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第27話 揺れる二人の距離

冬休みももうすぐ終わる。

新年の始まりを前に、街はどこか慌ただしさと華やかさで溢れていた。


俺は天宮さんと待ち合わせて、駅前のショッピングモールに来ていた。

「お正月っぽい何かをしよう」って、彼女がちょっと強引に誘ってくれたのだ。


「遅れてごめん、祐くん!」

改札を出てきた天宮さんは、

お気に入りの白いダッフルコートに身を包んで、小さく手を振る。


「全然、俺も今着いたとこ」

自然に微笑みがこぼれる。


エスカレーターで2階のフロアへ上がると、

福袋や新年限定の雑貨を手にする人たちが行き交っていた。


「ね、せっかくだし初売り見て回ろ?」

天宮さんが腕を組んでくる――その動作が、

“恋人”っぽくもあるけれど、

まだどこか“お試し”の枠を出きれていない自分を感じさせた。


俺たちは雑貨店や本屋を巡りながら、

とりとめもなく話す。


「新しい手帳、買おうかな。

去年のは三日坊主で真っ白だったけど……」


「今年こそ続くといいね」

俺がからかうと、

「絶対続けるもん!」とむきになる天宮さん。


ふいに、

「祐くんは何か“新しい目標”ある?」

と聞かれて、少し考え込む。


「……まだ分からないけど、

天宮さんと一緒にいる時間を、もっと大事にしたいとは思ってる。

“お試し交際”のままじゃなくて、

でも今すぐ本気の恋人になる勇気もまだなくて……。

何か、中途半端だなって思うこともある」


天宮さんはちょっと驚いたような顔で、

でもすぐに、優しく微笑んだ。


「私も似たような感じ。

本当は、もっと踏み込みたいし、

“祐くんの特別になりたい”って思ってる。

だけど、まだ少しだけ怖いの」


二人は、

店内の喧騒の中で、

まるで世界から切り離されたような感覚に包まれた。


「ね、祐くん」

天宮さんが、小さな声でささやく。


「私たち、ずっとこのままじゃいられないのかな……」


「……分からない。でも、

焦らなくてもいいと思う。

今はまだ、

こうして一緒にいられるだけで十分だって思えるから」


天宮さんは、

そっと俺の手に自分の指を絡める。


「ありがと。

もう少しだけ、今のままでもいい?」


「うん。

俺も今は、それが一番自然だと思う」


二人の間に漂う曖昧さも、

この日だけは心地よく感じられた。


◇ ◇ ◇


ショッピングモールのフードコートで、

うどんと甘酒を分け合いながら笑い合う。


「こういうのも、お正月っぽくていいね」


「祐くん、甘酒似合わない!」


「それ失礼じゃない?」

でも、ふたりで顔を見合わせてすぐ笑いが弾けた。


今日だけは、“曖昧”が愛おしかった。


◇ ◇ ◇


フードコートでのんびり過ごしたあとは、

駅前のイルミネーションを見に外へ出た。


冬の空気は透き通っていて、

通りには白や金色の光がちりばめられている。

カップルや家族連れが記念写真を撮る中、

俺と天宮さんはゆっくりと歩きながら話を続けた。


「こうして歩いてると、

“お試し”でも、十分幸せだなって思うんだ」

俺は照れくさくて、ごまかすように言った。


天宮さんはうなずきながら、

「うん、私も。

祐くんといると、心がほっとするし、

特別なことをしなくても、それだけで嬉しいの」


少し沈黙があって、

二人とも寒さに肩を寄せ合う。


「でも……」

天宮さんが小さく呟いた。


「やっぱり、このままじゃダメなのかなって思う瞬間もある。

他のカップルみたいに、ちゃんと“恋人”って呼び合ったり、

記念日を作ったり、

そういうの、憧れたりする」


俺は、その気持ちが分かるような気がした。


「きっと、そういう日がいつか来るよ。

でも、今はまだ、“好き”って気持ちが怖いくらい大きくなりすぎて、

どうしていいか分からないだけで……」


天宮さんは、ふいに立ち止まった。


「祐くん。

もしも、いつかちゃんと“恋人”になる日が来たら、

最初に言いたいことがあるの」


「え?」


「“ありがとう”って。

お試しのままでも、一緒にいてくれて、

優しくしてくれて、

不安なときも笑ってくれて――

全部、すごく救われたんだ」


俺は少しうろたえて、

でも、正直な気持ちを返した。


「……俺も同じだよ。

天宮さんがいたから、

自分がちょっとだけ強くなれた気がする」


彼女がそっと手を握る。


「今日も一緒にいてくれて、ありがとう」

「こっちこそ、ありがとう」


二人で見上げた夜空には、

遠く瞬く星と、街の光が重なっていた。


◇ ◇ ◇


帰りの電車のホーム。

並んで立つ時間が、

なぜか一番名残惜しくなる。


「またすぐに会えるのに、

なんだか寂しいね」

天宮さんが微笑む。


「うん、俺も」


ドアが開く音、電車のあたたかい風。


「じゃあ、またね」

「うん、また」


最後の最後に、

天宮さんが小さく手を振ってくれた。


それだけで、今日一日が宝物みたいに思えた。


◇ ◇ ◇


その夜、

スマホには「今日の写真」と「また行こうね」のメッセージ。

お試しのままの、でも確かな繋がり――

それが、いまの自分には何より大切に思えた。

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