TS娘、昔の知り合いと拗れる
あああああ、やらかした。
いや、やらかしたといいますか。なんかこう、醜態を晒したっていうかさ。うん……熱でダウンしてたんだけど、色々変なこと言ったみたいだし。
本当に何言ってたのか思い出せないんだよね。本当に何言ってたの、私!?
幼児みたいになってたとか、俺口調の時も出てたらしいし!変なこと言ってないよね、ね?
うううううう、穴があったら入りたいってこういうことなんだ。この世界から一時的に隠れたい。なんかないかな、そういうの。
怜菜のご飯は美味しかったけれども。
このせいで、チームの部屋になかなか行けなかったりする。顔合わせづらくて……待ってこの匂いは。
「明上さん」
な、渚くんだ。
なんか、こう視線が定まらない。まっすぐ顔を見れなくて。あー、もうなんか気にしすぎだ、私。
「渚くんっ!」
もういったれ!渚くんの胸元に飛び込む。
すー、と息を吸い込む。あの匂いが体内を満たした。
私の揺れが少しずつ収まっていく。最近、ぐちゃぐちゃになっていた、私の私が一つにまとまっていく感覚がした。
「明上さん、元気になってよかった」
あれ、なんか普通に受け止められてる。顔を見上げると、別に照れたりしてない渚くんの様子がそこにあった。はー、つまんないやつ。
まあいいや。渚くんから離れる。
少しだけ落ち着いたし。
「渚くん慣れちゃってつまんないの」
「病み上がりの人を無理矢理引き剥がすのもよくないかなって」
「ちぇー、いつもはあわあわしてるのに」
「昨日あわあわしてる明上さんを見たからかな」
「がぁぁ!変なこと思い出さないで!」
ぐぅ、なんかいじられるサイドになってしまった。違うじゃん、私ってそういうキャラじゃないわけ。屈辱だ。
「でも、昨日の明上さんを見てちょっとだけ、取っつきやすくなったよ」
「あーあ、なんか可愛くないねそういうの。いつまでもおろおろしてる渚くんを見ていたかったな」
「それは勘弁してほしいなあ……」
「いっそ、ほっぺにちゅーでもするか……」
「早まらないで???」
そこまではやらないけどね。そういう間際ならいいかな。
渚くんも部屋に行く途中みたいだったから、横にならんで歩く。なんとなく、渚くんの手に手を伸ばして指を這わせた。
こういうのは慣れてないみたいで、ぴくりと反応してる。そのままゆっくり、指を絡めた。
「……やっぱり明上さんは明上さんか」
「何、ぽやぽやして可愛い方がよかったって言いたいんですか?」
「そこまでは言ってないけど」
「今の私も十分可愛いのに」
「自分で言うんだ」
「私が可愛い女の子って言ってたのは君だけどね?」
「言ったかなそんなこと。いや、言ったな……」
ちょっとゴツゴツした渚くんの手、男の子の手だ。やりすぎてしまったせいで、こういうことも抵抗しなくなってきちゃったな。役得ではあるよね。
「そういえば、いつの間にか呼び方変わったんだね」
「え?」
「希沙のこと。名前で呼んでるでしょ」
「ああ、そうだね」
「それに、篠崎くんって呼ばれてるし。そんなに仲良かったっけ?」
「どうだろう。あの一件で、前みたいに避けられることはなくなったかな」
「へえ、じゃあそろそろ落とすってことか」
「明上さんには落とすか落とさないしかないの?」
いやだって、名前の呼び方変わるなんてそういうことだなって思うじゃんね。
とはいっても、今の希沙は無理してたのがなくなって、接しやすくなっただけだしな。好きになったとかじゃないんだろうけど。
希沙って関わりやすいけど、ちょっとめんどくさい子ではあるし。
なんとなく、チラッと渚くんの方を見る。たまたま目が合った。
「……明上さんもユーリさんって呼んだ方がいい?」
「――やめて」
思ったよりも低い声が出てしまった。
まるで、めっちゃ嫌ってる子みたいじゃん。いやその、そうじゃないんです。ちょっと修正しとくか。
「渚くんには、名字で呼んでもらった方が嬉しいの」
「……そう」
渚くんは目を伏せた。……違う方に受け取られてない?
「別に渚くんを嫌ってて、呼ばれたくないとかじゃないよ。私が渚くんのこと嫌ってると思う?」
「昨日は好きかどうかわからないって言ってたね」
「えっ、そんなこと言ってたんだ、私。熱でダウンして弱ってる時にそういうこと聞くのずるじゃんね」
「……」
黙り込んでしまった。いや、そこまできついこと言ってないんだけど。顔を覗き込んでみると、どこか張り詰めたような様子。えっ、どうしたの本当に。
「急に黙んないでよ。怖いでしょ」
「いや、ごめんその……」
「まあいいけどね?ちわーっす!」
部屋についたので、扉を開ける。
手は放してやらない。なんか、渚くんが暗いからね。美少女からのお手手にぎにぎをサービスしてあげるのも大事!
「あら、今日も仲良しね?」
怜菜がパタン、と本を閉じた。
なんかこの人も見てないうちに、丸くなったというか。雰囲気が変わってるよね。
もしかして、私が見てない間に何か進展しちゃったりしたのかな。
……いやでもなーんか違うよね。私に対する視線もちょーっと変わったような。私のこと苦手とか言ってなかったっけ。まあいいか。
「あの、明上さん。そろそろ……」
「おっと、お手手まだにぎにぎしてた」
「言い方なんとかならない?」
名残惜しいけど、仕方ないので渚くんの手を解放した。
うーん、私の精神安定剤としてたまに欲しいな。癒しだもの。
「そういえば、昨日明上ユーリの知り合いが来ていたわ」
「えっ、知り合い?」
「確か、椎柴帆花……だったかしら」
「えっ」
椎柴帆花が来た?
