TS娘、ハブられる
本当に危なかったー!
急に希沙が飛び込んでいくんだもん。にしてもなんとかなった、んだよね?
暴走する希沙のところにいく渚くんは正直かっこよかったね!
傷ついてる女の子に手を伸ばしたい、それこそが篠崎渚の原点だからね。その事を思いだした渚くんが、みんなを助けていくんです。
でも、希沙のイベントって本来はさ、もうちょっと簡単なのを何回も挟んで仲良くなった後、希沙の闇が見えてそれを解決!するはずなのに。
なんか全部吹っ飛ばしちゃったじゃんね。
ってかさ、これ私のせいなのかな?
いやその、希沙の闇を刺激したのは私じゃないですか。
黒河希沙ってキャラクターは、カースシーカーとして覚醒したときに家族を失ってる。両親と妹が深禍に殺されてる。
仇討は済ませてるけど、そのときにたまたま出会った叔父がひどかったりして人間不信になっちゃった子だ。
だから抱えてる闇は深いのだけど、そのどこに私が影響してるのかがよくわかんないよね。
私はすでに折り合いをつけてるから違うタイプなんだけども、それがよくなかったかな。
ごめんね、原作とキャラ違うくてさ。
戦いが終わった後は、なんか希沙と渚くんが並んで歩いててちょっと距離近かったんだけど。これはもう落としたりしてました?
えっ、もうですか?やりすぎですよ主人公くん!
……って思ったんだけど、普通にふらついてる希沙を渚くんが支えてるだけだった。なんかちょっと希沙が晴れやかになってるし、二人とも呼び方変わってるから距離は近づいてはいるんだけどね。もう一歩ってとこか。
もしかしてこのまま行くと、私って負けヒロインになってる?
やぁだぁ!
渚くんの情緒を乱して、命を落として一生消えない傷を作りたいのに!
でも、別にヒロインとして勝たないといけないわけではないな……じゃあいいか。
そして、今どうなっているかというと……絶賛私はハブられています。なんで???
ちょっと振り返ります。
まず合流した後、希沙からの謝罪を聞いた。
「……みんな、ごめんね」
力なく、絞り出すような声。暴走していた時とは思えないぐらいに大人しくなってる。
「今度からは気を付けて欲しいけれど」
「うんうん。希沙が一人で突っ走っちゃうと私が困っちゃうからね!なんであんなことしたか、お姉さんに話してみなさい!」
そっけなく言う怜菜に乗っかって、胸をどん、と叩く。怜菜と渚くんから変な目で見られてるけど、今さらだからなにも言われなかった
すると、希沙の瞳が私を捉えてから、視線を逸らした。
「……ユーリには話したくない」
「なんで!?」
「なんでも」
……まあちょっとわかってますけども。
というわけで、私以外のメンバーで希沙のメンケアすることになっちゃったってこと。
でもちょうどやりたいことがあったからね!そっちをこなしていくよ。
というわけで、別の仕事にレッツゴー!
◇◇◇
で、何かをするのかだけど。新しくチームメンバーを誘います。
私って序盤に退場するキャラなわけで、そうなるとカースシーカーは希沙と怜菜二人になってしまう。
ゲームだとその後にメンバーが来るんだよね。その人に先に話をつけに行こうってことです。これも、原作の行動だから必要なんだよね。
補足説明をすると、1チームには原則として最低三人のカースシーカーと決められているからね。
ただ、ちょっと行く気があんまりしなくてですね。その、中学の頃の知り合いだから……。その頃の私ってまだおじさんは男だぞ!って意識が強かったから、その頃の自分を知ってる人には会いにくいというか。
でも行くしかないんだけども。
ちなみに、本来カースシーカーってみんなチームに編成されるけどワケアリの子たちは省かれる場合がある。今回はそういう人。
そんなわけで私がやってきたのは学生寮。カースシーカーとコネクターは天涯孤独みたいになってる子がまあまあいるので居住地も用意されているのだ。
私みたいに一人暮らしもいるけど。
目当ての人の部屋の前に立って、チャイムを押す。
はーい、と気だるげな声と共にがちゃり、と扉が開いた。
ぼさぼさの茶髪と、よれたシャツ。だらしない雰囲気の女の子が扉の隙間から姿を見せる。
「……誰?」
「おひさ」
「………………明上?」
「うん」
「……違うか」
「いや合ってるけど」
「…………?」
「高校デビューしました、なんちゃって」
「…………はあ」
がしがし、とぼさぼさの頭をかきながら悩んだ後、大きくため息をついた。
「まあ色々あったからしょーがないか。入りなよ」
「いいの?入っても」
「……あんた、ここで中学の話されたいの?」
「入らせていただきます」
このだらしない女の子が、新しくチームに入る予定の新ヒロイン――椎柴帆花だ。
今はこんな感じだけど、本来はもうちょっとちゃんとした格好をしてる。
部屋の中を見ると、床に様々なものが散らばっていて足の踏み場があんまりない。……ちょっと汚すぎるな。
