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ソシャゲの序盤で死ぬヒロインにTS転生したけど、とりあえず主人公くんをいじりたい  作者: あまぐりムリーパー
奈落の先の青空

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青髪ロングは辟易する

 本をパタン、と閉じる。放課後になったので、喧騒に包まれている教室を出た。


 私――琴塚怜奈はカースシーカーの一人。


 チームに編成されてまだ数日程度だけど、てんやわんやしてる日々を過ごしている。


 普段、本を読んでいるけど別に読書家というわけじゃない。周りの人間のことを気にしたくないので没頭するものが欲しいだけ。


 そういう意味では音楽でもいいけど。


 主に男の下卑た視線などを気にしたくはないし。

 だから、クラスでもずっと本に没頭するなりして、人と関わらないようにしてる。気を抜くと人の胸にしか興味がないゲスどもの視線を気にしてしまうから。


 そういう意味では、チーム内は憩いの場所になっているかもしれない。


 最初は警戒していたコネクター――篠崎渚からそういう視線を送られたことはない。


 というよりも、最近は相談してきたり、変に気安くなってるところの方が気になる。私は別に、コネクターとそんなに関わりたいわけでもないし。


 ……確かに明上ユーリと黒河希沙とは相談しにくいからそれは仕方ないだろうけど。とはいっても、私に相談をされても困る。一番話をきいてくれそうだから、らしいが。


 明上ユーリなら逆に相談ぐらい聞いてくれそうなものだけど。


「今年はまだ大丈夫そうだな」

「去年はこの時点で1チームぐらいは全滅してましたからね」


 廊下で話してる先生たちの声が聞こえる。


 ……こういう物騒な会話が聞こえてくることもあると、さすがにチームの連携も取れた方がいいだろう。


 とはいっても、他チームもそういう部分は難儀しているらしい。男女仲が進展してしまったせいで破綻したとか云々。多感な時期の男女が集まるチームでそんなことをしていたら当然だとは思うが。


 チームの部屋を開ける。まだ誰もいなかったらしい。

 いつも座ってる席で、本を開いた。紙の匂いがした。それをトリガーにして私の意識は本の中に吸い込まれていく……はずだった。


「よいしょー!」


 邪魔が入る。


 へんてこな掛け声と共に、小柄な少女が入ってきた。明上ユーリ、私と同じチームの一人。黙っていれば、儚げな美人に見えなくもない。


 明上ユーリがこちらを見ていたけれど、面倒くさいので無視した。本を開いて、それに目を通す。一人の時にあまり関わりたくはない。悪い人ではないけど、私と彼女ではテンションに差がありすぎる。


「ねえ、何読んでるの?」


 関わらないといけないらしい。


「推理小説」

「ふーん。ねえ、怜菜って渚くんのことどう思う?」


 こいつの頭の中には篠崎渚しかないのか?


「そうね、悪くない人だとは思うけど」

「好き?」

「そんなわけないでしょう」


 もう無視するか。


 私はこの少女が苦手だ。明るく振る舞ってはいるけど、どこか歪で不気味に見える。

 ふとした時に見せる物憂げな表情。まるですぐに消えてしまいそうな、そんな雰囲気をあの妙なハイテンションで隠している気がする。


 それから、あの発言。


『私がいなくなった後もちゃんとしてもらわないと困るし』


 まるで、これから自分が死んでしまうことを知ってるような口振りだった。聞いても教えてくれそうにはなかったけれど。


 思えば、これがコネクターとも話すぐらいはしてやるか、と思ったきっかけだった。明上ユーリという怪しい少女について、一人では対応できなさそうだから比較的ましな篠崎渚を味方につけられないか、ぐらいのものだったが。


