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25-ミエタ-

 颯希は、滉の能力をノートに書いて、少し考えた。


 相手のこととその家族、また相手と関係が濃い人物のことが分かる。つまりは、相手が言わない情報を引き出せる、と言うこと。亜妃と会話していたのは、これのことなのか? あと、亜妃はこれを知っている、ということになるのか。相手の気持ちとか、考えとかを共有することはできないのだろうか。

 颯希は、そこまで考えてふと疑問ができた。


「ねえ滉。額と額を重ねて、能力が発動でしょ?」

「ああ」

「その時って、相手の気持ちとか考えとか滉も感じ取れちゃうわけ?」

「そうだ」


 頷きながら答えた。

 なるほど。なら、亜妃の考えもわかるかも知れない。そう思って、颯希は新しいページを開く。


「亜妃の考え、わかった?」


 ペンを回す。滉が頷いた。


「どんなの?」

「……あいつは、誘拐を止めたいと思っているらしい。昨日、亜妃の能力を言った通りあいつの能力で子供たちは忠実な部下になっているんだ。

 亜妃は過去、いきなり現れた七人才にぼろぼろにやられたことがあって、そいつらに無理やり仲間に引き込まれている。だから、七人才は憎いし、王族のことを嫌っている。そいつらの言いなりになることは亜妃が一番反発している。何も知らない子供たちを誘拐したくないと思っているし、その子供たちの中から、自分と同じような子が出来てしまうのを一番恐れている。欲しくない能力を得てしまい、王族や七人才の暴力に怯え、従うような子が」


 颯希は、滉が言っていることをノートに書いた。滉はそれがわかっているのか気持ちゆっくりと言ってくれて颯希は一字も聞き漏らすことなくノートにとれた。

 ぼろぼろにやられた、というのは彩里の話から聞いた金の腕輪をつけて帰ってきたときのことだろう。


「誘拐を止めてくれるのに、颯希が協力してくれる、って思ってる」

「わたしが?」

「ああ。颯希は絶対に、ってな」

「無責任だな、亜妃」

「そう。でも、信じてたぜ、颯希のこと」


 黒の瞳が颯希を見つめる。颯希も見つめ返した。

 亜妃にそう思われていたのか。彩里も、亜妃も無責任なことを考える。そんなに期待されても、わたしは何もできないと大声で叫びたい。でも、信じられているのならその気持ちに答えたい。


「うん。信じられてるなら、まあ頑張るけど」


 滉が笑って、颯希の頭に手を置いた。


「俺たちも頑張るよ」


 そのままベッドに移る。真ん中の机には颯希しかいなかった。


 颯希はノートを能力のことを書いているページに変え、亮の方を向いた。


「亮の能力は、なに?」


 少し亮がためらうようなそぶりを見せた。


「この二人みたいに珍しいものじゃない。……俺は、透視ができる」

「透視?」


 亮が頷いた。


「簡単に言えば、物の向こうとか、中とかが見える。だから狩猟が得意なんだ」


 なるほど。千里眼みたいなものか。


「亮の能力で、内部破壊とか分かるのよ。どこが、悪いとかどこがけがしてるとか。見た目で分からないのを見つけて、わたしが直すってわけ」


 彩里が補足した。それはすごいペアだ。この二人は絶対何かある。


「今日言った、その内臓の内部破壊とかそういうのに使ったの?」


 彩里は頷いた。それを聞いたとき思った疑問もぶつけてみることにした。


「それ、何でやってわかったの?」

「動物」

「……だよね」


 よかった~。と呟いた。人間とか言われたらどんな状況なんだと聞きたくなる。


「そろそろここでようぜ」


 滉が言った。まだ聞きたりていないことがいくつかあるから反対しようと思ったところに亮が言った。


「そうだな。何か来る、っていうか来てる」


 その発言通り、その時すでに宿の外には黒服の軍団がいた。活気づいていた町並はその軍団のせいで人気がない。


「なにあれ」


 颯希が呟きながら、ノートなどをバッグに放り込む。


「どー見ても、王族の奴らだろ。それにほら、あいつら首に銀のチョーカーつけてやがる」

「ってことは……メランドリ家!」


 戦いが得意な家だ。少なくとも五十人以上はいる。一つの隊だろうか。こんな街中で戦うつもりなのか?


