主人公くん、記憶を見る
訓練所についたのに、僕たちの間には無言が広がっていた。
昔の知り合いと会った明上さんがピリピリしてて、気になったのもあるかもしれない。
「さっきの人も、私と同じだったね」
ポツリと希沙さんが漏らした。……っていうか、やっぱりこの人距離感が近い。もしかして、本来はこれがデフォルトなの?
なんか、肩がくっつきそうなぐらいの場所にいる。意識してるみたいだから何も言わないけど。
……イメージがだんだん犬っぽくなってきた気がする。
「同じって?」
「私と同じ、大切な人を失ってるタイプってことだよ」
希沙さんから聞いた、過去の話を思い出す。
壮絶な、家族が死んでしまった過去。…その人たちを助けられないことに無力さを感じる。思わず握る拳に力が入った。
息を深く吸い込んで、気持ちを落ち着ける。
……それにしても、同じ経験をしたってわかるものなのかな。カースシーカーにはそういう人は多いって聞くけど。
そういえば、チームに誘えたってことはどこにも所属してないってことになる。
本来、どこかに勝手に所属されるはずなのにしてないってことはなんらかの事情がある場合だ。
……それこそ、トラウマで戦えなくなったとか。
それにしても、何があったんだろう。きっと、明上さんも過去になにかあってそれを隠してる。椎柴さんが知ってるのなら、中学の時かな。
希沙さんが、同じタイプだと思ってたって言ってたからもしかしたら同じように家族を深禍に殺されてしまった……とかかもしれないけど。
「あなたたちはどう思ってるの」
声の方に視線を向けると琴塚さんと目が合う。真剣な瞳が、こちらを射貫いていた。
「……どうって、明上さんのこと?」
「そうよ」
どう、か。
たぶん、みんなどこかであの人が何かを抱え込んでいたことはなんとなくわかっているんだと思う。
他にも、昨日の明上さんはあまりにも普段と違っていた。少し子供っぽい時、それから俺口調の男っぽいような振る舞いの時……普段の明上さんは、偽ってるときの姿なんだろうか。
「たぶん、僕たちに何かを隠してるんだろうね」
「そうだねー、結局何も教えてくれなかったし」
「……昨日のことをどう思ったの?」
昨日のこと。それが意味指すことは、きっとあれしかない。
『――早く楽になりたい』
あの一言。何重にも隠してる明上さんの本心。
「……たぶん、死にたがってるんだと思った」
「まっ、そんな感じだろうねー」
じっとしてらいられなくなったのか、希沙さんは立ち上がって拳同士をぶつけた。
手に勝手にガントレットがはめられる。
「私もそっちタイプだったけど、篠崎くんのせいで変えられちゃったからなー」
冗談めかして笑う。
ガントレットから炎が燃え上がる。そのまま、的に向けて握りしめた拳で殴りかかった。
希沙さんにはずるいことをしたと思う。僕を火傷させてしまった引け目で、少しだけ繋ぎ止めてるところもたぶんあるから。
「以前、明上ユーリが言ってたわ。私がいなくなった後もちゃんとしてもらわないと困るって。あれはそういう意味だったのかしらね」
琴塚さんも立ち上がって、手のひらに冷気を纏わせた。形成された氷の塊が、的に向かって飛んでいく。
「コネクター、あなたは最初から明上ユーリのことを気にしていたように思うわ。一体、何かあったのかしら」
「……それは」
僕が気にするようになった原因はやっぱり――
「――夢で明上さんに似てる人を見たからかな」
「……夢?」
「おかしな話だと思うけど、血塗れの明上さんに似てる人が僕に話しかけてるような夢を見たから」
「……そう」
琴塚さんはスキルを使うのをやめて、考え込む素振りを見せた後、こちらに手を差し出した。
「……ちょっと試してみたいことがあるの。コネクトリンクしましょう」
「なんか、いきなりだね」
「いいから」
「わかったよ」
急にどうしたんだろう。あんなに僕とのコネクトリンクを嫌そうにしてたのに。
急かされて、琴塚さんの手を握る。
「"コネクトリンク"」
手を繋いで、力を流し込む。僕と琴塚さんの間に繋がりが形成される。そのまま、琴塚さんを強化するように、僕の内から何かが流れていく。
「違う、もっと深くよ」
「深く?」
確か、コネクトリンクには深度がある。別にコネクトリンクの補助には正直そんなに深度はいらないから必要じゃないんだけど。
……でも、琴塚さんが試したいことがあるみたいだし、やってみるか。
もっと、深く潜るようなイメージで力を込める。繋がりがどんどんと強固になってる……ような気がする。
「そう、その調子」
琴塚さんの声がやけに近く聞こえた気がした。
直後――視界が暗転した。
輪郭の歪んだ獣がいくつも埋め尽くしてる。
「《マジックワード》――"ストーム"」
静寂に、その声が通った。
これは琴塚さんの声だ。手から生み出した風が目の前の獣たち――深禍たちを巻き込んで飛ばしていく。
どういう状態なんだろうか。琴塚さんの視点で、何かを見ているってことだと思うけど。過去の記憶を見ている?
