琴塚怜菜は支えたい/黒河希沙は救わない
瓦礫の山を走る。一番動いていたはずの黒河希沙が一番元気で、その体力はどこから来ているのだろうか。
まあ、私たちと違って近接で戦っているせいで体力があるんだろう。
椎柴帆花がほとんどを引き受けてくれたとはいえ、まだ深禍たちはいる。まさか、彼女が奈落帰りだったとは。
……奈落帰りがなんなのかはいまいちわからないが。
深禍災害、私はそれとは無縁だから酷さを正確に理解はできていなかったが予想よりも厄介だ。
「……凍れ」
スキルで深禍を凍らせる。邪魔だ、今は明上ユーリのところにいかなければならない。
黒河希沙は消耗している。私がある程度引き受けた方がいいだろう。
にしても、こんな非常時に明上ユーリがコネクトリンクを切るなんて。
明上ユーリは死にたがっていたとして、今すぐ行動を起こさないのであればタイミングがあるはずとは思っていたが、こんな時だったとは。
……あの子の苦しみをわかってあげられるとは言えない。黒河希沙が女子会だと言いながら家に押し入った日、あんなに荒れるとは思わなかった。
彼女の心に、私たちは踏み込みすぎてしまった。
だから、無理に突っ込まないけど支えてあげようと思ったけどそれはきっと、正しくはなかったのだろう。
あそこまで傷ついた子なのであれば、きっと私たちよりも気を許しているであろう篠崎渚に託すか、強引に手を引っ張るしかない。
アリ型の深禍、その後ろに蜂型の深禍たちが溢れてくる。
さすがに数が多い。
「……琴塚さん、あれをどれぐらい倒せそう?」
篠崎渚が、遠慮がちに聞いてくる。ある程度倒して、時間を稼ぎたいといったところか。
そうね、私がきっとあれらを倒した方がいい。黒河希沙と協力してもいいけど、時間がかかりすぎる。
しょうがない、少し無茶をしてあげよう。
さすがに、椎柴帆花ほどのことはできないけど。
「全部倒すわ」
「えっ、怜菜。さすがに無茶だよ?」
「……いいから。ここで粘ってあげるからあなたたちは先に行って」
ふっ、と微笑んでみると二人とも目を丸くした。
何その目、人がやる気を出しただけなのに。まあ、普段はあまり表情を表に出してないことを理解はしているが。
「わかった。後で来てね、怜菜!」
「ごめん、琴塚さん。先に行くよ」
「ええ、さっさとして」
まったく。ごめんってなんだ。私の意思でやってるのに。
さて、全力で殲滅しよう。
カースシーカーには大技がある。コネクトリンク使用時のみに使用できる、いわゆる必殺技。
私のスキル、マジックワードはそれぞれの属性の魔法を使うようなもの。
私の大技はそれを一気に解き放つ。
「《マジックワード》――"全属性解放"」
私の周りに冷気がまとわりつき、風が渦巻いて、炎が走り、稲妻が自由に駆け巡って、水が流れる。
それらが一斉に、深禍に向けて放たれた。
アリたちに炎がまとわりついてその体を焼き焦がす。蜘蛛たちがその後ろからやってくるが、水に足を絡めとられて直後に吹き荒れる風に体を裂かれる。
その上から飛来してきた蜂型の深禍に雷撃が降り注いで木っ端微塵に消し飛ばした。
私の使える五つの属性、そのすべてが深禍を砕く。創作ものの魔法使いになった気分だ。
目の前に見えている深禍たちだけではなく、後ろに控えているやつらも巻き込んで倒せたはずだ。
ふー、と息を吐いて整える。すぐにはやってこないはずだ。向こうはうまくやってるだろうか。
ただ、篠崎渚の伸ばした手があの壊れてボロボロになってしまった子に届くように願った。
◇◇◇
後ろからは深禍たちはやってこなさそう。怜菜はうまくやってるね。
「篠崎くん、飛ばすよー!」
「えっ」
バチバチ、と火花を散らせてそれを軽くそれを弾けさせる。ダメージにならない程度に爆破してそれで思いっきりジャンプする。
