その後
今、私は病院のベッドで寝かされています。
第五深禍災害はなんかもう、無事に終わって死に損ねちゃった私はこうやってなんか顔を合わせにくくて縮こまっているわけです。
……なんか、こう色々とありすぎて気持ちに整理がつくのもだいぶ後になってしまいそうな感じ。
私の中に、ずっと悠里はいたらしい。なんか、複雑な気持ちだ。遠くにいってしまったと思ったのに、それを知った後には消えたし。
確かに、カースシーカーの力がコネクターに継承されるような事例があるんだから、コネクターの残滓みたいなのがカースシーカーの中に残ることもあるのかもしれない。
コネクトリンクの繋がりって、正直よくわからないしそういうこともあるんだろう。
……っていうか、俺って助かることあるのかよ。
あの物量の深禍を倒すのは結局アバドン化しないとたぶん無理だ。
だから、アバドン化はしないといけない。
希沙がちょっと頑張ってある程度粘れてたけど、たとえ明上蒼空がある程度安定したスペックを持っていたとしても、まあ無理だろうな。万能型であって、殲滅能力は低いし。
私の死ぬルートとしては原作通り、アバドン状態での体の崩壊と共に、渚くんへ継承して終わるつもりだった。
タイトルのラスト・インヘリタンスは最後の遺産のような意味合いを持っていて、これは死に際のカースシーカーが最期に力を託すことを意味してる……らしい。
運営がそんなことを言ってたような気がする。
だから、一章の終わりに篠崎渚はカースシーカーのスキルを使える唯一のコネクターとして二章以降活躍していく予定だった。
支援だけするタイプではなく、一緒に戦ってくれるタイプのソシャゲ主人公になるってわけ。
まあ、ならなかったんですけど。
いや、大丈夫かなこれ。今後の進行に影響しねーかな。
そりゃね、ここに奈落帰りみたいになって強力なカースシーカーが生き残ってるから戦力的に劣ってるかと言われると微妙なんですけどもね?
あと、私の状態だけど奈落帰りって感じではなく、完全にアバドン化しかけてるところから戻ってきたので、髪の色も目の色も変わったままになってしまっている。
とても珍しい状態なので、研究されるらしい。モルモット明上です。まあそこまで酷くはないけどね?
病院にいるのも、そういう理由があったりする。ちょこっと検査してもらうらしい。
と、まあぐだぐだと色々言ってるけど、俺の心ん中は相変わらずぐっちゃぐちゃでなんかもうよくわからない。
なんか、私と俺がまだ混ざりあったままだし。
悠里に背中を押されて、何もやりたいことなんてないしなあとか思ってたら、主人公くんから、助けて欲しいと言われて……役割を与えられたならなんかそれはもういいかなと思ってしまった。
でも、何していいかわかんないって言ってんのに、助けて欲しいを解答にしてくるのはどうなの。
それで納得しちゃった私も私なんだけどもね。自分がよくわかりません。
正直、悠里に背中を押された時点で少しは生きてもいいかなとは思った。でも、歩く力はなかった。そこに、立ち上がる理由を渡されてしまった。ずるいやつだ。
「明上さん」
「……なぁに、渚くん」
ずっと、ベッドの横で座ってる渚くんの方を向く。私の手は渚くんに握られていた。
私の状態はちょっと特殊で、気を抜くとすーぐアバドン化が進行してしまってやばいことになるから、コネクトリンクを深く繋ぐために接触が必要らしい。
まあ、ずっとする必要はないんだけど定期的にしないといけない、みたいなね。
私はもう、明上ユーリをするつもりはない。まあ、あのキャラの片鱗は残ってるけど、別に偽る必要がなくなったから。
なので、渚くんをいじるって気持ちも特にない。
……そのせいで、こうやって手を繋いでるのがなんか恥ずかしくなってきた。おかしいな、そういうキャラじゃないんだけど。
「明上さんってそのキャラなの?」
「なんだよそのキャラって、女の子らしくしてたら不満か?」
「いや、無理してるんじゃないかって」
「してるわけないだろ、バーカ」
ぶっきらぼうに返すと、ははっと渚くんは頬を緩ませた。
なんかムカついたので繋いでる力をちょっと込めると、顔をひきつらせた。いい気味だよ。
「ってかさ、今思ったんだけどあのときのお前の説得ってわりと無茶苦茶だったよな」
「……まあ、言われてみればそうかも」
「手を伸ばしてくれるのかと思ったら、心をぶん殴ってから助けを求めてくるしさ、そういうのあり?」
「でも、君は普通に手を差し伸べても取ってくれないでしょ」
「……」
何も言い返せない。
こちとら簡単に救われてやる安いやつじゃないし。……意地張ってるだけだけどさ。
「そういえば、ずっと思ってたんだけど」
「うん」
目が合う。真剣な表情に息を飲んだ。
「明上さんが僕によく引っ付いてきたのってなんでなの」
「そんな真剣な表情で聞くことか?」
「いや、ずっと気になっていて」
「もっとあるだろ!コネクトリンクで見た光景はなんだったのか、とかさ!」
あの後、少しだけこいつからコネクトリンクで俺が前世でランヘリしてた光景を見てたことを聞いた。
悠里だけじゃなくてお前にも見られるんかい、とは思ったけど。どうせ、生き残るならいつか言った方がいいしな。
「まあ、それも気になるけど。でも、コネクトリンクで見たってことは、明上さんの記憶なんだから、この世界はゲームが元になっているとかそういう話なんでしょ?」
「飲みこみが早すぎるだろ」
「自分でも不思議なんだけど、そういうことなんだと思ったらすんなり理解できたから。それよりも、実際あんなに引っ付いてきたのって何か意味あったの?」
「…………反応がよくてつい」
「……えぇ」
渚くんは目を細めてる。思ったより下らない理由だって思ったか?
