主人公くん、TS娘に悩む
いつも通りの朝。学校に向かう途中で、同じ制服の人たちを見かける。こうしてると普通なのに、彼らはコネクターだし彼女らはカースシーカーだ。そう思うと不思議だ。
僕には一つ悩みがある。……チームとかのこともそうなんだけど。
「なーぎーさーくーんっ!」
そう、今まさに迫ってくる明上さんのことだ。
手をぶんぶん振りながら近づいてくるものだから、周囲の人の視線が痛い。
待って、僕の通学路とかの話をした覚えはないんだけど。たまたま?
この人の目的が、ほんっっっっっとにわからない。
すごい頻繁に抱きついてくるし、手を握ってくるし、心臓が休まらない……。
からかわれてるのはわかるけど、なんで僕なんだろう。いや、チームを組んだからと言われたらそれまでなんだけど、組む前からロックオンされてそうな気配がある。
「ちょっと、無視しないでよ。ほっぺにちゅーしちゃうよ?」
恐ろしいことをさらっと言わないでほしい。
「お、おはよう明上さん」
「んふふ、おはよう渚くん」
にへら、と笑みを浮かべる明上さんはとても可愛らしい。天使かと思うぐらいには。
その瞳が、スッと細くなる。まずい。
明上さんの手が伸びて僕の手を握りしめる。指が、僕の指と絡まり合う。すべすべした指で、余計なことを考えそうな思考を振り払った。
「あ、あの……明上さん」
「はい、なんでしょう」
「手を離してもらえたりとかは」
「却下」
指から熱が伝わる。ここから燃え広がってしまいそうなぐらいに。
頬が熱くなるのを感じる。そんな僕の様子を明上さんが面白がって見てるのがわかる。……しょうがないじゃん、急に女の子に手を握られたらこうなるって。慣れないし。
「渚くん、顔あっか」
くすり、と明上さんが笑う。……それを見るだけでドキッとしてしまう。
「……明上さん、そろそろ離してくれない?」
「……もしかして、私のこと嫌いになったの?」
明上さんの瞳が揺れる。不安そうにこちらを覗き込んでくる。自然と上目遣いになって、引き込まれそうになって、心臓の鼓動が早くなっていく。
「い、いや……そういうわけじゃなくて……」
「あはは、ごめんね。意地悪しちゃった」
パッと手を離される。助かった……。それにしても、上目遣いはずるいって。
「で、どうですか?」
「えっと、何が?」
「そりゃあもう、チームメンバー渚くん大好き計画だけど」
その変な名前はどうにかならないんだろうか。チームメンバーと仲良くできそうかってことを聞かれてるんだろうけど。
「琴塚さんは話してくれるようになったよ。黒河さんは……まあ、いつも通り」
「……私は?」
にぃっ、と明上さんの口角が上がる。……もしかしてこのための前振りだったの?
もういっそのこと素直に答えてやろうか。
「……明上さんは本音が見えなくて、仲良くなってるのかはよくわからないよ」
「あはは、いいね。そういうところ好きだよ」
なぜか今日一番の笑顔だった。……何がお気に召したのかもよくわからない。ご機嫌ならいいか。……逆になにか怖いかもしれない。
「また気になったら相談してよ」
校門前についた。明上さんはひらひらと手を振る。
「どっちかというと、明上さんが一番わからないよ」
「そうだねー」
「うわっ!?」
明上さんの背を見送っていると、突然耳元から声がした。……いつの間にか黒河さんがいたらしい。
「おはよー、コネクターくん」
「おはよう、黒河さん。……急に耳元で話されるとびびるんだけどさ」
「ごめんって。ユーリといつも登校してるの?」
「いや、違うよ。たまたま朝見つかって」
「へえ、見つかったんだ」
けらけら、と黒河さんは笑った。なんというか、明上さんと一見して似たような雰囲気なのに、感じる印象はかなり違う気がする。……明上さんにからかわれすぎてるだけかもしれないけど。
「黒河さんって、明上さんとはもう仲がいいの?」
「んー、そうでもないよ。ちょっと話しただけ。コネクターくんの方が仲良しじゃない?」
「仲良しなのかなあ」
「あはは、からかわれてるだけだもんね。……でも、ユーリがあんなに熱烈なのは君に何かがあるんだよ。……たぶんね?」
スッと、黒河さんの声が冷える。一瞬だけ、笑みが剥がれて真剣な目付きになった後、すぐにいつも通りに戻った。
「じゃあ、お先ー!」
そそくさと、黒河さんは校舎内に入っていく。
まあ、挨拶できる程度ならいいのかな。
◇◇◇
「ということで、みんなと仲良くなれてるのかなって」
「なんで私に聞くの???」
放課後になったので、チームの部屋にたまたまいた琴塚さんに今日の今朝のことを話していると、困ったようにため息をつかれた。
