椎柴帆花は暴れたい
断続的な爆発が響く。
「《ソウルフレイム》――"爆裂連打"」
迫り来るアリ型の深禍を希沙さんが蹴散らしていく。単体なら希沙の対応で問題ないが、それにしては敵の数が多すぎた。
視界を埋め尽くすほどの数の深禍が湧いてくる。
「あはは、多いねー」
それでも、恐れを知らずに希沙は向かっていく。
本来であれば、この数の深禍と戦うのは厳しいが、近接攻撃でありながら周囲をある程度巻き込める希沙だから対応はできている。
バチバチバチ、と希沙の手のひらに火花が散る。
「えいっ!」
振るった手と同時に火花が周囲に拡散して、一気に爆発する。
希沙のスキル、ソウルフレイムは心の奥底から沸き上がった力を爆発する炎に変える。
コネクトリンクによる強化と、一度吹っ切れて自由になった心によって、利便性を増したお陰で殴らなくても爆発をある程度操ることができるようになっていた。
「《マジックワード》――"サンダー"」
その後ろから、怜菜が雷撃を放つ。爆発で吹き飛んだ深禍たちを次々に焼き焦がしていく。
それでも、まだまだ深禍たちは湧いてくる。
――深禍災害、それは無尽蔵と思えるほどに湧いてくる不条理。
だからこそ、災害と呼ばれている。
希沙は肩で息をする。動き回っていたせいで、少しずつ疲労がたまってきた。その後ろの怜菜も、スキルの連発で汗が額を伝う。
「……っ」
篠崎渚は何もできない。コネクターには戦闘能力はない。
無力を噛み締めるだけ。
でも、この接続状態がわかるのもコネクターのみ。
「……明上さん!?」
――明上ユーリとのコネクトリンクが切れた。
「篠崎渚、何かあったかしら」
「明上さんとのコネクトリンクが切れた」
「……それは、まずいわね」
コネクトリンクは、カースシーカー側からそれを拒否することで切断できる。
明上ユーリが切断したということに他ならない。何かがあったに違いない。
「じゃあ、ユーリのところに行かなきゃだけど!敵が多いんだよねーっ!」
「……そうね。《マジックワード》――"アイス"」
周囲の深禍たちが凍りついた。すると、その奥からまた深禍たちがやってくる。
「さすがに多すぎない!?」
篠崎渚の言葉と共にポトリ、と深禍たちの首が落ちた。
「《斬撃領域》――切り替え、フルオート」
風のように何かが通り抜けていったと思えば、深禍たちがバラバラに切断されていく。
「ようやく見つけた。敵多すぎでしょ」
「椎柴さん!?」
茶髪のサイドテール、椎柴帆花がそこにいた。
「あれ、明上いないの」
「ユーリは、複合型の相手してたんだけど、コネクトリンクが切れちゃったんだ」
「……あー、そっち行きたいけど敵多すぎてきついってことね」
「そもそも、なんであなたはここにいるのかしら」
「私ってチーム組んでないけど、なんか明上って放っとくとまずそうだから見に来ただけよ。でも正解みたいね」
刀を構える。
「斬撃装填」
再び、現れた深禍たちに椎柴帆花の周囲から発生した斬撃が放たれる。
「じゃあ、ここは私がなんとかするから、そっちに行ったら?」
「……わかった。でも、大丈夫?」
「これぐらい、余裕だって」
「そう、じゃあ頼んだわ」
「ユーリの方なんとかなったら、戻ってくるからね!」
実際、椎柴帆花の斬撃によって湧き出した深禍たちはある程度倒されている。彼女一人でも、この場を制圧しかねない。
「あー、でも本気を出すからちょっとよろしく」
「……わかった」
パシン、と帆花は渚の手を叩いた。
「"コネクトリンク"」
その瞬間、渚から帆花へ力が流れ込んだ。
「これないと、本気出しちゃダメって止められてるから」
するり、と髪を留めていたヘアゴムが落ちた。髪色が金に迫っていき、その長さが伸びた。
「奈落帰り……」
「へえ、知ってるの」
帆花の周囲で斬撃が渦巻いた。
「まっ、いいから行きなさい」
にぃっ、と帆花は不適に笑った。
◇◇◇
高校に来てすぐに不登校になってしまったから、こうやって戦うのも久々ね。本当に事前に練習しておいてよかった。……まだ、深禍に地元と友達と家族をやられたあの時の嫌な気持ちが沸いてきてるけど、意外と平気ね。なんてやせ我慢だけど、戦う手は鈍っちゃいない。
