等身大の女の子
手に温もりを感じる。繋いだ手の先に明上さんがいた。
「何?」
じろり、と睨まれる。明上さんを助けて以降、少しだけ当たりが強くなった。
あの日、第五深禍災害の時以降こうして明上さんは肩肘張らずに接してくれるようになったけど、心は不安定みたいで、前みたいに女の子っぽいときもあればぶっきらぼうな時もある。
明上さんが言うには混ざり合っててよくわからない状態らしい。どちらも自分だから制御できないんだとか。
「いや、明上さんがちゃんとここにいるなって」
「……変なやつ」
ぷいっ、とそっぽ向いた。
アバドン化の進行を食い止めるために、たまにこうやって手を繋いでコネクトリンクしないといけない。
……その影響で、休日に明上さんの部屋まで来てる。
女の子の部屋で二人きりっていうのも、あまり経験したことがなくてちょっと落ち着かない。
こうやってずっと、コネクトリンクを繋いでいるけど深めに繋がないといけないらしくて、そのせいで明上さんの記憶を何回も見ることになってしまった。
ゲームをしているらしい明上さんの記憶だとか、妹と話してるときの明上さんの記憶だとか。
それから、雲山悠里さんと絡んでるときの明上さんの記憶も。
……こうやって明上さんのことを知ってしまうのは正直、あまり気持ちよくはないんだけど。
明上さんもあんま知られたくないみたいで、たまに小突かれる。不可抗力なのに。
そういえば、あれからは明上さんから変に接触されることはない。たまに、僕のことを精神安定剤だからとか言って近づいてくることはあるんだけど。
精神安定剤って何?
逆に、僕がそういうことをしたらどうなるんだろう。
握っている手の指を、不意に絡めてみる。びくり、と明上さんが震えて逆に握る力を強めてきた。ちょっと痛い。
「何すんだよ」
頬を紅潮させて、睨まれた。
「いつも、明上さんと手を握ってるときはこうだったなと思ったらつい」
「んだよ、そんなこと掘り返してくるな」
「反応がよくてついしてしまうってこういうことか」
「……え、お前今後もやろうとしてない?」
「やり返してもいいかなとは」
「変態」
そう言いながらも、ぴとっと肩を寄せてきた。そのまま、もたれかかってくる。これは、甘えてるのかな。
明上さんって前から思ってたけど、猫みたいだ。
「なんかさ、たまに全部怖くなって寂しくなるんだよ。気持ち悪いよな俺」
よく見ると、肩が少し震えていた。
明上さんは、最初はずっとよくわからない人だったけど、今はもうただの傷ついてる女の子だってことがよくわかる。
心はまだ不安定みたいで、たまに弱音をぽろっと漏らす。頼られてる部分は嬉しいけど、放っておけない。
「気持ち悪くないよ」
「……こんな面倒くさいやつに構ってるお前に聞いたのが悪かったな」
「うーん、面倒くさいと思ったことはないけど」
「じゃあ、これから思うんじゃね。たぶん、すぐ不安になったりもやもやしたりして、お前を振り回すことになるよ。あーあ、なんか私ってすごく弱くなっちゃった。暗い気持ちとか全部飲み込めてたのに」
僕に少しずつ体重を預けてくる。くっついてる肩から少しずつ熱が伝わる。
「その気持ちが軽くなるまで付き合うよ」
「……じゃあ今日泊まっていって」
「えっ」
急に何を言い出すんだ。泊まるのは、さすがにやばいんじゃ。
「このまま、なんか夜まで気持ちが持ちそうにないから。あんま、一人ぼっちになりたくない」
「でも、さすがに泊まるのは」
「いいから」
「ほら、寝るところとかもないでしょ」
「一緒にベッド入ったらよくない?」
「それはダメでしょ。どうするの、僕が変なことしたら」
「ちょっとぐらいならしていいから」
「よくないよ!?」
ダメだ、今日の明上さんはどこおかしい。それだけ、一人が不安なのだろうか。
せめて、明上さんがまともに過ごせるように手を差し伸べてはいきたいけど。夜まで寄り添うぐらいならいいんだけどね。
「……じゃあ、名前で呼んでくんない?」
「えっ?」
「いつまでも明上さんはやだ」
「……えっと、蒼空さん」
「うん」
満足したのか、僕に体を預けるのをやめて少し離れた。
「でも、やっぱ寂しいから今日ここにいろよ」
「まだ言うか」
……僕の理性を試そうとしてるんだろうか。さすがに、勘弁して欲しいけど。
まあ、頃合いを見て帰ろうかな。
と、思っていたけどなぜかベッドで添い寝する形になっている。なんで?
帰ろうとしたところ、明上さん……じゃなくて蒼空さんに強引に掴まれて、ベッドに連れ込まれてしまった。
……なんなら、そのまま抱きつかれている。接触している方が、安心するらしい。あの、僕の気が休まらないのですが。
甘い匂いがふわり、と鼻腔をくすぐる。……そもそも、ここは普段蒼空さんが寝てるベッドだから蒼空さんの匂いで充満してるんだよな。
いや、何を考えてるんだ僕は。
背中に柔らかい感触が伝わる。すごいぴったり引っ付いている。……これ、たぶん蒼空さんが寝た後も逃げられないんじゃないだろうか。こっそり帰ろうかなと思ってたんだけど。
「渚くんの匂いがする」
「……えっと、どうも?」
ダメだ、答える言葉もなんか変になってしまう。
おかしいな、最近はくっつかれても平気だったんだけど。さすがにシチュエーションがおかしいからかな。
「こうやってくっついてるとさ、うなじ辺りから匂いがするんだよな」
「……なんの解説?」
「なんとなく」
なんとなくかあ、じゃあ仕方ないかな。
……蒼空さんは、悪夢をよく見ていたらしいけど、僕がこうやってひたすら困るだけでそれが解決するならいいのかもしれない。
これで、安心できるっていうのもどうかと思うけど。
夢か、ふと思ったことを聞いてみるか。
「そういえば、蒼空さんに会う前に蒼空さんがランヘリだったっけ?それをやってる夢みたいなのを見たんだけど、あれってなんでなのかな」
そう、おそらくあの第五深禍災害時にアバドン化した蒼空さんが死ぬような光景の夢。あれが結局なにかわからなかった。
コネクトリンクが繋がっていたのでは、という話はしたけど、なんで繋がっていたのかもわからないし。
「……コネクトリンクは、カースシーカーが強くコネクターのことを考えてたりしたら、勝手に繋がることもあるらしいから、たぶんそれ」
「……あー、会う前から僕のことを知ってたから?」
「うん、私は篠崎渚のことが大好きな明上ユーリだぞって強く思い込んでたから、そのせいかも」
コネクトリンクにはよくわからないことが多い。だから、そういうこともあるのかな。
……これが本当なんだったら、コネクターの中には勝手にカースシーカーの過去を夢で見せられてるような人もいるのか。大変だ。
「じゃあ、これからも蒼空さんが僕のことを考えてて、夢を見せられることもあるってことかな」
ぎゅっ、と抱き締める力が強くなる。
「あの、蒼空さん。痛いです」
「変なこと言うから」
「……ところで、そろそろ帰ってもいい?」
「ダメ」
「ダメかー」
結局、僕は蒼空さんの抱き枕になって寝ないといけないらしい。寝れるかな、これ。寝れないだろうなあ。
翌朝、昨日やったことを思い出して顔を真っ赤にしながら部屋の隅で反省してる蒼空さんの姿があった。
……さすがに、あそこまでやるのは素じゃなくてよかった。