……なんか、たまたまクラスメイトに今朝のことを見られていたらしくて、軽く問い詰められて疲れた。それでようやく放課後、心が休まる時間が来たってことだ。
やっぱり、明上さんが一番の問題かもしれない。
「琴塚さんが一番話を聞いてくれそうだからかな」
「……そう。あまり嬉しくはないわね」
比較対象があの二人だからだろうか。
「なんか、どう仲良くなったらいいのかわからなくて」
「仲良くならなくてもいいんじゃないかしら。私たちは友達になるためにチームにいるわけじゃないわ」
「……でも、琴塚さんはコネクトリンクしてくれないし」
「うぐっ……あまり人と触れたくないの。いいでしょう?」
キッ、と睨み付けられた。握手をしてくれたのは、覚悟決めた瞬間だったからいけただけで、普段から触るのは無理ってことなんだろう。
「なーに話してるのっ!」
「……明上ユーリ、ちょっと声量を抑えてちょうだい」
「えっ、背と胸はちっちゃいのに声はでかいって言った?」
「どう聞き間違えたらそうなるのよ」
勢いよく明上さんが入ってきた。……この人が一番みんなと仲いいんじゃないかな。
「渚くんも、朝ぶりっ!」
「うわっ……ちょっと引っ付かないで」
「やぁだぁっ!」
この人、油断するとすぐ背中に引っ付いてくる!というか、離れてくれないし!
「ここで盛るのはやめてもらえるかしら」
「盛ってないからね!?明上さんも離れて!」
「えー、渚くんが冷たい……」
とぼとぼとしながら、なんとか離れてくれた。……心臓に悪い。
「で、なんの話してたの?あっ、コイバナとか?」
「コネクターがみんなと仲良くなれてるのか不安らしいわ」
「ふーん、そういうね。まっ、コネクトリンクしないならコネクターがお荷物かもってなるもんね」
……とても痛いことを言う。僕たちコネクターの役割はコネクトリンクに寄る回復と能力向上の補助だけだ。
それができないのなら、戦場で守られてるだけの邪魔な存在になってしまう。リーダーを任されることは多いけど、戦いの指揮なんてそう簡単にできるものじゃないし。
「そうだなあ、せっかくだから経験豊富なお姉さんが教えてあげよう」
ふっふっふっ、と自慢げな明上さんを僕たちは不思議そうに見ていた。お姉さんって感じではなくない?
「まず敵である深禍ね。なんでそんな名前がついたかわかる?あれはね、呪いみたいなものだと定義付けられたんだよ。通常兵器が効かないだけじゃない。普通の人はあれと関わると致命傷とか受けてなくても、体がおかしくなる。具体的には言わないけどね。まあそんな変な存在だから輪郭がぶれてたりするんだろうね」
彼女の真面目な語り口に、思わず僕も琴塚さんも黙って耳を傾けていた。
「で、私たちカースシーカーやコネクターはその影響をあまり受けない。ちょっとした行動をするのでも、コネクターがいないと困る場面はいくらでもあるよ。なので、あんまり深く考えずにコネクターの皆さんは補助と指揮とかやってね!ってことです」
「……明上さんって本当に経験者みたいなことを言うね」
「経験者かもよ?」
冗談目かして笑う。やっぱり、この人が本当のことを言っているのかはわからない。
「あー、あと。こういう出来立てチームとかじゃないなら普通はコネクトリンクで全員と繋いだ状態で出撃するからさ。そうなると、まあ色々あって指示が出しやすくなるの。だから、渚くんはさっさとチームメンバーみんなを侍らせよう!」
「真面目だったのに……」
「まず、そこの怜菜から落とそう!」
「変なことに巻き込まないでくれる?」
「じゃあ希沙か……」
いない黒河さんにそれを振るのもどうなんだろうか。
……別に落とさなくてもいいんじゃないか?
「あ、私でもいいよ?試す?」
「遠慮しておくよ」
「えー、今なら渚くんを大好きになってあれやこれやしてあげるのに……」
そういいながら、結局は僕の背中に引っ付いてきた。
「……なんで背中に引っ付くの?」
「こうするのが好きだから」
……耳元で囁かないで欲しい。
そのまますりすり、と頬を擦り付けてくる。……小動物?
……動けないし恥ずかしいんだけど。うう、いい匂いがする。
最終的に見かねた琴塚さんに剥がされていった。
……琴塚さん、ありがとう。まずはこの人と仲良くなりたいかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[アーカイブ]
深禍に対してカースシーカーとコネクターが対抗できるのは力の源が同じなのではと考えられています。
深禍が湧き出してくる、未知の場所がそのようなエネルギーがあるのではと議論になっていますが証明はされていません。