 結局のところ、その真意はわからない。明上ユーリはいつまでもコネクターである篠崎渚にベッタリしているだけだ。……何をそんなに気に入ってるのかもわからないけど。


 それも、篠崎渚がやけに反応してしまうからだ。そうじゃなければあそこまでやらないだろうに。


「……ちわーっす」


 次に来たのは、黒河希沙。いつもは明るい彼女が、少しぼんやりしている。


 明上ユーリの方を向いてから、スッと視線を逸らした。明上ユーリも、気まずそうに顔を伏せる。

 この二人、何かがあったらしい。


 黒河希沙は、普段はただ明るく元気なだけだが、どうも今日は様子がおかしい。クラスメイトに強く当たるようなことが何回かあった、と廊下から聞こえてきていた。


 たまに陰りのある様子を見せるから、心の奥底には何かがあるのだろうが、それがはみ出している気がする。


「みんな、もう集まってるんだね」


 最後にやってきたのは、コネクターである篠崎渚。


「……どういう状況?」


 私が本を読んでいるのに、こっそりと話しかけてくる。面倒くさい。


「知らないわ。明上ユーリと黒河希沙に何かがあったんじゃない?」

「……あの二人、この前ハイタッチしてなかった?」

「してたわね」

「……何があったんだろう」


 はあ、と思わずため息が漏れた。パタン、と本を閉じる。


 私は人付き合いが苦手だ。何を話したらいいかわからなくなって、黙っているうちに冷たい人だと思われることが増えた。


 それなのに、チームの不和の解消に動かないといけないらしい。肝心の篠崎渚も、対応し損ねているようだし。


「黒河希沙、今日は調子が悪そうね」

「……んー」

「何かあったのかしら」

「知らなーい」


 ダメそうだ。ぐでー、と机に突っ伏して聞いてくれそうもない。


「もう少し、真面目に聞いてもらってもいいかしら」

「……うるさいよ。怖がり女なんかが話しかけてこないで」


 妙に口が悪い。顔を上げたと思えば、不機嫌そうに眉を下げてぎろっと睨んでくる。もはや噛みつかれそうだ。

 ……怖がり女って、あまり否定できないところが少し腹立たしい。


 これの原因が明上ユーリだというなら、何をしでかしたのやら。


「明上ユーリ、あなたはどうかしら」

「うん?普通でしょ、普通」


 こっちも聞いてくれそうにない。明らかに視界から黒河希沙を外しているのに、それが普通のように振舞っている。手鏡を見ながら髪の毛をいじってるけど、他にやることがないだろうか。


 篠崎渚の方に向けて、肩を竦めてみせる。これが私の限界だ。


 黒河希沙は見るからにおかしい。出撃の際に問題が起こらなければいいけれど。


 私は再び本を開いた。


 後は頑張れ、コネクター。


◇◇◇


「琴塚さん。最近、黒河さんが荒れ気味なのなんとかできないかな」

「ねえ、私は別にあなたの相談役とかじゃないのだけれど」

「一番話しやすいのが琴塚さんなんだよね」


 結局、私は篠崎渚の相談相手にされてしまっている。おかしい。私は静かに過ごしたいのに。

 この篠崎渚という男も腹立たしい。下心をもっていないような人間だから許してやってるだけで、好き好んでこれと関わりたいわけではない。……少し話すぐらいならまだいいけど。


 ただ、相談したい気持ちもわかる。


 黒河希沙の荒れ具合が日増しに酷くなっている。


 深禍関連の話に飛び付いて、勝手に一人で出撃したこともあるのだとか。


 ……私たち、カースシーカーはおおよそ深禍には並々ならぬ恨みを抱いてる場合が多い。おそらく、黒河希沙もその類いだろう。


 その気持ちが暴発してしまった、というところだろう。


 ……でも、私や篠崎渚はそのタイプじゃないからそれを理解してあげることはきっとできない。


 どうするのがいいだろうか。


「それこそ、明上ユーリに事情を聞いてしまえばいいのよ」

「うーん、教えてくれるかな」

「あなたにゾッコンだからいけるんじゃないかしら」

「いや、そんな感じじゃないよ!?からかわれてるだけだから。それに、明上さんも言いにくそうだから」


 結局、私たちにできることはないかもしれない。


 最初はどうでもいいと思っていたチームだけど、他に比べて居心地がましに思えるようになってきた。そのせいで、情が沸いてしまっている。


 黒河希沙、あの危なっかしい少女をなんとかする手段はあるだろうか。できるなら、なんとかしてあげたいけど。


 結局、その案を出すことはできなかった。


 何かできるなら助けてはあげたいけど、それをするのはきっと私の役割じゃないから。

 頑張れ、コネクター。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[アーカイブ]


 カースシーカーは偽名を名乗ることが可能です。

 これは、とあるカースシーカーの実名が発表されたことをきっかけに起こった事件の影響で追加された制度です。


 育成機関内では、その名前を公式のものとして扱います。

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