TS娘、チームメンバー渚くん大好き計画を開始する
瓦礫の山が延々と続く景色、赤いポニーテールの少女――黒河希沙が立つ。軽装で手にはガントレットのようなものをはめている。いつも快活に笑ってるけれど、今日凛々しい顔で佇んでいる。
希沙の目の前にいるのは――蜘蛛。すべて一メートルほどはある、肥大化した蜘蛛の集団。これが深禍、今世界を脅かしている化け物たち。
深禍の形状は決まってない、その時々で変わる。ただ、地球上にある生物を模倣する。それらは、輪郭があやふやになっていて、ひどく不気味に見えた。
「《ソウルフレイム》――"爆裂拳"」
希沙がガツンと拳同士をぶつけると、炎が宿る。蜘蛛の一匹が飛び出した。ザザザ、と蜘蛛が迫ってくる。
蜘蛛が希沙へと迫るその瞬間、正面に拳を打ち込んだ。拳が蜘蛛へと衝突するその時に、炎が激しく燃え上がり爆発する。
「――ッ!!!」
ひどく耳障りな悲鳴が響く。それが深禍の放つ特殊な声だ。
「《ソウルフレイム》――"爆熱連打"」
再びガンっと拳同士を合わせると両手に大きく火が点いた。
そのままその大群に突っ込んでいく。一匹目を殴り、爆発。その衝撃で上に飛び、二匹目にラッシュを叩き込む。断続的に轟音が鳴り響く。
殴り終えると、深禍はもうすでに動いていなかった。……ただ、殴るのに集中しすぎたせいで、その横を深禍が通り抜けていた。
希沙を抜けて、深禍の正面にいるのは小柄な少女――明上ユーリ。触れれば消えてしまいそうな儚げな容貌を持つ少女は、その場所にひどく不釣り合いに見える。
その後ろには、少年――篠崎渚がいた。深禍を見て少し後ずさる。
「《セイントアーツ》――"ウォール"」
深禍が口から糸を吐き出す。それは弾丸のように飛んでいくが、ユーリの前に突如現れた光の壁に阻まれる。
「渚くん」
「え、うん。"コネクトリンク"」
ユーリが手を差し出すと、それにおずおずと渚は手を合わせる。渚からユーリへと光っているなにかが流れる。
コネクターの力、『コネクトリンク』。触れたカースシーカーを強化する能力。それこそが渚に与えられた役割。
強化されたユーリは、壁を抜けて迫り来る深禍を迎え撃とうと走る。
「《セイントアーツ》――"ランス"」
光の槍が出現した。それを握りしめて、深禍に向かって振るう。複数ある足の一本が切り飛ばされた。
バランスを崩した深禍は動きを止めて倒れる。再び動こうとしたとき、ひんやりとした空気が流れた。
「――凍れ」
冷たい声が響く。怜菜から流れていく冷気が深禍へと少しずつ進む。
冷気が深禍を包み込み、パキパキと氷漬けにしていく。全身が完全に凍ったあと、すぐにひびが入って粉々に崩れていく。
「さっっっむ!!!」
崩れた深禍の横でユーリは震えていた。怜菜の冷気が直撃はしていないが、その余波で凍えていた。とはいっても、少し寒いぐらいで問題はない。
カースシーカーはとんでもなく頑丈だからそれぐらいでどうにかなったりしない。とはいっても寒いものは寒いが。
「初出撃、おつかれー!寒そうだねー」
一番動いていたはずの希沙が元気よく手を振りながらユーリの方へと駆けていく。
「……その、お疲れ様。もう倒したのならいいでしょう、私は失礼するわ」
そそくさと怜菜は去っていく。帰り際にユーリの方を少しばつが悪そうに視線を送っていた。
「え、なんか解散の流れ?じゃあ私もー!」
希沙も同様にさっさと帰ってしまった。
残されたユーリと渚の二人はお互いを見合わせる。
「渚くん、まだ嫌われてるねえ」
「そ、そうなのかなあ……」
本気で落ち込んでいる渚に、ふふっと笑って後ろから抱きしめた。
「ふあっ!?」
「暖かいなあ……このまま独り占めしちゃおっかな。なんてね」
パッと離して、すぐにユーリも帰っていく。
「……なんか、女の子と関わるのって難しいな」
その場に残された渚はポツリと呟いて空を仰ぎ見た。
◇◇◇
今日も渚くんを摂取してきました。いやー、いきなり出撃なんて言われると困りますよね。
学生とか関係なく、たまにこうやって仕事してね!っていうのをチームに振られるんだよね。チーム結成した私たちはもうその対象って訳です。
っていうかさ、組んで次の日に出撃してね!は鬼畜すぎない?よく死人でなかったよね。他のチームもギリギリだったらしいしさ。本当に寒かった。
……ということで、とりあえずチームメンバー渚くん大好き計画を進めていきたいと思います!
