主人公くんたち、TS娘の看病に行く
「今日、明上ユーリは病欠らしいわ」
「えっ、本当?もしかして昨日の雨で濡れちゃった?」
放課後、僕たちが集まっても明上さんがなかなかやってこないなと思っていたら風邪だったらしい。
明上さんはまだまだわからないことを知っていそうだから、少しだけ聞いてみたかったのに。
というよりも、明上さんのことをたぶん聞いてみたいんだろうな。いつもなんか、ずっと引っ付かれて聞けないし。
包帯を巻いている手を見る。そういえば手を掴まれた時の体温を思い出す。……なんか変態みたいじゃない?
うん、よくないからちょっと忘れよう。
希沙さんの一件で思い出した、僕がコネクターをやっている理由。傷ついてる女の子を助けたい気持ち。
明上さんを見てると思うんだ、彼女もその対象なんじゃないかって。
きっと、それはあの夢のせいでもあるんだろうけど本当にそうなのか確かめたい。
……明上さんはつかみ所がないから、確かめられるかは微妙だけど。
「どうしたの、篠崎くん」
ずいっ、と希沙さんが僕の顔を覗き込んできた。
「いや、ボーッとしてただけだよ」
「ふーん。ね、今日もやるの?怜菜とのコネクトリンクのやつ」
「……どうしようかな」
……なんかあれから、希沙さんの距離感が近い気がする。というよりも、今まであった壁がなくなったんだと思うけど。
呼び方も『コネクターくん』から『篠崎くん』に変わったけど、これは壁を取っ払ってくれたってことなんだと思う。
「……今日もやるのかしら」
「めちゃくちゃ嫌がるじゃん。篠崎くん泣いちゃうよ?」
「ははは……」
「男は苦手なのよ。しょうがないでしょう」
「大丈夫、私の方がトラウマ深いと思うよ?」
「なんて反応しづらいことを言うの」
琴塚さんと自然とコネクトリンクできるように、軽く触れるぐらいにはしようと思って試してたんだけど、琴塚さんがずっと挙動不審になってうまくいかなかった。
なかなかこっちも根深い問題かもしれない。仕方ないんだけど、やる度に傷つくから何か違う方法がほしいけど。
――がらがらがら
扉が開く音がした。明上さんは来ないはず、誰だろうか。
「んー、ここ明上んとこのチームであってる?」
ぼさぼさの茶髪の女の子が入ってきた。
明上さんの知り合いかな。
「今日は明上さんは休みだよ」
「ふーん、それはいいんだけど。私、このチームに誘われたんだけどなんか知ってる?」
「えっと、誰に?」
「明上」
「……そもそも、名前を聞いてもいい?」
「椎柴帆花、よろしくしないでいいわ」
吐き捨てるように女の子、椎柴帆花さんは言った。
……どういうことだ。明上さんが勝手に誘ったってこと?
確かに、カースシーカーは5人までチームに入れられるけど、普通は相談するだろうし、学校にも言わないといけないんだけど。
一応、明上さんの知り合いなんだろうな。
……それにしても、何か言い方にトゲがあるような。なんか、警戒されてるというか。
僕たちは顔を見合わせた。他二人も知らないようで、首を横に振っている。
「ごめん、後で明上さんに聞いておくよ」
「んー、そっか。あいつが適当なのは今更か。ありがと、こっちからも確認しとく」
がしがし、と頭をかいている。明上さんの知り合いなんだろうか。
「にしても、間が悪いわね。明上ユーリが休みの時に来るなんて」
「そうだねー、ユーリのお見舞いでもせっかくだから行く?」
「それもいいかもね」
と、談笑していると帰ろうとしていたぼさぼさの子がこっちをパッと振り向いて、目を大きく見開いている。
え、何か気になることで言っただろうか。
「まじかまじかまじか……いや、そこまでいってんの。はああああ、思ってたよりも終わってるんだけど……」
と思えば一人でぶつぶつと呟いて、頭を抱えている。……大丈夫かな。
「あっごめん。こっちの話ね。明上と同じ中学だからなんか中学関係で聞きたいことあったら聞いてね。いや、今からやることあるからダメだ……あーもう、一旦これ連絡先ね!それじゃ!」
……捲し立てたかと思えば、連絡先を書いた紙だけ押し付けて帰って行ってしまった。なんだったんだろうか。
「嵐みたいな人だったねー」
「明上ユーリの中学時代、ね。勝手に聞くものではないでしょうけど」
……正直、明上さんの中学時代は気になる。そこに、あの子の本心を知れる鍵があるかもしれない。なんて思うけど、やっぱり勝手に聞くものじゃないよね。
「明上さんのお見舞い行ってみる?」
「……そうね」
「行くー!」
◇◇◇
明上さんの家は、SNSで調子を聞いたときになぜか送られてきたので知ってる。
警戒心がなさすぎる。
「さすがに篠崎くんだから教えたと思うよ?ユーリって意外とガード固いし」
「コネクターの前ではゆるゆるすぎるものね」
「言い方なんとかならない?」
そういえば、お見舞いのためと言って、琴塚さんは何か張り切って準備をしていたけど、この人も面倒見いいよなあ。最初はあんまり人嫌いみたいな雰囲気だったのに。
明上さんが住んでるマンションの一室まで来た。学生寮と実家以外住んでる人は珍しい。
ピンポーン、インターホンを押すと「はぁい」と声が聞こえた。
「うわぁ、みんなだ」
がちゃり、と開いて明上さんが顔を見せる。ふらふらとこちらに身を乗り出した。肌が白いから、顔が赤らんでいるのがとても印象的に見える。
「わー、渚くんがいる。三人いる?」
「まずい、重症だ」
「なんかね、ふわふわするの。ぽかぽかーってなってね、気がつくと倒れてるんだあ」
「本当に重症だ!?うわっ!?」
ふらついて、倒れてきた明上さんを思わず受け止めた。熱い、これ本当に大丈夫???
