第5話 悪役豚貴族は呼び出される
「はぁ、疲れた」
「お疲れ様です」
座ったまま床に手をつけ、俺は大きく息を吐いた。
フィエラはレモン水の入ったコップを渡してくれる。
レモン水を受け取り、俺は一気に飲み干した。
「魔法を使うのって疲れるんだな。魔力の流れを感じるだけでかなりしんどいんだけど」
「初めてのことだからだと思いますよ。慣れればもっと簡単にできるようになりますよ」
彼女は笑顔でフォローしてくれる。
まあ、何事も慣れれば簡単にできるようになるだろう。
そこからさらに練度を高めることもできる。
慌てずにやっていこう。
「おっと・・・・・・」
「大丈夫ですか?」
立ち上がろうとしたが、バランスを崩してしまう。
フィエラが心配そうに問いかけてくる。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと足が痺れているだけだから」
「そうですか。では、そろそろ訓練をおしまいにしましょう」
「そうだな。お腹もすいたし、夕食にするか」
彼女の提案を受け入れる。
窓の外を見ると、夕焼け空になりつつあった。
訓練でエネルギーを消費したのもあってか、ぐぅとお腹も鳴っていた。
「では、夕食を取ってきますね」
「いや、今日は俺も行くよ」
「えっ⁉」
フィエラが驚きの声を漏らす。
何をそんなに驚いているのだろうか?
「セバスさんに怒られますよ?」
彼女の言葉に何を驚いていたのか理解できた。
フィエラを専属に戻す際、理由の一つとして俺が調理場に行くことが外聞的に良くないと説教を受けた。
まあ、専属の使用人がいるのに貴族本人がわざわざ出向くのはその使用人が何もできないと示すことになる。
その結果、その程度の使用人しか雇えない貴族という評判になりかねないのだ。
「バレなければ大丈夫だ」
「・・・・・・バレたら大丈夫じゃないですよね?」
俺の言葉に呆れた視線を向けるフィエラ。
彼女の反応も理解できる。
性格が真面目な彼女はルールを破ることを良しとしない。
だからこそ、セバスの言いつけを守ろうとしているのだ。
「そもそも今日は呼ばれているんだよ」
「呼ばれている? コッホさんにですか?」
予想外の言葉にフィエラは首を傾げる。
どうしたら貴族が調理場に呼び出されると思っているのだろう。
言葉にして、俺もおかしいと思ってしまう。
彼女は俺を呼び出そうとした人物の心当たりを口にする。
料理長である彼ならば、まだ俺を呼び出す可能性があると思ったのだろう。
悪くはない答えではある。
「それは行ってのお楽しみだ」
「違うんですか?」
俺の反応にフィエラは怪訝そうな表情になる。
コッホ以外に呼び出すような心当たりがないのだろう。
俺も思いつかないので、それも当然だろう。
「誰に呼び出されたのかは俺も知らないんだ」
「知らないのに行くんですか?」
「コッホを経由して伝えられたからな。まぁ、おかしなことではないと思うよ」
「・・・・・・いつの間にそんなことを」
フィエラは呆れたような声を漏らす。
実は料理と一緒に呼び出しのメモが残されていたのだ。
それをフィエラに伝えなかったのは、彼女に事前に知られると止められる可能性があったからである。
コッホも意外といたずらが好きなようである。
「はぁ、わかりましたよ。セバスさんには内緒ですよ」
「じゃあ、行くか」
受け入れられたのを確認し、俺は立ち上がろうとした。
だが、フィエラが俺の肩を持って、椅子に座らせる。
「ですが、痺れが取れるまでは行かせません。いいですね?」
「・・・・・・わかりました」
近くで強く言われ、俺は従わざるを得なかった。
まあ、頼みを受け入れてもらったので、こちらもある程度は言うことを聞かないといけないだろう。
とりあえず、痺れが取れるまでじっとする。
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