えっ、どういうことかわからないって?
黒河希沙と琴塚怜菜の二名に、渚くんを好きになってもらうってことだよ!
なんでかっていうと、仲良くなってもらわないとあんまり強くならないからね。
なぜなら、そうしないと渚くんたちコネクターの能力であるコネクトリンクを使ってもらえなかったりするからね。
これがないと、下手すると死んでしまう。今はまだ大丈夫だけれども。
カースシーカーたちは、みんなろくな過去を持っていない。力が発現するのが基本的に、深禍が暴れてるときだからね。そのときの強いストレスとかで発揮するらしいけど。
ともかく、そんな心の閉じたカースシーカーたちが、主人公である渚くんに絆されて、コネクトリンクを受け入れてもらうっていうゲームの流れが必要なんです。
ゲーム上だと、その辺は私が渚くんを導いてやっていましたからね。
だから、いじりながら仲良くなるのを手伝おうねってこと。……昨日の手を握った時の渚くんと今日の抱きついたときの渚くんよかったなあ。
……ちょっとだけ気になるんだけど、渚くんが私のこと最初に見たときに驚いてたんだよね。何かあったのかな。後で聞いてみようかな。
というわけで、早速始めていきたいんだけど。
まずは、チームメンバーたちの話ね。まずは琴塚怜菜。
クーデレ風のヒロインだね。で、この子には特徴がひとつある。それは、胸がでかい!
いや、これは私の奥底のおじさんが出てきたわけではなくて。
それかよってなるけど意外と重要なんだよね。怜菜って、プロポーションが抜群なんだけど、そのせいでちょっと男からいやーな目線で見られちゃう。まあ、他にもあるんだけどそれはおいおいね。
そういうのがたくさんあったから、男が苦手なんだよね。なので、そういう感じの人じゃないとわかってもらえたらいいよね!ってこと。
逆にこういうキャラだからこそ、デレた時の人気とかがすごかったんです。別衣装とかもすごい人気でガチャ回る回る。
怜菜は単純に男性が苦手なだけだから、そこを克服すれば一旦解決ってこと。
次に、黒河希沙。
快活で明るい子だね。赤髪ポニテもよく映えててかわいい。
そんな彼女だけど、明るさは誤魔化してるだけで本当は暗い感じの子なんだけど、そうなった経緯は深禍が暴れて大ピンチのところにどさくさに紛れて希沙に迫った男がいたんだよね。
それで、男が苦手になったってことなんだけど、こっちはちょっと難しいね。トラウマみたいなものだから、頑張ってお互いの理解を深めてもらうしかない。
だから逆に、全部解決してさらけ出してからはめちゃくちゃぐいぐいくるタイプなんだよね。
というわけで、怜菜の方の方から進めていくよ。
ちなみに、ゲーム上のストーリーでも怜菜の話の方が先だったりする。
渚くんに伝えてもいいけど、ちょっと怜菜の様子でも見に行こうかな。
チームの部屋とかにいたりするかな。
「あっ」
と、思っていると廊下でばったりと遭遇した。
「……明上ユーリ」
フルネーム呼びなんだ。
冷たい視線に貫かれる。怜菜って身長が高くて、こじんまりとした私からするとちょっと大きく見える。綺麗な容姿もあわせて大人っぽい。
ただ、表情はぴくりとも動かない。顔から様子を伺うのは難しそうだね。
「その今日はすまなかったわ」
「あー、寒かったね。別にいいよ」
「……軽いわね」
けらけらと笑う私を不気味なものでも見るように、視線を送られてる。寒かっただけだし、そんな気にすることでもないのに。
「琴塚さん、怜菜って呼んでいい?」
心の中では呼んでますけど。だって、ゲームで知ってるキャラだし……。
「……あなた、距離の詰め方すごいわね」
「えへへ、どうも」
「褒めてないわ」
呆れたように眉だけは動くけど、それでもあまり表情がわからない。これがデフォなんだけども。
「怜菜って、氷みたいなスキルなんだね」
「名前呼び許可してないのだけれど」
「えっ、ダメなの?」
「……別にいいわ」
はぁ、と呆れたようにため息をつかれた。
怜菜が見せつけるように手のひらを開く。寒い日に吐いた息みたいに白いものが流れていく。恐らく、冷気だと思う。
「私のスキルは氷とかそういうものじゃない。魔法みたいなものよ」
「ふーん」
スキルというのはカースシーカーたちが持っている能力だね。カースシーカーの能力っていうのはあんまり統一されてない。
初期の頃は魔法みたいな能力が目立ったから、カースシーカーではなく魔法少女って呼ぶ案もあったらしいけど、それはちょっとジャンル的に微妙だよね。
で、怜菜のスキルはシンプルな魔法のような能力。遠距離からバコバコ撃てるのが魅力だよね。ゲームでも、前衛で守りながら後ろから怜菜でぶっぱしてるのが基本だからね。
怜菜の手のひらの様子を眺めていると、怜菜が少し考えた素振りを見せてから口を開く。
「逆にあなたはイメージとはそぐわないわね」
「えぇ、そうかなあ」
私のスキル、セイントアーツはちょっと神官とかが使いそうな見た目してるけど。防御も攻撃もできて便利なスキルなのに。
「もっと陰湿そうな能力だと思っていたから」
「どういう偏見???」
えっ、私のイメージはどうなってるの?