「すまなかった、助かったよ」
周囲には、恐らく逃げ遅れたであろう男性たちが数人いた。
「……いえ、別に」
ずきずきと痛む感覚がする。手足が少し切れている。辺りは瓦礫が積もっていて、移動して最中にでも切ったのかもしれない。
手のひらから冷気が漏れている。いつも見る、琴塚さんの力だ。なんというか、制御できていないような。
雰囲気からすると、初めてスキルを使ったときなのかもしれない。
気になったのは、助けた男性たちの視線だ。どれも、胸元に向いているような気がする。
こんな、非常時なのに?
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
いつでも欲求を撒き散らす男どもしかいない。全員死んでしまえばいいのに。
胸の内に、そんなどす黒い感情が流れ込んでくる。
今すぐずたずたにしてやろうか。今の私にならそれができる。
その感情を飲み込んだ。
結局、その直後も視線が体にまとわりついてくる。
その日を境に、人の視線がやけに鬱陶しくなってしまった。また、あの視線を向けられるなら?それが嫌で、人との壁を自分から作ることにした。
これが、琴塚さんの言っていたことか。
これはコネクトリンクを繋いだ結果、流れてきた記憶なんだろうか。
そして、もう一度視界が晴れた。
「何か、見えたかしら」
青い髪が揺れて、その隙間から覗いた端正な顔立ちが見えた。琴塚さんが僕を覗き込んでいる。
「……たぶん、琴塚さんの記憶が見えた、と思う」
「そう、それはよかったわ」
……よかったのかな。普通、自分の記憶が見えるのは嫌だと思うけど。
「その、確認したかったことってこれ?」
「そうね、聞いたことがあったのよ。コネクトリンクを深く繋ぐとカースシーカーの記憶を見ることがあるって。あなたの夢も、それに関係しそうだから」
「……でも、夢なら関係ないんじゃ」
と言いかけて一つ思い出した。
僕は、初めてのはずのコネクトリンクを一度経験したことがあるような感覚がしたことを。
「理由はわからないけど、あなたと明上ユーリはコネクトリンクによって繋がっていた。その結果としてあなたは明上ユーリの夢を見た」
可能性としてはあるかもしれない。
「……それだとおかしい。さっき琴塚さんの記憶を見たときは琴塚さんの視点で見てた。でも、あの時の夢は僕の視点で明上さんを見てたんだ」
「……確かに、おかしいわね。そうなると、記憶ではないってことかしら」
「それに、あのときの明上さんのそっくりさんは血塗れだった。死ぬ直前みたい、に……」
もしかして、あれが明上さんが死ぬビジョンのようなものなんじゃないか?
あのような状況で死にたい、みたいなイメージがあってそれが僕に流れ込んできた、とか?
「まだ、よくわからないわね。……そういえば、似てるって言ってたけど本人とは違うの?」
「髪と目の色が違ったんだ。銀の髪に青い瞳をしてた。……声は、明上さんそのままだったんだけど」
「――奈落帰り」
体を動かし終わってさっぱりしたのか、汗を拭いながら希沙さんが戻ってきた。
「その、体の特徴が変わるってやつ。奈落帰りって言われてる人たちに、そんなのがあるって聞いたよ」
「奈落帰り……」
「例えば、深禍の激戦区から帰ってきた人たちにそういう人がいるとか。詳細はよくわかんないし、噂程度だけど」
実は明上さんも、その奈落帰りってやつなのかもしれない。
「ともかく、コネクター――いえ、篠崎渚。あなたは、明上ユーリを助けたいのでしょう?」
「もちろん」
「だから、そのための力を貸してあげるわ」
琴塚さんは、不敵に笑った。
「ひゅーっ!怜菜がデレた!」
「ふざけてる場合かしら。あのテンションのイカれた女が、実はボロボロの子だったなら、こんな軟弱な男に触るのを躊躇してるのもおかしな話よ」
「ははは……」
……認めてくれたのならいいか。
僕たちはまだ明上さんを何も知らない。
でも、彼女はきっと傷ついた女の子だから、みんなで手を伸ばすことにした。
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[アーカイブ]
カースシーカーには武器を持つものがいますが、それらは戦闘時にどこかから召喚されて、戦闘終了後に消えます。
ラスト・インヘリタンスでは、ガチャでそれらの武器を引いて換装することができます。




