主人公くん、冷たいTS娘を確認する
僕たちは、明上さんたちの過去を聞いた。
――第三深禍災害で、中学付近の人たちがほとんど死んでしまったこと。
――明上さんたちの家族はみんな死んでいて、明上さんは友達である雲山悠里さんの千切れた腕を持ったまま発見されたこと。
――その後も深禍たちと戦って、生き残ったのは明上さんと原口さんと椎柴さんだけだということ。
……正直、言葉が何も出てこなかった。何か明上さんが変わってしまうような過去があるんだろうと思ってたけど、全てを失ってしまっていたんだ。
結局、希沙さんの感覚は正しかったんだろうな。
教えてくれた原口さんとは、その後まともに会話できなくて、僕たちはチームの部屋に戻った。
だらり、と希沙さんは椅子の背もたれにしなだれる。
「ユーリはユーリじゃないって、呼び方がややこしいよね。まあ、ユーリって呼ぶんだけどさ」
言い方は軽いけど、声色は少し固い。
「とは言っても、本当の名前は本人から聞けだなんて面倒ね」
琴塚さんも椅子に座った。
そう、原口さんは明上さんの本当の名前は教えてくれなかった。明上が隠してるならそれは俺が言うことじゃない、と言っていた。
……過去はダメでそれはいいんだ。とは思ったけど、踏み込まない最後の一線みたいなことなんだろう。
不意に、自分の手を見た。握り込んでしまっていて、力を抜く。
そうか、明上さんの話を聞いて、いつの間にか力が入ってしまったのか。僕は、あの不条理を許したくはなかったんだと思う。
「にしても、明上さんが昔は男っぽかった、か」
原口さんから聞いた情報の一つ。
僕たちが出会った明上さんはずっと明るく元気な女の子だったから、少し想像しにくい。
熱でダウンしてたときに見えたあれが、その一端なんだろうけど。
人当たりが強くて、口調も違う明上さんか。それはそれで会ってみたいような。
となると、随分と変わったことになってしまうけど。
「あくまで、明上ユーリというのはそういうキャラクターを被せてたってことなのでしょうけど」
「そうだねー、篠崎くんにべったりなのはなんか意味あるのかは聞きたいな~」
……確かに、それはそうなんだけど。あくまで、そういうキャラクターを演じていただけ、ということなんだろうか。
例えばもう心は疲れきっていて、寄り添えるようなものを探してた、とか。
……そういえば、雲山悠里さんが生きてたら、明上さんはどうなっていたんだろうか。
なんて、考えてしまうのはきっと野暮な話なんだろうけど。
家族どころか、大切な友達まで失ってしまったのにわざと明るく振舞っているであろう明上さんを、助けたいと思ってしまうのは傲慢なのかな。
「とりあえず、本人に話を聞いてみたいな」
「それは難しいでしょうね」
ポツリと呟くと、琴塚さんは顔をしかめた。
「明上ユーリは、過去を知られてもあまり態度を変えるようなタイプには見えないだろうし、結局彼女が何をしたいのかもいまいちわからないもの」
「……確かに、そうだけど」
明上さんが死にたがっているのかもしれないっていうのは憶測に過ぎないし、そうだったとしても、自殺という手段を取らないなら何か意味はあるんだと思う。
……やっぱり、直接話を聞いてみたい。
明上さんがどういう人なのかも、ちゃんと知りたい。僕たちは、仲間だから。
「じゃあさ、こうしようよ」
勢いよく、希沙さんが立ち上がった。
「私と怜菜で、ユーリを誘って女子会をする!」
「……えーっと、僕は?」
「篠崎くんは、ユーリにとってある意味特別そうだから、刺激が強すぎてよくないかもしれないでしょ?」
「……そうかなあ」
ある意味特別……なんだろうか。
まあ、態度が違うのはそうなんだけど。他の人にはガードが固いのに僕に対してだけは緩いらしいとか、そういう話も聞くし。
「……その女子会とやら、本当にしないといけないかしら」
「楽しい場で聞いた方が、まだ答えてくれるかもしれないでしょ!」
「……」
希沙さんに押しきられて、琴塚さんも黙ってしまった。
女子会を強硬してしまうらしい。
……そういえば、今日連絡が来ていたけどチーム名を決めてほしいという話があった。
今、決めるんだと思ったけど、一人でやることもないしこれでも考えた方がいいかな。
◇◇◇
翌朝、登校途中にたまたま明上さんを見つけた。昨日よりも顔色が悪いような。
「おはよう、明上さん」
「……よーっす」
テンションがちょっと低い。よく見ると、目の下に隈があったり、少し肌が荒れているような。
「……何?」
じろり、と視線が刺さる。いつもの明上さんのような明るさのようなものがない。
勝手に、明上さんの過去を聞いてしまったので後ろめたさが残る。何か聞こうとして、でも何を言えばいいのかわからなくて、当たり障りのない言葉を紡ぐ。
「ちょっと、顔色悪い気がして」
「……えっ、マジ?うわー、ほんとだ。ちょっと待ってね」
手鏡で確認した後、それを仕舞い込んだ。
「《セイントアーツ》――"ヒール"」
手に宿った光を、自らの顔に向けると顔色が良くなった。目の下の隈も消えているような。
いや待って。回復のスキルとか使えたんだ。しかも、それって肌荒れとかも治るんだ。
この人のスキルってだいぶ便利なんだよな。
「いつもは、こうやって治してるんだけどね」
「……毎日やってるの?」
「うん。なんか、肌の手入れとかよくわかんないし」
「治し方が強引すぎる」
「うっさい」
ぷいっ、と顔を背けられる。
なんか、今日の明上さんはトゲトゲしてる。
明上さんはみんなに女子会に連れていかれるらしいけど、大丈夫なんだろうか。
まあでも、そこで元気が出るかもしれないし。
「篠崎くん!」
「うわっ!」
「と、ユーリ。おはよう」
後ろからすごい衝撃が来た。
……なんで、希沙さんに抱きつかれてるんだろうか。耳元に吐息がかかってるのがちょっとくすぐったい。
おかしいな、まともな距離感の人がもう琴塚さんしかいないかもしれない。
「なっ、えっ……希沙ってそうなの?」
明上さんも、目をぱちくりとさせて戸惑っている。
「そうって?」
「いやその、付き合って、たりとか……?」
すごい。つんけんしてた明上さんの様子が変わった。なんか、おろおろしている。
「そんなことないけど、篠崎くんならありかなー」
「希沙さんは急に何を言ってるの??」
「ほほー、モテるね渚くんって」
いつもの調子に戻った。よかった。よかったのかな?希沙さんは本気かどうかわからないことを言ってるし。
……なんか希沙さんに抱きつかれても、平然と受け入れてしまってる自分が怖い。この人、体温高いのかやけに暖かい。
「ねえ、ユーリ。篠崎くんが全然反応してくれないんだけど。ユーリのせいでおかしくなっちゃってない?」
「私で染めちゃったか」
「まあ、少なくとも明上さんのせいではあるよね」
「えっ、渚くんが認めた。だったらずっとちゅーしてたら慣れて、自然としてくれたりするのかな」
「流石にやめよう???」
いつのもテンションに戻ってきたせいで雲行きが怪しくなってきた。
さすがに、そこまでのことを明上さんはやらないだろうけど。やらないよね?
少し、会話の間に見せる顔の陰りが気になってしまったけど、今はまだ触れないことにした。
やっぱり、明上さんは傷ついた女の子だったんだ。
だから、僕が手を伸ばさないと。
今はきっと、まだその時ではないだろうけど。
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