第20話 悪役豚貴族は過去の罪を思い出す
「俺がヴァイス侯爵と前妻の唯一の子供──つまり、次期侯爵の立場にもっとも近かったことはわかるか?」
「まあ、自然とそうなりますよね」
元々のポールの立場を説明する。
この程度なら、フィエラも簡単に理解できるようだ。
「その立場を俺は満喫していた。唯一の子供だからこそ、甘やかされたところがあったんだろうな」
「それは仕方がないことでしょう? まだ、子供だったんですから」
「だが、その立場を脅かす出来事が立て続けに起こった。まずは流行病で母親を失ってしまった」
「それは・・・・・・」
なんと言えば良いのかわからなかったのだろう。
人の死に関わることなので、返答も難しいはずだ。
彼女を苦しめるつもりはないので、話はそのまま続ける。
「その後、すぐに親父殿は後妻とシオンを連れてきた。その当時の俺の気持ちはわかるか?」
「え? 新しい家族ができたことが嬉しい、とかですか?」
フィエラは突拍子のない答えをする。
いや、新たな家族ができたことを喜ぶのは普通か?
だが、跡継ぎの問題がある貴族の家に普通なんて存在しない。
「いや、違う。今まで享受してきた立場を奪われると感じたんだよ」
「え?」
「当然だろう? 実の母親が死んだ矢先に後妻を連れ込んだんだ。しかも、同い年の子供もいるということはそれ以前から関係があったということだ」
「あっ⁉」
ようやく彼女は気づいたようだ。
ポールからシオンを嫌う理由は最初から存在していたのだ。
まあ、貴族の世界だとおかしな話ではない。
「まあ、俺の知らない何らかの理由があったんだろうな。だが、3歳の俺にはそんなことなどわかるはずもなかった」
「・・・・・・」
苦笑しながら話すと、フィエラは悲しそうな表情を浮かべる。
味方だからこそ、俺に共感してくれているのだろう。
だが、続きを聞いて、まだ味方でいてくれるだろうか?
「4歳になった頃、後妻の妊娠が発覚した。まあ、すぐに連れてくるほど好きだったんなら、そうなるのも仕方がない話だな」
「それがシャトン様なんですね。喜ばしい話ですよね」
「ああ。本来だったらな」
「え?」
呆けた声を漏らすフィエラ。
俺の言葉から不穏な空気を感じたのだろう。
過去のポールがやったこととはいえ、俺も考えただけで反吐が出る。
「シャトンが産まれたことで、俺は自分の立場がこれ以上害されることを嫌だと思ったんだ。だから、シャトンに危害を加えようとした」
「っ⁉」
フィエラが驚いた表情を浮かべる。
普通なら、そんなことを考えても実行しようと思わないだろう。
だが、悪役豚貴族と呼ばれるほど性格の悪いポールはあっさりと実行に移してしまった。
自分の権利を奪われたくなかったというしょうもない理由で・・・・・・
「その結果、俺はヴァイス侯爵家の中で腫れ物扱いになってしまったわけだ。屋敷中の人間から嫌われて、本当に針の筵だったな」
笑いながら悲しい気持ちになってしまう。
たしかにポールのやったことは許されることではないが、子供にあのような仕打ちは酷いとも思ってしまう。
彼がゲームのシナリオのようにひねくれてしまうのも仕方がないだろう。
元々の素養もあると思うが・・・・・・
「フィエラも離れてくれて良いんだぞ? 俺の側にいたら、お前もこの屋敷で虐められる可能性もあるだろうよ」
「私は離れませんよ」
「なに?」
俺の提案はあっさりと否定される。
驚いてしまい、思わずフィエラの顔を見る。
彼女はまっすぐこちらを見ており、その表情は真剣そのものだった。
「たしかにポール様は問題を起こしたかもしれません。そのせいで周囲に嫌われるのも仕方ないでしょう」
「・・・・・・」
「ですが、ポール様は変わったと思います。獣人だからと蔑まれ、虐められていた私を救ってくださいました。優しい気持ちが芽生えたのでしょう」
「気まぐれかもしれないぞ?」
恥ずかしい気持ちになり、反論してしまう。
もちろん、彼女を助けたのは気まぐれではない。
だが、それを素直に認めるのは難しかった。
「気まぐれだとしても、私が感謝をしている気持ちに変わりはありません。なので、生涯仕えさせていただきます」
「・・・・・・わかったよ」
彼女の真摯な態度に断ることはできなかった。
悪役豚貴族のポールにこんな味方がいても良いだろう。
彼女の存在が運命を大きく変えてくれるかもしれない。
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