞いた限り、危険が伴う訓練のようだな。だったら、我流の訓練をさせず、指導者をつけるべきだろう」
「いや、危険をできるだけ排除しています。だから、問題は何も・・・・・・」
「だが、シャトンが興味を持って、一緒に訓練をしようとしているんだろう? その結果、暴走したわけだ」
「うぐっ」
痛いところを突かれてしまった。
俺の我流の訓練のせいでシャトンに危険が及んだのは事実である。
もちろん、訓練自体が悪いわけではない。
だが、シャトンが興味を抱いてしまったのは事実である。
今後も同じようなことになりかねない。
「俺としてはお前とシャトンが一緒に魔法の授業を受けるのも一つの手だと思う。そうすれば、あの娘も嬉しいだろうしな」
「・・・・・・」
彼女が喜ぶ姿が目に浮かぶ。
そういう意味では一緒に授業を受けるのも悪くはないだろう。
だが、今更一緒に授業を受ける気にはならない。
俺は我流の魔法訓練をしてきたせいで、従来の魔法体系とはまた別になってしまっている。
変な癖がついているだろうから、上手く従来の魔法を使うことができないかもしれない。
ならば、授業を受けることは俺にとって悪手になる可能性があるわけだ。
「・・・・・・ママ」
「(ぱあっ)ありがとう、ポール君っ!」
「うぷっ⁉」
仕方がなく呼ぶとリーゼさんは満面の笑みを浮かべる。
胸元に思いっきり抱き寄せられ、柔らかい感覚に包まれる。
息ができず、徐々に意識が遠のいていく。
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