第7話 悪役豚貴族は食事に対する矜持がある
「なんでそんな提案を?」
コッホに純粋な疑問を投げかける。
今まで彼が料理を作ってくれていた。
正直、かなりレベルが高い料理であり、今後も食べたいと思っているぐらいだ。
「はっきり言わせていただくと、新人教育のためですね。私が作れば常に美味しい料理を用意できますが、それでは他の料理人が育ちません」
「まあ、言わんとしていることは理解できる。だが、本当の理由は?」
「え?」
俺の返事にフィエラが驚いた表情を浮かべる。
コッホの理由をそのまま受け入れたのだろう。
もちろん、先程の話も理由の一端であるのは事実だろう。
だが、他にも理由はあるように見える。
「流石にわかりますか。デビ、持ってこい」
「はいっ!」
指示を受け、デビが厨房を駆ける。
食材を扱う場所なので、もう少し静かに動いて欲しい。
衛生的な問題で・・・・・・
「お待たせしました」
少しして、デビが戻ってきた。
彼は皿を持っており、その上には料理が盛られていた。
見た感じ、鶏肉と野菜の炒め物のようだな。
「こちらを食べていただけませんか?」
「ん? わかった」
コッホの頼みを受け入れる。
皿を受け取り、野菜にフォークを刺して口に運ぶ。
「っ⁉」
口に入れた瞬間、驚きを隠せなかった。
思わず鶏肉も口に運ぶ。
「どうです?」
コッホが問いかけてくる。
彼の様子から本気で意見を聞きたいように感じる。
素直な感想を告げよう。
「正直、料理としてのレベルはかなり低いな。鶏肉はパサパサだし、野菜の火の通りもまばらだ」
「やはりそうですよね」
「だが、味付けに関しては素晴らしい。スパイスなどを上手く使っているからか、食欲を掻き立ててくれる」
「でしょう!」
褒められたことに気づいたのか、デビが会話に入ってくる。
その表情はとても嬉しそうである。
「まあ、それも調理技術が台無しにしているがな。結局の所、一度口にしたら食感のせいでこれ以上は食べようと思えない」
「そんなぁ」
一気に落とされ、彼は悲しそうな表情を浮かべる。
だが、これは事実である。
嘘をつくことはできない。
コッホもこれを求めていたのだろう。
「流石はポール様です。おっしゃるとおり、味に関してはかなりのレベルですが、調理技術は素人レベルなんです」
「で、俺の料理を作ることで調理技術のレベルアップを図るわけだな」
「そういうことです。お願いできますか?」
頼みの内容は理解できた。
料理長という立場上、新人の教育は大事なのだろう。
そこで俺の料理を作るという実戦経験の場があったのだから、利用しない手はない。
「そういうことなら任せておけ。だが、たまにはコッホの料理を食べさせてくれよ? 俺はあんたの料理のファンなんだから」
「そう言っていただけて光栄です。時々、作らせていただけます」
提案を受け入れたからか、料理を褒めたからか、はたまた両方か?
コッホは笑顔を浮かべる。
やっぱり強面なので、怖いと思ってしまう。
そんな思いを悟られたくないので、俺は残っていた料理をかっこむ。
「あっ⁉ まずいなら残していただいていいのに」
デビが不安げな表情で口にする。
先程までの元気なようすはどこへやら、鳴りを潜めていた。
俺に否定されたことが堪えたのだろう。
「食材を無駄にするのは駄目だからな。どんなにまずくても最後まで食べる──それが食材と料理人への礼儀だ」
「えっ⁉」
「失敗しても良い。俺が満足できる料理を作るレベルになれるまで精進しろ」
「は、はいっ!」
俺の叱咤激励にデビは元気を取り戻した。
さて、おいしいものを食べられるのはいつになるだろうか?
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