「……しょうがないわね、中に入って無理矢理寝かせた方がいいわ。いいわよね?」
「わー、家に人が来るなんて久々だ」
「喜んでる場合?ダメそうね。コネクター、早く入りましょう」
「う、うん……」
明上さんを抱き抱えるようにして、室内に入る。勝手に触る感じになってごめん!
薄暗い部屋の中に、物が散らばっていて整理されていないんだな、と意外に思った。明上さんって、そういうところはしっかりしてそうに感じたから。
とりあえず、ベッドに寝かせる。……ここまで酷いとは。昨日、雨に濡れて帰ったのかな。
「ユーリ、大丈夫そう?」
「んんむ、希沙?わあ、希沙だ」
するする、と布団から抜けて希沙さんに抱きついてる。希沙さんの体がぴしり、と固まった。
普段の明上さんに比べて、なんというか毒気を抜かれるというか。
「どうしよう、篠崎くん。ユーリがロリみたいになっちゃった。こんなのローリだよ」
「何を言ってるの???」
希沙さんもおかしくなってしまった。
「熱そうだから少し冷ました方がいいかしら」
琴塚さんは明上さんの額に手を当てる。たぶん、スキルで冷やそうとしてるんだろう。……本来、スキルの私的利用はあんまりしちゃダメなんだけど。
「ちべたくてきもちい……」
にへら、と明上さんが笑うと琴塚さんも動きを止めてしまった。
「コネクター、まずいわ」
「えっ、何が?」
「明上ユーリが、かわいいわ」
「琴塚さん???」
ダメだ、琴塚さんまでやられてしまった。希沙さんに抱きついてる状態の明上さんが、琴塚さんの手にすりすり、と顔を擦り付けようとしてる。
その状態で二人とも固まってしまっていた。……病気の明上さんの破壊力がすごい。
確かに、普段とのギャップがすごいからわからなくもないというか。……いや、正直かわいいんだけど。
でもこれは、小さい子とか小動物に感じるかわいさというか、そういう感じだから。……何に言い訳してるんだろう。
「……ねむい」
ふわぁ、と大きく明上さんはあくびをした。
「そうね、ベッドに戻った方がいいわ」
「うん、ちゃんと寝た方がいいよユーリ」
よかった、なんか二人とも元に戻ってきた。
「みんなで寝る?」
「寝るわ」
「寝よう」
ダメだ、戻ってきてない。そもそもそのベッドは一人用だから三人では寝れないと思う。
さすがに、そのまま三人で寝るという選択肢を取らずに明上さんを寝かせることができた。
「久々に寝れるー……」
ぽやぽやとした状態で、布団に潜っていった。お見舞いとかそういう状態ですらないかもしれない。
久々って、普段はあんまり寝れてないのかな。夜更かししてるとか?
……なんか、この状態の明上さんを放っておくのも嫌だな。とは言っても、僕にできることはないし。女の子のお世話をするのも、ちょっとね。
ぎゅっ、と突然引っ張られた。布団の中から出た手が僕の服の袖を掴まれてる。
「ゆぅりぃ……」
小さな声が聞こえてきた。普通はそういう時、自分の名前を呼ぶのは珍しいと思うけど。
どうせ、このまま出ていくこともできない。少しだけ、明上さんの様子を見ることにした。明上さんの寝顔は、年頃の女の子みたいだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[アーカイブ]
コネクターの中には、稀にカースシーカーと同じようなスキルを使用できる存在も確認されています。最初はそのような能力を持っておらず、後から何かしらの手段で獲得するようですが何が原因でそうなるのかは不明です。
実際にその状態になったコネクターは心神喪失になっている場合が多く、このタイプのコネクターのうちコミュニケーションが取れるのは、ラスト・インヘリタンス一章終了後の篠崎渚のみです。
同様にコネクトリンクを使用できるカースシーカーも存在し、女性ifの篠崎渚がこれに該当します。