そんなもんだろ。
「お前が反応しすぎだから悪いよ」
「……普通、明上さんみたいな人にベタベタ引っ付かれたらそうなると思うけどね。そもそも、僕がその気になったらどうするつもりだったの」
「どうしたんだろうな」
「何も考えてなかったの?」
「まあ、それで惚れられてもいい思い出にはなったかも」
「酷いなあ」
「別にいいだろ、実際惚れたわけじゃないんだから」
「……そうかな?」
「えっ」
こちらを見る視線が鋭くなる。
どきり、と思わず鼓動が跳ねた。繋いだ手が熱い。
えっ、そういうこと?
マジ、マジか?
いやでも、救われた俺が惚れるならまだしも、お前が惚れる理由はなくないか。
待て待て、俺が惚れるならまだしもってなんだ。別に俺が惚れるのも変だろ。
……確かに、私はこいつのことを認めてやってるし、こいつのためなら多少無茶してもいいかなとは思ってるけど。
少なくとも、今後生きてもいいなと思った理由に渚くんを含めてはいるし。
なんか、おかしい。考えがまとまらない。
「ははっ、ごめん。冗談だよ」
「……っ、お前さあ!」
頬が熱くなる。
そういう気持ちの伝え方かと思ったじゃん。
「でも、前の明上さんにはずっとこうされてたけどね」
「そうかよ」
ぷいっ、とそっぽ向いてシーツに顔を埋めた。手は繋いだままなので若干不自由でむかつく。
こっちがいじられるのはなんか違うでしょ。ばくばく、と飛びそうだった鼓動も落ち着いてきた。
「……そういえば、チーム名を決めてないんだけどね。そのゲームの中でもチーム名ってあったの?」
「……ブルースカイ」
「え?」
「ゲームでのチーム名はブルースカイだよ」
理由はまあ、その。原作の篠崎渚は、明上蒼空が死んだことをすっごい引きずってた。
だから、それをチーム名にしてしまった。希沙も怜菜も、明上蒼空のことを結構気にかけてたから、それに賛同してしまう。拗らせチーム過ぎる。
「ふーん、じゃあチーム名それにしようかな」
「は?」
思わず飛び起きた。
「僕たちのチームは明上さんがいないと成り立たないし。いいでしょ」
「……もう勝手にしなよ」
もう面倒くさい。勝手にどうぞって感じだ。
こいつさ、なんか俺のこといじろうとしてない?ちょっとムカつく。
――がらがらがら、と扉が開いた。
「ユーリ……じゃなくて蒼空ちゃん!」
「明上蒼空、元気そうでよかったわ」
「明上ー、どんな感じ?」
希沙、怜菜、帆花が部屋に入ってくる。もうみんなには私の名前は伝えている。
だからって蒼空ちゃんは何。まあいいけど。
希沙が近くに来て、帆花がこっちを鼻で笑って、怜菜が遠くで私たちの様子を見ている。
平和が来てしまった。こんなことになるとは思わなかったな。
帆花も、正式に私たちのチームに入ることになった。いつの間に。
「どうしたの、明上さん」
「なんでもないよ」
どうせなら、こいつにも名前で呼んで欲しかったな、なんて思いながら繋いだ手の熱を感じた。
一章はここまでです。ご愛読ありがとうございました
この後、幕間と二章と続いていきますが、明上蒼空の根本の物語としてはここで一区切りです
今後もよろしくお願いします




