第15話 悪役豚貴族は魔法の訓練を始める
翌日、俺とフィエラは屋敷の外の開けた場所にいた。
川での修行はあくまで魔力の流れを感じるためのものだった。
コツを掴むことができたので、行く必要はなくなった。
「あの、ポール様?」
「なんだ?」
おずおずとフィエラが問いかけてくる。
俺はむすっとした表情で答える。
「どうしてシャトン様がここにいらっしゃるのですか?」
やはり質問はシャトンのことだった。
俺の不機嫌の理由は彼女のことである。
本来の予定では川に行って、そこで次の訓練を行う予定だった。
だが、シャトンの存在がそれを許さなかった。
俺が彼女を屋敷の外に連れ出そうとしたと思われる可能性があった。
そうなれば、色々と面倒なことになってしまう。
避けないといけない事態である。
「見学がしたいんだとよ」
「見学、ですか?」
シャトンの意図が分からず、フィエラは首を傾げる。
まあ、子供の言うことがわからないのは仕方がないだろう。
単純に子供らしく興味が湧いただけかもしれない。
「私のことは気にしなくて良いわ。修行を見ているだけだから」
「はぁ」
シャトンの言葉にフィエラは怪訝そうな反応をする。
だが、気にしても仕方ないと思ったのだろう。
こちらに意識を向ける。
「では、今日から魔法を発動させましょう」
「ああ、やっとだな」
ようやく魔法を使うことができる。
せっかく異世界に来たのだから、ぜひやってみたいことだった。
実は夢の一つである。
「といっても、私は魔法を使えないので、具体的な方法を教えられません」
「まあ、そうだろうな」
獣人である彼女は魔力ではなく、気を使っている。
似ているものではあるが、あくまで違うものである。
だが、似ているからこそ、近しいものがあるのも事実である。
「ですが、【身体強化】であれば教えられるかもしれません。共通する部分もあるでしょうから」
「なるほど」
俺が彼女から教わるのは【身体強化】か。
その提案は悪くない。
肥満体型の俺にとって、身体能力を強化することは悪い話ではない。
【身体強化】をすることで身体の動きを補助することができるはずだ。
「では、さっそく例を見せますね」
「ああ、頼む」
フィエラは俺からゆっくり離れる。
拳サイズの石を拾い、軽く上に放り投げた。
5mぐらいの高さに到達した後、重力に従ってゆっくりと石は落ちていく。
当然、徐々に速度を増していく。
(ヒュンッ)
何かが斬れたような音が聞こえた。
だが、フィエラはまったく動いていない。
(ポトリ、パキッ)
「っ⁉」
目の前で起きた出来事に思わず驚いてしまった。
地面に落ちるまで、石はそのままの形を維持していた。
だが、落ちた瞬間に真ん中で割れてしまった。
しかも、その断面はまっすぐだった。
つまり、石を砕いたのではなく、斬ったわけだ。
フィエラは斬るような道具を持っている様子はなく、素手でこんなことをしたのだ。
「では、やってみましょうか」
「できるわけないだろっ!」
「えっ⁉」
笑顔でリピートアフターミーを伝えてきたが、思わずツッコミを入れてしまった。
俺の反応にフィエラは驚きの表情を浮かべていた。
もしかすると、彼女はこれを簡単な技術だと思っているのかもしれない。
その点をまずは考えないといけないな。
「ぷふっ」
俺たちの会話を見て、シャトンが吹き出していた。
だが、今は彼女を気にしている場合ではないので、放っておくことにする。
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