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第25話 みんなの応援

冬休みの終盤、空気は澄んでいるのにどこか寂しさも混じる。

そんなある日、俺たち三人は再びカフェに集まっていた。

いつもの窓際の席、温かなココアとふわふわのブランケット。

けれど、今日の主役は明らかに凛だった。


「……それでね、先生に“やってみなよ”って言われて、

やっと“主役やります”って返事したんだ」


凛が少し照れくさそうに笑う。


「すごいよ、凛ちゃん!」

天宮さんがすぐに声を弾ませる。

「ずっと脇役で頑張ってきたの、私たち見てきたし。

主役ってやっぱり全然違う?」


「うん……プレッシャーもすごいし、

何より“自分が舞台を引っ張るんだ”って実感した。

でも、なんかね、先生が“主役ってのは一人じゃできない、

みんなが支えてくれるから成り立つんだよ”って言ってくれて。

それを聞いたらちょっと気が楽になった」


「応援するよ!」

俺も思わず前のめりになる。

「もしセリフ覚えとか稽古とか、手伝えることあったら何でも言って」


「ありがとう! 実はさ、明日から舞台稽古が本格的に始まるの。

でも、私やっぱり人前に立つと急に緊張して……

この前も全然声が出なくなってさ、

本番でもそうなったらどうしようって思うと眠れないくらいで」


凛がぽつりと言うと、天宮さんがすっと手を握る。


「それなら練習、私たちが相手になるよ。

観客役、演出家役、何でもやる!」


俺も「台本の読み合わせとか、全然付き合う」と即答した。


「ありがとう……。

二人がいてくれると、怖い気持ちも半分くらい消えるんだ」


凛の笑顔は、どこか涙ぐんでいるようにも見えた。


◇ ◇ ◇


ココアを飲み終え、

カフェを出てから三人は公園のベンチに座った。


「じゃあ、今からちょっとだけ稽古しようよ」

天宮さんが言い出す。


「今!? 外で!?」

凛がびっくりする。


「緊張する場所でやるのも良い練習だよ」

天宮さんがにやりと笑う。

「人の目があるからこそ、慣れるのも大事なんだって」


俺も「よし、やろう」と台本のコピーをカバンから取り出した。


冬の冷たい空気の中、

ベンチに並んで本気の“即席舞台”が始まる。


「最初のセリフは……」

凛が深呼吸し、目を閉じてからゆっくり口を開く。


「“私は、この舞台の上で、何かを変えたい――”」


台本を読む声は、最初こそ小さく震えていたが、

天宮さんが「大丈夫、ちゃんと届いてるよ」とそっと返すと、

少しずつしっかりした音になっていく。


俺も脇で台詞を繰り返し、

凛のセリフが噛んだり詰まったりしても、「そこがリアルでいいよ」とフォローする。


だんだん冬の空気にも負けないくらい、

凛の声が澄みきっていった。


◇ ◇ ◇


「ありがとう……」

稽古を終えて、凛はしみじみと二人にお礼を言った。


「こうやって支えてもらえると、本当に頑張れそうな気がする」


「私も、本番が楽しみになってきた!」

天宮さんが笑顔で応じる。


「絶対観に行くから!」

俺も力強く言った。


「……緊張して泣いちゃったらどうしよう」

凛がぽつりと呟く。


「そのときはみんなで一緒に泣こう」

天宮さんが優しくそう言った。


三人で笑い合う冬の午後。

舞台の幕が上がるその日まで、

この絆はきっと強くなり続ける――

そんな確信を、静かな胸の奥に抱きしめていた。


◇ ◇ ◇


それから数日、

冬休みが明けても、放課後は三人で会うのが当たり前になった。


凛の演劇部では本格的な稽古が始まっていたが、

放課後や休日には必ず俺たちが“応援チーム”として参加した。


「じゃあ今日は“通し稽古”のつもりでやろう!」

天宮さんが声をかけると、

凛は大きく深呼吸をして、役に入り込む。


公園のベンチや、学校の空き教室。

場所はどこでも関係なかった。


「“私は、夢を叶えたい。だけど怖い。――でも、誰かが背中を押してくれるなら、

私、もう一歩前に進める気がする”」


凛の声は最初よりもずっと大きく、はっきりと響いていた。


「……すごいよ凛ちゃん。最初のころとは全然違う!」

天宮さんが拍手する。


「ありがとう!

でもやっぱり、本番はぜったい緊張すると思う」


「それでも大丈夫。

舞台の上に立った凛ちゃんを、私も祐くんも全力で見てるから」

天宮さんが優しく微笑む。


「俺も、きっと感動して泣くと思う」


「……やっぱりみんなに応援されるのが、一番心強い」


凛は少し恥ずかしそうに言った。


◇ ◇ ◇


演劇部の先輩や後輩たちとも仲良くなっていく中で、

凛は“主役”としてだけでなく、

周囲をまとめるリーダーとしての資質も見せ始めていた。


困っている後輩を見つけては声をかけ、

裏方の仕事も率先して手伝う。


そのたびに「ありがとう!」と声をかけられ、

凛の笑顔が少しずつ自信に変わっていくのが分かった。


放課後の帰り道、

天宮さんがぽつりとつぶやく。


「凛ちゃん、なんか最近すごく頼もしくなった気がする」


「うん、俺も思う。

最初は“みんなの後ろ”にいるイメージだったけど、

今はちゃんと自分から前に出てるよな」


凛は照れ笑いしながらも、

「二人が応援してくれるからだよ」と真っすぐ言った。


◇ ◇ ◇


いよいよ公演の前日。


「緊張して眠れないかも……」

凛がLINEで弱音を吐く。


【天宮さん】

「眠れなくてもいいから、

不安なことがあったら何でも送って!」


【俺】

「本番の舞台袖にも、ずっと応援メッセージ送るから。

だから、絶対大丈夫!」


深夜のグループトークは、

三人の「大丈夫」が何度も何度も飛び交って、

やがて安心したようなスタンプが連続する。


“応援する側”も、“挑戦する側”も、

こんなふうに支え合うからこそ、

それぞれの一歩を踏み出せるんだと思った。


◇ ◇ ◇


そして当日――

劇場のロビーは熱気に包まれている。


観客席で天宮さんと並んで、

俺はドキドキしながら開演を待っていた。


舞台に凛の姿が現れたとき、

客席全体が一瞬静まり返る。


「“私は、この舞台の上で――

何かを変えたい”」


その声ははっきりと、会場のすみずみまで届いていた。


俺は思わず手を握りしめ、

天宮さんも目を潤ませていた。


凛の挑戦は、

こうして大きな一歩になったのだ。


◇ ◇ ◇


公演後、楽屋の裏で。


「最高だったよ!」

天宮さんが真っ先に凛に駆け寄る。


「緊張して途中で泣きそうになったけど、

みんなが応援してくれたおかげで乗り切れた」


凛の顔は、今までで一番晴れやかだった。


「ありがとう、二人とも。

これからも、もっといろんなことに挑戦してみたいな」


三人で肩を寄せ合い、

冬の光の中で新しい一歩を踏み出していく。


「次は何にチャレンジする?」


天宮さんの問いかけに、

俺も凛も胸を張って答える。


「どんなことでも、みんなで支え合えば絶対大丈夫だよ!」

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