赤髪ポニテは打ち明ける
私がカースシーカーとしてしたかったことがなんなのか、わからなくなっちゃった。
私は中学二年のいつかの日までは、普通の人間だった。聞いた話によると、カースシーカーは深禍による影響と強いストレスによって力に目覚めることが多いらしい。
私も、そんな人のうちの一人。
あの日は、曇りの隙間から日が照らしていた。
私には両親と妹がいる。
「おはよー」
「おはよう、希沙。もうご飯できてるわよ」
「希沙、寝癖がついてるぞ」
「えっ、本当!?」
いつも通りに起きて学校に行く準備をする。妹はまだ寝てるみたい。寝坊助。
「おはよう、お姉ちゃん……」
「ん、おはよ。早く準備して」
「うーん……」
妹は朝が弱いから、私がいつも手伝う形になる。もうちょっとちゃんとしてほしい。私がずっと世話をするわけにも行かないし。
「そろそろ行くよ」
「待って、お姉ちゃん!まだ靴履けてない!」
「はいはい、外で待ってるから」
扉を開けて、外でスマホを見て時間を潰す。がちゃり、と扉の開く音がしたからスマホを仕舞って、妹の様子を見ようとしていた時だった。
私の横を、右手が通り抜けていった。私と、同じ制服。
べちゃり、何かが潰れた音がする。
それが、妹の千切れた腕だということはすぐにはわからなかった。
後ろを振り返れば、潰れた家があった。
そう、私の家。母も父も、まだ出ていないのに。
何もかもがわからない。
ただ、わかることは目の前にいる輪郭のぶれた化け物を許してはいけないということだけだった。
深禍、噂にしか聞いたことのない怪物。蟹の姿をしているそれが何かをやらかした、ということだけは理解できた。
怒りが私に火をつけた。
何に怒ってるかもわからない。気付けば、私の両手にはガントレットがはめられている。
スキルは、イメージの力らしい。その人の思うイメージが力となって具現化する、という説がある。
私は、自分の内側から吹き出る激情を燃やしてひたすらぶつけた。
はじめての戦いに、息が漏れる。勝った、やったんだ。
妹はどこだろう。千切れた腕と、瓦礫の中に埋まる肉の塊がそれだとは知らずに私は探した。
体が半分になって軽くなった父親、足をどこかに忘れてしまった母親を。
見つけても、それが信じられずにずっと探し続けた。
家族は一体どこにいってしまったのか。わからないまま、時間だけが過ぎた。
「希沙、こんなところにいたのか……」
数時間経ったとき、声をかけられた。
「……叔父さん?」
そういや、そんな家族がいた。両親とは仲が悪かったっけ。
「ああ、そうだ。早く避難しなさい。……いや、もしかしてカースシーカーになったのか?なら、ちょうどいい。そこら辺に深禍がいて鬱陶しくてな」
「……まだ、家族が」
「まだそんなものを探してるのか。死んだやつのことはどうでもいいだろう。いいから来なさい」
なんだ、こいつは。家族がどうでもいい?
「いいか、お前の両親は愚図だ。ここでくたばってしまったから、カースシーカーのお前をこんなところで腐らせるはめになった」
ずっとぐちゃぐちゃと言ってる。
「あーもう、早く来い!」
手を掴まれた。痛い。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
「黒河さーん、そっちまだっすか」
「おっ、その子かわいいっすね」
ぞろぞろと、叔父の後ろから人が来る。なんだ、こいつらは。これの仲間か?
「すまない、姪の聞き分けが悪くてな。おい、希沙!挨拶しろ!」
私を掴んで、その人たちの前に向けた。
下卑た視線が全身に刺さった。こんな緊急事態なのに、この人たちは私に何をしようとしてるの?
「ちょっと、黒河さん。俺ら学生趣味はないんすけど」
「や、でもカースシーカーだからよくね?」
ゲラゲラと下品な笑い声が耳障りだ。
叔父は、これらに私を渡そうとでもしてるの?
家族はもうみんな、死んでしまったのに……そうだ。みんな死んでしまった。
なのに、こんなのが生きてる?