いや、待って待って。なんかこう、雑に対応されたし私も結構適当に話してたから、そんな乗ってきそうじゃなかったよね。
えっ、なんで来たの。
「えっ、なんで来たの」
あっ、声漏れちゃった。危ない、動揺動揺。
「……あなたがチームに誘ったんでしょう?」
「ああ、そっか」
「明上さん、そういうのするときはちゃんとチームの方に連絡してね?」
ガチめに怒られてしまった。いや、来ると思わないじゃん。去り際にちょっと捨て台詞みたいなの言っちゃったからかなあ。
いや、今チームに入ったらどうしよっかな。うーん、まあいっか!なんとかなるでしょ。
嘘つきの私は、嫌いらしいから。
「おっ、ユーリ来てる。こんちわー」
「希沙だ、おひさ」
「おひさでもないでしょ。ローリももうちょっと見たかったなあ」
「えっ、なにその呼び名」
「昨日の明上ユーリは可愛かったわね」
「怜菜も!?ねえ、渚くん。みんなが変なんだけど?」
「ギャップがすごかったからね」
「渚くんもそっち側かあ」
……自分の知らない自分を知られてるみたいでちょっと恥ずかしい。
「ってか、私のことはいいから!訓練しよ、訓練」
実はこの学校には訓練用の施設があるのだ。カースシーカーがいきなりスキルを使って実戦は危険ですからね。この学校での最初の数ヵ月は、スキル使って感覚を掴むって訳。
チーム結成後は、チームでの訓練用にそういうの使えるんだよね。実はスペックがすごくて深禍と戦うシミュレーターみたいなのもある。
みんなの仲が深まったからこそ、練習用にちょうどいいってこと。
「ん、今日はいるじゃん明上」
……なんか聞き覚えの声がした。
視界に入ったのは、ぼさぼさじゃなくなって、髪を横に結んだ茶髪。少し鋭い目付きと、人を小馬鹿にしたような意地悪な笑みを軽く浮かべた少女――椎柴帆花だった。
うーん、身だしなみもなぜかちゃんとしてる。この前のだらしなさはどうしたの。
「えーっと、椎柴さんでよかったかな」
「いいわ、コネクターの人。みんなでこれから訓練?」
「そうだよー」
うーむ、みんなの反応を見る限り本当に私がいない間に来てたのか。これはこれでどう修正したものか。
ちょっと辛辣めに対応してやろう。
「来たんだ、帆花。あんなに来たくなさそうだったのに?」
「あんたのチームに入るのは嫌だけど、あんたの中学時代の話を教えてあげるのは面白そうじゃない?」
「――は?」
「おー、こわ。そんなに嫌なら誘わなきゃよかったでしょ?」
この性悪め。
私の中学時代の話をするって、そんなの許すわけないでしょ。人の内面を暴くのはよくないんだぞ。
ピリピリした私と帆花の様子に、渚くんたちは驚いてた。仲良しだと思ってたのかな。
そもそも、私と帆花って中学時代のあることがきっかけで仕方なく絡むようになっただけで、友達ってわけでもなんだけどね。
あー、本当にどうしよ。まあいいか、少し帆花と話を付けるか。
「ごめん、みんな。ちょっと帆花と話すから先に訓練行っててくれる?」
目配せしてみると、渚くんは何か理解してくれたようで、頷いてくれた。希沙も怜菜も、何か言いたそうにしてたけど、従ってくれるみたいだ。
「わかった。先に練習しとくね」
あーあ、なんかアドリブだらけだ。原作の私通りに進んでるところあんまりないかもしれない。
せめて、私の終わりはそのままちゃんとやりたいけども。
「……で、わざわざみんな追い出して話したいことって何?」
ずかずかと部屋に入ってきては、帆花は椅子に腰かける。まだあなたのチームではないですよ!
「誘ったのは私だけど、あんま変なこと言わないようにしてね」
「はあ、こういうところでも素を出さないんだ」
「もうやんないよ、あれ」
俺のことは出さない。なんか、私の中身がごちゃごちゃとするから。
「そんなに嫌?中学のことを知られるのって」
「……悪い?」
「いーや?そりゃそうでしょうね。だって――明上ユーリだもんね?」
人を小馬鹿にしたような笑み。嫌なやつだ。
まるで人の内面を覗いたみたいに振る舞って。頬杖をついて、横目でこちらを睨み付けてくる。態度悪いし。
「だから?」
「……自分の口から言うつもりなの?」
「言わないけど」
「ふぅん、それでそのまま消えるって?」
「さあね」
「はんっ、よくその態度で人をチームに誘ってきたわね」
「どうせすぐには来ないと思ってたから」
はあ、と一際大きなため息をつかれる。
「あんたのために、外に出てきたのにこんな対応されるなんて困っちゃうわ」
「そーですか、それはどーも」
「まだ、あっちのつんけんしてた明上の方がよかったのに。……もし、消えるつもりなら許さないから」
底冷えするような声。それだけ吐き捨てて、帆花は部屋を出ていった。
許されなくても、私を消すのは運命だから。それを止めることはできないだろうにね。
あーあ、しんみりしちゃった。なんか、最近私だけチームのみんなと離れてること多いな。
ぼっちは嫌ですよ!
みんなのところ行こっと。
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カースシーカーのスキルは、イメージによるものが大きいと言われています。そのため、使用時にはスキル名を口にすることで、そのイメージの明確化が行われることが多いです。
スキルの中でも必殺技と呼ばれるものがあり、これはかなり強力な技ですが、原則としてコネクトリンク中でなければ使用することはできません。それ以外の場合で使用すると体内に甚大な影響を及ぼす場合があります。