そもそも、怜菜ってもうちょっと人間に興味ありません。みたいな雰囲気なのに、そんなグサッとくる言葉出してくるタイプだっけ……。
よく見ると、今までに比べて表情が柔らかい。
あー、冗談ってこと?わかりにくいってば。
「……そういえば、あなたってコネクターと仲がいいのね」
少し間を置いて、怜菜は口を開く。その瞳は今までと比べると真剣にこちらを見つめている。
仲いいかあ、確かにぐいぐい行ってるけど。……これ、接触しすぎって言われてるのかな
「もしかして、皮肉言われてる?」
「別にそんなつもりはないけれど。あなただけ、コネクターとの距離がやけに近いような気がしたの」
「うーん、それは私が渚くんを気に入ってるだけだけど」
「……それは、随分な気に入りようね」
「えー、手を繋いだり抱きついたりしてるだけだよ?」
「……」
黙り込んでしまった。正気か、とでも言いたげに目を見開いている。
今までで一番感情が出てて面白い。
「怜菜は逆に、渚くんのこと避けすぎじゃない?男の子が苦手ってことなんだろうけど」
「……私、そんなこと言ったかしら」
怜菜が眉をひそめる。……図星ついて、イラッとされたりしたかな。
「え、見てたらわかるでしょ。近寄るなーってオーラ出してるし」
「別に、あなたのことも苦手よ」
「えっ」
私のことも苦手なんかい。なるほど、男だけじゃねーよっていう不満ねオッケー。
「確かに、男のことは苦手よ。でもあなたのことも少し苦手」
……これもしかして、魂の奥底に沈んでいるおじさんとしての私の魂を見破られているってこと?
そんな、私は割と女として磨いてきましたよ???
「んー、まあ私のことは嫌いでもいいけど」
「そこまでは言ってないけれど」
「渚くんとのコネクトリンクぐらいはちゃんとしてね」
「……機会があればね」
目を逸らされた。嫌か、そんなに。……私が胸が全然ないから、あなたの気持ちはわかんないけどさ。ちっちゃくて子供っぽいし。
「筋金入りだね」
「……放っておきなさい」
うん、わかるよ。人付き合い苦手だと、放っておいてほしいよね。
「やだね。私がいなくなった後もちゃんとしてもらわないと困るし」
「……いなくなった後?」
あっ、やば。ちょっと口が滑ってしまった。
誤魔化そう。口元に人差し指を立てる。
「……内緒」
軽く微笑んで見せる。どう?
えっ、すごい怪しまれている。目を細めてじーっと見られている。
「……よくわからないけれど、努力してみるわ」
「え?」
「コネクターとのその、コミュニケーションとか……」
……なぜか心変わりしてる。じゃあ、いいか。経過を見るけど、一旦クリア!
「よかった。何かあったら言ってね、手伝うぐらいはするから」
手をぶんぶん振って、怜菜と別れた。
あー、渚くんをちょっといじりたくなってきた。
チームメンバー渚くん大好き計画、突き進んでいくぞー!
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[アーカイブ]
深禍:ある日急に突然発生した人類の敵。通常兵器が通用しないので対抗手段はカースシーカーとコネクターしかない。
深禍の姿は地球上の生物や物体と同じ形状や性質を取るが理由は解明されてない。