許せない。私の心に再び、火が灯った。
そこから先はあまりよく覚えていない。再び深禍が襲ってきて、私だけ生き延びたらしい。無意識のうちに、倒していたんだそうだ。
でも、もしかしたら私があの人たちを殺してしまったんじゃないだろうか。今でもよく考えてしまう。
ともかく、その結果空っぽなだけの私がここに生まれた。生きる意味もよくわからない、ただの子供。
明るい女の子のように、ガワを被る。昔の自分を思い出して、心の奥底を出さないように。
家族たちを殺めた深禍が許せないから、私はカースシーカーとして戦って生きていくことに決めた。
それが、高校に来るまでの私の話。
チームに入ったときも、私の内心は憎悪に燃えていた。
明上ユーリを見たとき、すぐにわかった。この子も私と同じ失った側の人間だ。強烈なキャラクターで隠してるけど、瞳の奥に揺らぐ虚ろがそれを示している。
なのに、この子は本当に楽しそうに毎日を過ごしている。
どうして。あなたも、奪われてきたのに私と違うように過ごせるの。
デートとして誘ったときも、そうだった。全く陰りを見せない。完全に、その気持ちを隠しきっている。
どうして。
私も、そんな風に日常を楽しめればよかった。
その時に気付いてしまった。私は結局のところ空っぽな存在であることを。私には何もないって。
生きている意味がだんだんわからなくなってきた。私は、なんで生き残ってしまったんだろう。
その後のすべて――ユーリを無視することも深禍を過剰に攻撃するのも、八つ当たりだった。
私なんかが生きてはいけないって思ってたのに、篠崎くんには助けられてしまった。こんな人ばかりだったら、私はこうはならなかったのに。
「――っていうこと」
私は、心のうちをかきつまんで話した。
少しユーリには話しにくかったから、外してもらって篠崎くんと怜菜にだけ。
二人とも黙り込んでいる。そりゃそうだ。こんな話、反応しにくいに決まってるよね。
いつもは表情がよくわからない怜菜ですら、悲痛な面持ちで俯いていた。
「ごめんね、重い話をしちゃってさ」
「……ううん、話を聞きたいっていったのは僕だし」
渚くんの手に巻いた包帯が視界にちらつく。罪悪感がちくりと、胸に刺さる。
――ふわり、と柔らかい感触が私の全身を包む。
えっ、なんだこれは。
怜菜に抱き締められていた。
えっ、なんで。っていうかそんなキャラだっけ、怜菜って。
でも、なんだか暖かい。緊張していた体がフッと軽くなった。
「今までよく頑張ったわね」
「……ッ」
涙が込み上げる。
私って泣けたんだ、なんてバカなことを考えた。
あーあ、恥ずかしい。暴走しちゃってそれを止められて、それで人に怪我させたと思ったらわんわん泣いている。
バカみたい。
「……落ち着いたかしら」
「うん、ごめん」
怜菜から離れる。ずっと引っ付いてたらダメになりそうだから。
「あーあ、泣いた泣いた。人を泣かせないでよね」
なんだか恥ずかしくて、誤魔化すように笑った。ひどい顔だからあんまり見られたくない。
「明上ユーリには話さないの?この話」
「んー、そのうち」
「そう」
……八つ当たりしてたからちょっと絡みにくいし。でも謝らないとね。
「ありがとう、二人とも」
自然に頬が緩んだ。
久々に心から笑った気がした。
あーあ、あほらし。なんか感動的な雰囲気でも、私は空っぽのままだし。でも無茶苦茶やって気が晴れた。
これが私流のリストカット、なんちゃって。
……一応、ユーリにも謝っておこ。この空気のままだと気まずいしね。
次も暴走しそうになったら止めてよね、篠崎くん。
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[アーカイブ]
緊急時以外は、カースシーカー及びコネクターは基本的に高校生として育成機関に入ってからでないと出撃することができませんが、以前は中学生以下でも能力面に問題がない場合は出撃が許されていました。
ただし、深禍被害者の中学生の死亡率が許容範囲を超えた影響で現在は廃止されています。
明日から1日一回になります




