第10話 悪役豚貴族は再び目覚める
「うん・・・・・・いっ⁉」
寝ぼけ眼で左頬に触れてしまい、思わず短い悲鳴を上げる。
鋭い痛みで一気に眠気が覚めた。
「あ、ポール様」
近くにいた女性に声を掛けられる。
犬耳の可愛らしい雰囲気の少女──フィエラだった。
彼女は尻尾を振りながら、こちらに近づいてきた。
「ようやく起きましたか」
「え?」
予想外の声に驚きを隠せなかった。
視線を向けると、そこにはセバスがいた。
相変わらず鋭い視線を向けており、あまり気分がいいものではない。
流石に寝転がった状態はあれなので、上半身だけでも起こすことにする。
「お手伝いします」
「ありがとう」
起き上がるのに苦労しているとフィエラが手伝ってくれた。
こういう風に気が利くのはありがたい。
彼女のためとはいえ、専属を外したのは良くなかったかもしれない。
「で、どういう状況だ?」
起き上がった俺は周囲を見回してから質問する。
現在、俺は自室にいる。
それだけなら、まったくおかしな話ではない。
だが、俺は自室に戻った記憶はまったくなかった。
そもそも気がついたら、ベッドに寝ていたのだ。
それだけで十分おかしな話であろう。
「簡単に説明させていただくと、ポール様はメイドの一人による暴力で気絶されてしまいました」
「・・・・・・情けないな」
セバスの説明を聞き、思わずそんなことを呟いてしまう。
今の俺は女性からの暴力ですら気絶させられるほど弱い存在のようだ。
まだ鍛え始めてからあまり時間は経っていないが、ここまで弱いとは思ってもみなかった。
このままでは確実に生存ルートはないだろう。
「そんなことはありませんっ!」
「っ⁉」
いきなり隣で叫ばれ、心臓が飛び出しそうになった。
声の主はフィエラだった。
彼女は真剣な表情で俺を見ていた。
「ポール様は私を助けるために割って入ってくれました。情けないなんてありえません」
「・・・・・・」
「獣人である私はこの国ではまだ差別を受けています。さっきみたいな嫌がらせを受けても、耐えないといけません。それなのに、ポール様は危険を顧みず助けてくれました。とても嬉しかったです」
「そ、そうか」
熱心な彼女の言葉になぜか照れてしまう。
何の考えも無しで咄嗟に身体が動いただけなのだが、彼女は良いように解釈してくれたようだ。
まあ、否定するようなことではないので受け入れるが・・・・・・
というか、顔が近い。
女性慣れしていないので、綺麗な顔が近づくだけで緊張してしまう。
「こほん」
「「っ⁉」」
セバスの咳払いに俺とフィエラは距離を取る。
緊張していたのでちょうど良かったが、どこか残念な気持ちもある。
「私がいるのを忘れないでもらえますか?」
「「す、すみません」」
冷たい視線を向けられ、俺とフィエラは同時に頭を下げる。
だが、思ったよりもセバスからの敵意を感じなかった。
かなり嫌われていると思っていたが、一体どうしたのだろうか?
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