こっちの方が手っ取り早いからね。コネクターはカースシーカーよりも頑丈じゃないけどこれぐらいなら大丈夫でしょ。
「ちょっと、希沙さん!?」
「飛ばしすぎちゃったか」
「いや、急いでるからいいけど先に言ってね!?」
「じゃあ、もっかい行くよ!」
「わかった!」
篠崎くんの手を掴む。きっと、これからユーリにこの手を差し出すんだろうな。
あの日、差しのべてくれた手を私は火傷させてしまった。今でもその跡を見て後悔する。
罪悪感で、私の暴走を止めちゃうなんて悪い人だよね、篠崎くんは。そんなつもりはないだろうけど。
最初は、もうちょっと暗そうな人だと思ってたんだけど。
……昨日、女子会の時にユーリに踏み込みすぎてしまった。私も、そういう気持ちはわかってたのにね。
ダメだなあ、私。たぶん、こういうのが向いてなかったんだけど。全部、思ったことを言ってしまうし。
でもさ、腹が立っちゃったんだよ。私たちはガキだから、生きる理由なんてこれから探せばいいって言ったのに。君が勝手に死なないでよ。
八つ当たりだってわかってるのに。本当にダメだ、私。
無理矢理引っ張っていってるけど、篠崎くんは意外と無事そうでよかった。たぶん、もうそろそろ見えてくるはずなんだけど。
げっ、深禍が出てきた。アリのやつ、どこにでも湧いてくるじゃん。
「あは、あははははっ」
なに、この高笑い。
「この声、明上さん……?」
確かに、ユーリの声に似てる。
空が光った。なにかが急に降ってきた。
私たちの目の前にやってこようとする深禍たちに向けて光の槍が降り注いだ。
……これは、ユーリのスキル?
でも、強すぎる。こんなの、カースシーカー一人で出せるような力じゃない。
「希沙さん、あれ」
篠崎くんが指差した先には、宙にぷかぷかと浮いている女の子。
「ユーリ?」
私の言葉が聞こえてないだろうに、その女の子はこちらに振り向いた。
銀色の髪、青い瞳。
それ以外はいつものユーリと同じ。
これが奈落帰り?いや、ちょっと違うような。
……でも、なんとなくわかる。このユーリにあんまり戦わせちゃダメだ。
「《ソウルフレイム》――"爆裂波動"」
手に溜めた火を、拳を突き出すのと同時に飛ばす。
ユーリが倒そうとしていた深禍に向けて、炎が火花を散らしながら飛んでいって爆発した。
空を飛んでいたユーリがふらついた。
するする、と地面に降りてくる。
向こうからは、まだまだ深禍の軍勢がこちら目掛けてやってくる。
もう、ちょっと邪魔だなあ。
仕方がない。私も頑張りますか。
「篠崎くん、ユーリのこと任せたよ」
「希沙さん……?」
「まだ敵がたくさんいるからさ。ユーリは君がなんとかしてよ」
ユーリを救うのは私じゃない。
きっと、篠崎くんだ。
「《ソウルフレイム》――"爆裂龍撃"」
両手から激しく炎を吹き出す。
ぐっ、と握りしめてそれをもっと溜め込んで、炎をさらに激しくする。
敵の軍勢目掛けて、一気にそれを放出した。
熱気が頬を撫でる。
轟音と共に深禍たちが吹き飛んでいく。
ちょっとぐらいなら時間を稼げそうだ。怜菜も戻ってきて加勢してくれたらいいんだけど。
じゃあ、篠崎くんがユーリを助けるまで頑張るぞ、おー!
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コネクターの能力、コネクトリンクは接触をトリガーにカースシーカーの能力を強化します。強化中、パスのようなものが接続している状態になり、意図的に切断しない限りはずっとつながっています。
コネクトリンクにはカースシーカーの強化以外にカースシーカーの回復も可能です。これは、アバドンによる影響を和らげる効果もあります。