なら、問題なんてない。
にしても、アリ型の深禍がいくら倒しても湧いてくる。面倒くさいったらありゃしない。
でも、篠崎渚たちはもうここから去ったみたいだし好き勝手に暴れましょ。
刀を振るうと、斬撃が勝手に飛んでいき、敵を切り裂く。それの繰り返し。
でも、さすがに切れてきた。
私のスキル、斬撃領域はいくつかの斬撃を溜め込んでぶっ放す。
つまり、残弾があってそれが切れると補充する。
今はそれをやりすぎて、切れつつある。まあ、そんな便利なものでもないものね。強いけど。
「《斬撃領域》――切り替え、アサルトモード」
だから、近接状態にチェンジする。刀に斬撃を纏わせた状態にする。
迫ってくる深禍をすれ違い様に切り裂き、その体を蹴って跳ぶ。着地と同時に深禍に刀を突き立てて、引き抜いては後ろの深禍の顔を切った。
アサルトモードでは、周囲に一定数の斬撃が自動で発生するようになってるから、近づいてくるやつも勝手に切り裂かれて死んでいく。
それ以外にも、遠くから飛んでくる針のようなものも、自動で発生した斬撃で弾かれる。
でも、これも残弾があるから過信できるものでもないけれど。
この調子だとここを持たせるぐらいは余裕そうね。
さらり、と金色の髪が揺れた。長くなってきて鬱陶しいな。
私は、奈落帰りと呼ばれる状態。カースシーカーには、アバドンという形態がある。まあ、暴走状態みたいなものね。
これになりかけていて、でも普通の状態に戻ってこれるやつが奈落帰りってわけ。危険に片足突っ込んでるんだから、あんまり無茶すると本当にやばいんだけどね。
その代わり、かなり強くなるんだけど。
ただ、コネクトリンクはアバドンの暴走状態をある程度抑制することができるから、この時だと奈落帰りでも全力を出せる。
髪色だとか、体の特徴が変わるのはアバドンの症状で、私は今危険地帯を彷徨ってるってわけ。
あーあ、明上のやつを追ってただけなのに変な役割を引いたな。
明上とは正直、全然仲良くない。同じ中学ってだけだし。そもそも、当時はあんまいい噂とか聞かなかったしね。
普通に、尻軽だとか悪い噂しか流れてこなかったけど、後から聞いたら距離感がおかしかっただけってバカでしょ。
顔が無駄にいいせいで、変な嫉妬とかもあったでしょうけど。
そんな、バカにもいい友達ができたってことを風の噂で聞いた。そのせいで、第三深禍災害後の鬱屈とした表情は本当に見てられなかった。
まあ、私も相当心にきてたから、そんなこと言えた義理じゃないけど。
だから、あいつが訪ねてきた時は本当に気持ち悪かった。他人のふりみたいに、自分を殺してる。
あんま知らないけど、あんたはそんなやつじゃないでしょ。
もう知り合いが勝手に死ぬのは寝覚めが悪い、というよりも普通に嫌だ。
生き残ったカースシーカーたちが敵に無闇に突撃していって、死んでいったのを何回見せられたと思ってるのよ本当に。
絶対、あんたの思い通りに死なせてなんかやらない。
だから、刀を振るう。
額の汗を拭う。こんだけの数を倒してればそりゃ疲れるか。
「斬撃装填。《斬撃領域》――切り替え、セミオート」
斬撃をいくつか発射しながら、近寄ってくる深禍たちを倒す。
篠崎渚、あのコネクターがきっと明上をなんとかしてくれるでしょ。
そう信じて……信じるほどの仲でもないけど、とりあえず託してバカみたいに湧いてくる深禍たちを見据えた。
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[アーカイブ]
椎柴帆花:遠近切り替え型アタッカーです。奈落帰りであるため、コネクトリンクにその力を発揮することで全能力が大幅に上がります。
好きなもの:さあ?
嫌いなもの:はっきりしないやつ
スキル:斬撃領域 自分の一定範囲内に斬撃を発生させるが、残弾があるので途中で装填が必要
アサルトモード:刀に斬撃を纏わせ、自動で敵の攻撃を斬撃で防ぐ
セミオート:刀に斬撃を纏わせ、任意で斬撃を放つ
フルオート:斬撃を残弾が切れるまで一気に発射する
斬撃装填:一定時間待つことで斬撃を補充する




