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修了

1916年5月下旬、ソンム県仮設飛行基地。

選抜された100名の日本人航空訓練兵のうち、実機での滑走・離着陸・基本飛行を無事に修了した者は78名。残る者も指導を継続しつつ、最終段階の「空中戦および偵察訓練」へ進む手筈が整えられていた。


教官席では、滋野清武大尉が仏軍のグルニエ中尉、英軍のストーン中尉とともに、訓練成果の評価をまとめていた。


グルニエ中尉は、資料を閉じて静かに言った。


「Je suis surpris. Leur progrès est rapide et discipliné.(驚いたよ。彼らの進歩は早く、実に規律正しい)」


ストーン中尉も頷く。


「They’re like sponges. They absorb everything.(彼らはまるでスポンジのようだ。すべてを吸収する)」


通訳伍長が即座に日本語に訳すと、滋野は静かに微笑みながら答えた。


「彼らは死にもの狂いですから。落ちれば終わり。兵士としての習性です」


グルニエ中尉は言葉を選ぶようにして返す。


「Mais… voler, ce n’est pas la guerre ordinaire.(だが、飛ぶということは、普通の戦争ではない)」


滋野は頷いた。


「だからこそ――命を懸ける価値があります」



滋野清武の観察記録より


訓練第6週に入り、初期段階の離着陸訓練はほぼ全員が完了。

中でも白石伍長、三谷一等兵、そして福岡出身の原口一等兵は操縦の安定性と判断力において抜群。

機体の挙動に対する反応速度が速く、反復学習への適応も良好。

一方、宮城出身の五十嵐兵、福井出身の堀兵は、若干手順の反復に不安が残るが、集中力と精神的耐久力に優れ、時間をかければ克服可能と判断。


教官側の評価は、英仏ともに概ね好意的。特に整備面での細やかな気遣い、器材の扱いの慎重さは高評価を得ている。

通訳を介しているとはいえ、軍人としての意思疎通の素早さと即応性には、仏軍将校すら驚いていた。



訓練修了した日の夜。

焚火の灯りが揺れる中、三谷一等兵が缶詰を突きながら呟いた。


「明日からは、本当に空戦ばいか……」


原口一等兵が笑う。


「お前、最初の頃は飛行機見るだけでゲロ吐きよったやん」


「うるせぇ!いまじゃ目つぶってもエンジン掛けられるわ!」


近くにいた五十嵐一等兵が静かに呟く。


「空から見た、この国の大地……俺たちが今まで生きとったのとは、まるで別世界だな」


「おいおい、詩人か。そんなこと言ってると……空の奴らに嫉妬されるぞ?」


一同、笑う。


だが、焚火の光が揺れる奥で、白石伍長が口を開いた。


「冗談抜きで、次に空を飛ぶ時は……下から撃たれる可能性もあるんだよな」


火がパチッとはじけた。しばしの沈黙。


「生きて帰ってこよう。な?」


その言葉に、皆が頷いた。

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