第35話 悪役豚貴族は侯爵家の事情を聴く 1
「あなたが異物? 誰がそんなことを言ったんですか?」
「い、いや、事実でしょう?」
睨み付けられながら詰め寄られ、しどろもどろに答える。
可愛らしい人が怒っても可愛いとよく言うが、真剣な怒りの感情を向けられるとそんなことも考えられない。
正直、かなり怖い。
「誰がなんと言おうと、ポール君はヴァイス侯爵家の一員です。異物なんて言わないでください」
「す、すみません」
思わず謝罪の言葉を口にしてしまう。
彼女にここまで言われてしまえば、否定することはできないだろう。
正直、認められた事への嬉しさの方が勝っている。
だが、ここでは気になることがある。
「け、けど・・・・・・エリーゼさんは父上の恋人だったんですよね?」
「はい? 何の話です?」
エリーゼさんの表情から怒りが消える。
話が理解できていないようだ。
あれ、なんか変なことを言っただろうか?
「エリーゼさんは父上と恋人関係だったんですよね? ですが、俺の母さんと結婚することになって、渋々別れることになったんでしょう? けど、俺の母親が亡くなったから、父上と再婚することになって・・・・・・」
「ちょっと待て」
ポールの記憶の中の情報を話していると、実父からストップが入る。
一体、どうしたのだろうか?
なぜか頭を抱えていた。
「もしかして、ずっと勘違いしていたのか?」
「勘違い?」
実父の言葉に俺は首をかしげる。
一体、何を勘違いしているのだろうか?
「俺とリーゼは恋人同士ではない。今も昔もな」
「えっ⁉」
いきなりの大前提がひっくり返り、驚きを隠せなかった。
そんな俺の様子に実父は話を続ける。
「彼女は俺の兄の妻だ。俺にとっては兄嫁にあたる」
「はい?」
予想外の事実を告げられ、呆けた声を出すしかなかった。
新たな情報に頭がこんがらがってしまう。
「俺には二つ上の兄がいた。とても優秀で優しく、ヴァイス侯爵家の次期当主としてふさわしい人物だった」
「でも、今は父上が当主をしていますよね?」
兄のほうが優秀な人物であれば、父上ではなく彼が当主をやっているはずだ。
一体、何があったのだろうか?
「ある日、兄上は宣言したんだ。「俺はとある女性と恋に落ちた。平民である彼女と添い遂げるため、ヴァイス侯爵家から出る」とな」
「すごい人だね。というか、その平民の女性って……」
「リーゼのことだ」
「やっぱり」
話の流れ的に簡単に想像できた。
というか、父上の兄──俺にとっては伯父はいろいろとすごい人のようだ。
愛した人と添い遂げるために貴族の立場を捨てるとは……
「その結果、ヴァイス侯爵家の当主の立場は俺に回ってきた。もちろん、兄上に何かあった時のために準備はしていたので、役割が回ってきても問題はなかった」
「それはお疲れ様です」
実際は言うほど問題がなかったわけではないだろう。
貴族が平民と恋に落ちる──ラブストーリーとしては定番かもしれないが、貴族社会からすれば醜聞以外の何者でもない。
実の兄がそんなことをしたのだから、父上やヴァイス侯爵家への好奇の視線は酷かったはずだ。
身分違いの恋愛──素敵ですが、周囲には迷惑をかけそうですよね。
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