第6話 悪役豚貴族は新人料理人を紹介される
「おう、来たぞ」
30分後、ようやく痺れがとれた俺は調理場を訪れた。
だいぶ警戒を解いてくれたようで、料理人たちは気にした様子もなく一瞥して作業に戻った。
「よくお越しいただきました」
「別に構わないよ。良い運動になるからな」
コッホの言葉に軽く手を振り答える。
だが、彼は少し考える素振りを見せる。
「その程度で運動になるのなら、もっと食事を考えた方がいいかもしれませんね」
「冗談なんだから、そんな真剣に考えないでくれ」
「流石にわかっていますよ」
「・・・・・・だったら、もう少しわかりやすい反応をしてくれ」
強面で表情がわかりづらいので、本気かどうか判別がつかない。
思わずじっと見つめるが、彼は気にした様子もなく話を進める。
「今回お呼びしたのは、とある提案をさせていただきたいんです」
「提案?」
いきなりの話に首を傾げる。
何かあるとは思っていたが、どういう提案なのだろうか?
疑問に思う俺をよそに、彼は後ろを振り返る。
「おい、デビ。こっちにこい」
「はいっ!」
コッホの呼びかけに少し離れたところから元気な声が返ってきた。
1人の青年がこちらにやってくる。
年齢は10代半ばぐらいだろうか?
フィエラより少し年上に見える。
まだまだ初々しい感じがあり、コッホと並べばより若く見える。
「こいつは新人のデビです。まだ勤め始めて1ヶ月になります」
「デビです。よろしくお願いしますっ!」
コッホに紹介され、デビも挨拶する。
元気なことは良いことだが、この距離で大声は辞めて欲しい。
近くに居た俺やコッホは嫌な顔をしてしまう。
犬の獣人であるフィエラなんて、思いっきり睨み付けている。
五感が優れている彼女だから、より大きく聞こえたのだろう。
「俺はポールだ。よろしくな」
「急に人が変わったように良い人になった、って本当なんですね」
「「「「「っ⁉」」」」」
デビの言葉に周囲の空気が一瞬で凍る。
今までの俺のしたことを考えれば、罰せられると思ったのだろう。
「おい、失礼だろう」
「す、すみません」
コッホが注意すると、デビが謝罪の言葉を口にする。
きちんと俺に対して頭を下げているのを見ると、しっかりとやらかしたことは自覚しているようだ。
「別に良いよ。そう言われるようなことを今までしてきたからな」
「なら良かったです」
俺が気にしていないことを告げると、彼は安堵の表情になる。
別に構わないのだが、素直に受け取りすぎではないだろうか?
社交辞令で本心は許していない可能性もあるのに・・・・・・
「良いわけあるかっ!」
「(ゴンッ)いてっ⁉」
コッホの拳骨が頭に落ち、デビは痛そうに頭を押さえる。
その目には涙が浮かんでいた。
「痛いですよ」
「殴ったんだから当たり前だろ。お前は少し礼儀を学べ」
「料理人にいるんですか、それ?」
「当たり前だろっ⁉」
コッホも大変そうである。
新人教育はどこの世界でも大変のようだ。
まあ、それよりも気になることがあるので、話を進めよう。
「それで提案ってのはなんだ?」
「ポール様の料理なのですが、このデビに作らせていただけませんか?」
「こいつに?」
予想外の提案に思わず怪訝そうな視線を向けてしまう。
そんな俺の様子に気づいていないのか、デビは自信満々な表情を浮かべていた。
なんだ、こいつ?
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