「あいつらなんだ?」


 亮が言った。


「何をしようとしてるんだ?」


 亮の言った通り、メランドリ家の(と思われる)者たちは一向に動こうとしない。元々荷物などない三人も、颯希ももう逃げる準備はできているので窓に張り付いている必要はない。


「まあいいわ、早くいきましょう。入口から出るより、裏口から出た方が」

「いや、裏もまわってる」


 彩里の発言を亮が遮った。何もしなくても能力が発動できるのか、と感心していながら八方ふさがりの現状をどうしようかと考えた。


「てか、あいつら動く気ないみたいだし、俺たちも動かなくていいんじゃない?」


 滉が言った。窓に肘を立てて、外を見ている。確かにそうだ。動く気はなさそう。だがもしせめて来たら……。


「せめて来たらどうするのよ」


 彩里が言った。それに同意を示すように頷く。戦う術はあるが、五十人と戦う気はない。


「俺たちが狙いって決まったわけじゃない。第一、なぜ俺たちが狙われる?」


 そりゃ、亜妃と知り合いだから。言いおうとして口をつぐんだ。亜妃と会っているのを、王族が知っているのか分からないのだ。


「じっとしてよう」


 亮が言う。動きを見せないほうがいいかもしれない。何が目的なのか分からないメランドリ家(予想)のやつらに、存在を気付かせないのも一つの手。

 こんな状況では、ろくな質問もできるのかどうか。


 その時、ドアがなった。まったく、考えてみなかったその音に驚く。四人がそれぞれ身構えるが顔を出したのはここの宿の人だ。


「朝ご飯をお持ちしました」


 ああ、そうだ。ご飯を食べていなかった。バッグの時計を見ると、九時を回っている。朝食をとるのには、遅くないだろうか。


「ありがと、そこら辺に置いといて」


 彩里が言うと、宿屋の人は朝ご飯を置いて一礼して出て行った。


「俺たちの分もあるな」


 亮が言う。驚いたようだ。


「先に部屋に行ったんじゃない?」

「ああ、そうか」


 彩里の答えに亮が頷いた。朝ご飯は、パンにハムに野菜だった。


「もろ洋食じゃん。ここ、どういう文明の発達をしてきたの?」


 意外とおいしい野菜にかぶりつきながら颯希は言った。


***


 四時間後、昼になってもメランドリ家の者たちは動かなかった。


「あいつらマジで、何が目的なんだよ」


 滉が呆れているように言った。


「パッと出て行って一人かっさらて能力で聞いてみれば?」


 颯希の茶化したような言い方に滉は


「できるならやってる」


 と答えた。

 メランドリ家の実力がどのぐらいかは知らないが昨日の女より弱いことを望む。多分、ラド家の者だと思うが戦うために生きていない滉に少し押されていた感じがしていたのできっと強くはないだろう。颯希はナイフでけがをして戦線離脱だったが。


「メランドリ家ってどのぐらい強いのかしら」


 亜妃と滉にナイフを教えた彩里が言った。小さい部屋にすることもなく何時間もいるのは疲れた。


「さあ」


 滉に狩猟(銃の扱い)を教えた亮が答えた。


「亮の銃でみんな一気に打っちゃえば?」


 颯希が滉に言ったときと同じように少し投げやりに言う。


「……無理だな。俺は人を殺したくはない」


 その声が切実で、不思議だった。意外とまともな返事が返ってきたのには亮の丁寧さが伺えた。



 無駄な四時間を過ごしたので颯希は少し、イライラが募っていた。そのイライラを先ほどの二人に言った言葉に乗せたのだがそう簡単に解消されなかった。四角いおにぎりにかぶりつく。


「もう暇だし質問していい?」


 窓際に陣取る滉に言う。亜妃の気持ちや考えも読み取れる、と滉が断言した時からずっと気になっていたことだ。平静を保っていたがあの質問をしているとき心のどこかで何かが大きく歪んだ。


「何を?」

「わたしの時、何を見たの?」


 滉は振り向いて首を傾げた。そしてすぐに理解したようで、また窓際に視線を移す。


「何も」

「本当に?」


 その颯希の言葉に、滉は黙った。ついさっき来た昼ごはん(今度はやはり四角いおにぎりに野菜にフルーツ)のフルーツにかぶりつく。


「嘘」


 ぺろりと口についた果汁を舐める。その行動に颯希はドキッとして、自分を不思議に思った。


「見えたよ、結構すっごいの」


 またフルーツをかじって、今度はフルーツの方に垂れた果汁を舐めた。


「颯希の、おばあちゃんのこと」


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