第1話 悪役豚貴族は専属メイドと筋トレする
「98、99、100っ! よし、できたっ!」
腕立て伏せを目標の回数こなし、俺は床に身体を投げ出した。
腕の筋肉がパンパンで、呼吸も乱れている。
だが、目標の回数をこなしたことに清々しい気持ちに満ちていた。
「お疲れ様です。レモン水をどうぞ」
「ああ、ありがとう」
フィエラに感謝の言葉を告げる。
受け取ったレモン水を口に含むと喉に染み渡るのを感じる。
爽やかな味と匂いが心地よい。
「だいぶスムーズに動けるようになりましたね。見た目も良くなっていますよ」
「元々の見た目が悪かったからな」
彼女の言葉に思わず嫌みな言い方をしてしまう。
ポールは【悪役豚貴族】なんて呼ばれるほどのキャラである。
性格が悪いのは当然ではあるが、見た目の方もかなり醜悪である。
元々が悪いのであれば、少し痩せるだけでもマシになるわけだ。
「そういうことではありません。そもそも私は元々の体型も好きですよ」
「気休めはよしてくれ」
フォローしてくれているのだろうが、醜悪だったのは理解している。
同性から見ても不細工なのに、異性からの評価などさらに酷いだろう。
見た目の整っている彼女なら尚更である。
「気休めではないですよ。たしかに太っているのは不健康かもしれませんが、柔らかい肉は触るのが気持ちいいです。そういう意味では悪くないですよ」
「そ、そうか?」
予想外の褒め言葉に照れてしまう。
太っていることに対して悪いと思っていたが、違う見方をすれば良いように見えるのかもしれない。
そう考えれば、太っていることもあながち悪くもない──
「柔らかい肉は美味しそうですよね」
「・・・・・・」
──と思っていたが、勘違いだったようだ。
まさか食用として褒められているとは思わなかった。
たしかに柔らかい肉は美味しいが・・・・・・
思わず冷たい視線を向けてしまう。
「あっ⁉ 別にポール様のことは食べませんよ。 いくら犬の獣人でも人肉は食べませんよ」
「それなら良いが・・・・・・」
俺の視線に気づき、フィエラが言い訳をする。
まあ、彼女は俺のことを褒めようとしてくれたのだろう。
ただその言葉の選択がまずかっただけである。
流石に彼女が人肉を食べるようなサイコパスだとは思っていない。
「さ、さあ、筋トレの続きを始めましょう。次は腹筋です」
「ああ、そうだな」
フィエラは露骨に話題を変えようとする。
人肉を好むようなサイコパスと思われたくないのだろう。
内容自体はあれだが、自分の評判を気にして取り繕うとしているのは可愛らしい。
こういうところは年相応の少女なのだろう。
「こちらにどうぞ」
準備のため、しゃがみ込んでいるフィエラ。
彼女に足を向けて、仰向けに寝転がる。
そんな俺の足を彼女が押さえてくれる。
「いくぞ」
「どうぞ」
「1、2、3・・・・・・」
腹筋を開始する。
今の俺の体型では1人で腹筋できない。
そのため、押さえてもらう補助が必要なのだ。
そういう意味では、彼女が専属として戻ってきたのはありがたい話だった。
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