TS娘、自壊する
「あの、これはどういう状況……?」
どうも、明上ユーリです。現在は、私の部屋まで押し掛けてきた希沙に抱き締められています。
今日は、出撃の日だったんだけど、希沙が突っ込んでいくこともなく、全員コネクトリンクしてるのですんなりと終わった。
強くなったね、みんな。
まあ、それはそれとして。
なぜか希沙は、朝は渚くんを抱き締めていたのに今はなぜか私をぎゅっとしている。なんで?
……まあ、ユーリではないんだけど本当の私を見せる気もしないから無理してユーリをするんだけど。
怜菜もなぜか私の目の前で本を広げている。どういう状況なの。
「今日は女子会をします!」
「どういうこと?」
「なんとなく、ユーリをいじくりまわしたりなって」
「えっ、なんで」
ふにふに、と頬をいじられてる。
渚くんがいなくなったので、その立場に私がはまってしまってるってこと?
「単刀直入に言うけれど」
パタン、と怜菜が本を閉じた。真剣な怜菜の視線にたじろいだ。心の底を見通すような瞳だったから。
「――私たちはあなたが明上ユーリではないということを知っているわ」
「……あはは」
誤魔化すように笑う。ぴしり、と体の内側にひびが入ったような感覚がした。
……あーそっか。そうなんだ。
バレちゃったな。バレちゃったかー。
……はあ、本当に面倒くさい。何も、私の中に入ってこなくていいのに。
これ、もしかして篠崎渚にも伝わってるかもしれない。だる。
心が一気に冷えていく。頭がズキリ、と痛んだ。
「一応、椎柴帆花さんには聞いてないよ」
希沙に頭を撫でられてる。痛みが少しましになった。
ってか、私の扱いは子供なんだろうか。
っていうか、帆花じゃないってことは……そうか。
「原口か」
「そうよ」
そっちか、忘れてたな。
普通、こういうのって徐々に分かっていくものなのに一気にそういうのを聞いてしまうのってダメじゃないか?
……たぶん、帆花から原口のことを聞いたんだろうな。じゃあ、私のやらかしか。
いつも、私はダメみたいだ。何も原作通りに行かない。こういうのって結構難しいね。
そもそも、私が元のキャラと全然違う性格なのが悪いけど。
「……で、それを聞いたからって何?」
普通に、話そうと思ったのに底冷えするような声が出た。
ダメだ、もう仮面が崩れる。頭のズキズキとした痛みが酷くなった。
「そうね、率直に言うとあなたのことを知りたいって感じかしら」
「うわー、怜菜って面倒見よすぎ。母親かよ」
「……あなたってやっぱりそっちが素なのね」
「……」
まあ、いいか。どうせ聞いたんだろ過去のこと。じゃあ、一緒だ。
もう、我慢しなくていいなら楽だし。
「やっぱり、熱の時のユーリの感じが素だったんだねー」
「そうかよ」
……あの日、体調崩したのは本当によくなかったな。
雨に打たれすぎて、朦朧としていると頭の中に俺を責める俺の声が鳴り止まなくて、そのまま寝込んでしまった。失敗だ。
スキルで回復したらよかったかな。病状には効かないけど。
元々、こうやってボロを出すんだから何かを演じるのは向いてなかったのかもしれない。
「あの様子でも渚くんに抱きついてたから、大好きなんだなあって思ったけど」
「は?」
いや、本当に何してるの俺……?
明上ユーリを保つために、あいつにベッタリしてきてはいたけど。
「……黒河希沙、そういう話ではないでしょう?」
「あっ、そうだった。ごめんね、つんつんしてるユーリってなんか構いたくなっちゃうから。なんか、猫みたいじゃん?」
「……悠里も言ってたよ、それ」
……あいつの場合は、野良猫だったけど。
「ふうん、雲山悠里ね。結局、原口という男からはあまり聞けなかったけど、どういう人なのかしら?」
「そんなもん、教えてやんないけど」
「恋人だったの?」
「ちげーよ、友達」
そこだけはきっぱり否定する。
あいつと俺は友達でしかない。
もし、あの時にあいつが生き残っていたら、そういう未来があったかもしれないけど……そんなものはもうないし。
また、頭がズキリと痛んだ。
「つーか、悠里の話はいいだろ」
あまり、あいつのことを今は思い出したくない。
「じゃあ話を変えるけど……ユーリってさ、死にたいの?」
「――だったら、何?」
あまりの直接的な内容に、投げやりに返してしまった。
怜菜の表情が強張る。背後の希沙も息を飲んでいるみたいだ。
死にたい、か。どうだろう。
でも、もう疲れた。やりたいことなんてないし。
……なんで、生きてるんだろう。あの時、悠里と一緒に死んでたらよかったのかもしれないのに。
まあでも、それに対しての答えもわかってるんだよな。
結局、後悔してるからこうやってずるずる生きてしまった。
だって、ゲームの知識とかをちゃんと考えてたらもう少しカースシーカーになるのが早くて家族もあいつもちゃんと守れた、みたいなことがあったかもしれないし。
でも、ゲーム通りに死ねるならそれは仕方のないことで、そのときはもう後悔なんてないだろうから。
ただ、それだけの単純な話。
「……生きる理由を探そうって言ったのはユーリなのに、それってずるくない?」
「別に、そうとは答えてないけど」
「素直じゃないね」
「……もう、なんなんだよ」
頭の奥にガンガンと、痛みが響いた。
「人の過去聞いてさ、かわいそうだねーって?」
吐き捨てるような言葉が止まらない。
「明上ユーリ、私たちはあなたを助けたくて――」
「余計なお世話だって言ってんのっ!私の中にもう触んないでよ!」
後ろの希沙から抜け出して、突き飛ばした。
「お前らだけで勝手に助け合ってればいいだろ、俺をそこに含めんなよ」
俺と私がぐちゃぐちゃになる。感情が溢れだして止まらない。
言ってる言葉もわからなくなってきた。
「ユーリ……」
「うるさい、悪夢見てようが家族と友達死んでようがなんでもいいでしょ!うっ、うううううっ!」
吐き出そうとした言葉が、唸り声になって消えていく。
私はただ、その場で踞った。
沈黙が辺りを支配した。
「ごめんね」
小さく、希沙の声が聞こえる。
ごめんってなんだ。そう思ったけど、疲れて何も言えなかった。
◇◇◇
「で、なんで二人とも帰らないの」
「今のあなたを放ってはおけないでしょう」
なぜか、てきぱきと怜菜が料理を作っている。……美味しそうな匂いが憎い。
「ごめんね、ユーリ」
「……うっさい」
「踏み込みすぎちゃったから」
ぎゅっ、と抱き締める希沙に体を預けた。
なんだかもう疲れてしまって、反発する気も起きなかった。
……仮面は剥がれてしまったけど、今後も元の私で接するのは気恥ずかしいから当分は今までの明上ユーリをやるんだろうな、とぼんやりと考えながら、世話を焼いてくる二人の様子を眺めていた。
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[アーカイブ]
カースシーカーとコネクターはおおよそ、正常な精神状態の人の方が少ないため、育成機関ではカウンセリングを定期的に行っています。
ただ、死亡率が高いこともあり戦力が基本的に不足しているため、まともな精神でなくても戦場に駆り出される場合もあります。