なんとか座れるスペースに案内されて、ものを押し退けて座った。
「で、あんた本当に明上なの?」
「うん」
「あの、明上そ――」
「はい、ストップ!話が進まないから!」
疑い深い。じろり、とこちらを睨み付けた後、諦めたようにため息をつかれた。
「変わりすぎでしょ、あんた」
「そうかな」
「普通の女の子みたいになって、きもちわるっ」
「ひど」
「めんどくさいから、素で話しなよ。そうじゃないとあんたと会話しにくいから」
今の私を否定される。
どうしても、《《私》》じゃなくて《《俺》》と話したいのだろうか。
…………こうなるから嫌だったんだ。心の奥底に沈めてたのに、わざわざ引っ張り出されそうになるから。
でも、変に帆花と拗れたらめんどくさい。彼女には私がいなくなった後をなんとかしてほしいし。
目を瞑る。自分の心を切り替える。
胸のうちに沈められたそれを、呼び起こした――
「――んだよ、別に《《俺》》が女っぽく話しててもいいだろ」
「わあ、すごい変わり様ね。明上はそうじゃないと」
胡坐をかいて、ぶっきらぼうに話してやる。
帆花の表情が少し明るくなった。さっきまで気味悪いものでも見てるみたいにしやがって。
自然と、さっきまで俺の顔に張り付いてた微笑みや明るさが剥がれていって、無愛想な俺だけが残る。
「うっさい。こうしないと話聞いてくれないし。私じゃなくて、俺がいいなんて意味わからんだろ」
「このツンケン具合も明上っぽくていいわー、久々に知り合いとあった気がする」
「何に喜んでるのかわけわからん」
扉を開けたときの気だるげさが嘘みたいに消えてる。何に喜んでるんだよ。
「んで、私に何の用?」
「ああ、チームに入って欲しいと思って」
「は?」
目をぱちぱちと瞬かせる。毛先をいじってる手が止まった。
「だから帆花に私のチームに入って欲しいってこと」
「戻ってる」
「あーもうめんどいな……俺のチームに入って欲しいってことだけど。すぐじゃなくていいけど」
「……なんで?」
「俺のチームって近接と遠距離が他にいるんだけど、遠近両方対応できる人がもう一人ぐらい欲しいと思ったんだよ。知り合いで空いてそうなのが帆花ぐらいだったから」
「……嫌に決まってるでしょ」
「ダメか」
さすがに簡単にOKしてくれないか。そもそもいきなりだし。そもそも、一発でOKをもらうつもりはないけど。
「てっきり墓参りにでも誘われるのかと思ったけど」
「――」
「生き残ってる知り合いが私か原口ぐらいしかいないから来たと思ったのに」
「……チームの話はやっぱりダメか?」
「ふぅん、そっちの話はしたくないってわけね」
久々に、俺の胸元に嫌なものがじわじわと染み込んでくる。
あの時の感触、匂い、深禍たち。使ったスキルの感覚。思い出さないようにそれらを振り払う。
「……そもそも墓参りは今の時期じゃないだろ」
「それはそうね。チームの話ね、今の私にできると思う?」
自嘲気味に笑う。
ごみだらけの部屋。整えてない身だしなみ。たぶん、ろくに外に出ていない。
あれからずっと、この調子なのだろうか。
家族が殺された日、カースシーカーの力に目覚めてひたすら暴れまわってたあの日から。
「高校には入学したけどね。まだ私には吹っ切れてない。……ろくに外に出れない。あんたもでしょ」
「んなことねーよ」
「そうは見えないけどね。高校デビューしたのってそういうことじゃないの?」
本当に嫌なやつだ。人の心にずかずかと入ってくる。
はあ、疲れた。このままこいつに付き合うのもめんどくさい。
再び、私を被る。俺を奥底に沈めて、勝手に浮かんでこないように。
「……違うよ。私は、普通に女の子っぽくしたかっただけ」
じろり、と帆花の目付きが鋭くなった。私のことはよっぽど嫌か。
「嘘つきは嫌いだから、あんたのチームには入ってやんない」
「めんどくさ。私はもう折り合いをつけてるよ」
「そう。やっぱり気持ち悪いわあんた。帰れ帰れ」
しっしっ、と手を振って追い払おうとしてくる。
交渉不成立らしい。
でも、別に今加入して欲しいわけじゃないし。
だから、去り際に最後に一つだけ。
「じゃあさ、私がいなくなった後にチームをなんとかしてよ」
めんどくさかったので、返答は聞かなかった。
「どういう意味!?」
……聞かないつもりだったけど、大声が聞こえてきたので無視した。
どうせ、答えられないし。
ああ、でも。チームへの誘い方はちょっと急すぎたかもね。
……寝よ。
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[アーカイブ]
倒した深禍の死体を調べることで、深禍がやってくる未知の空間の研究がされています。
今のところ、その研究によって深禍が出てくるタイミングと場所を事前に確認できるようになりました。
ただ、深禍の体はカースシーカーとコネクター以外はまともに触れることができない影響であまり進んでいません。




