23-コウ-
亜妃が去って、滉に能力があるのではないかと疑い始めた、その日の夜。戻るにはつらい距離なのでそこら辺にあった宿に泊まる。女子男子部屋に分かれるが寝る前に女子の方の部屋に集まって今日の情報整理をした。
部屋にはそれぞれ壁際にベッドが二つあり真ん中に机があった。その机に颯希が座りそれを取り囲むように三人はベッドに座っていた。
「彩里さ、見越してのことでしょ」
颯希が言った。彩里は一瞬何のことか分からなかったようで首を傾げる。
「日記のことよ」
今日、亜妃が日記を勝手に読まれたと知って怒った。それは誰だってそうだ。しかしその怒ったことで亜妃のリミッターが外れ有益な情報が手に入った。違うと思うが聞いてみようと思っていた。
「違うわよ」
彩里は笑顔で言い放った。
「だって亜妃の家に行ったとき、亜妃の日記があったら見たくなるものじゃない。一年ぐらい一緒に住んでいた子のよ?」
颯希は少し違うと思うが頷いてペンを回した。
「まあいいけど。で、今回亜妃から得られた情報だけど結構いい。一つずつ言っていくよ。えっと、一つ目、誘拐するのは王の命令。二つ目、誘拐はやりたくない。三つ目、誘拐を止めてほしい。四つ目、誘拐された子供たちは城の中にいるが、何をされているのかは不明。五つ目、能力は明かさないが周辺警護を任されている六つ目、子供たちを自分――ああ、王に忠実で完璧な兵士に育てる。七つ目、その兵士を使っての地球を攻める……征服したいのか何なのか」
呆れながら最後の文を読み終え、颯希は周りを見た。
「誘拐された子供たちは城にいるのは、まず間違いないわね」
彩里が言った。隣の亮が頷き付け加える。
「さらにその子供たちに何かをして、忠実で完璧な兵士に育てている」
ため息をつき、颯希は思った。この情報から特に何も得られない。もういっそ、滉に鎌かけて能力を白状させようか。
「ひとつ二つ、言っていい?」
滉だ。どうぞと言う風に頷く。
「まず亜妃の能力だけど、颯希が言った通り記憶関係だ。記憶の削除、捏造ができる。簡単に言えば、記憶の改変だな。そうすれば、王に忠実な兵士は簡単にできる」
一瞬、滉を見る目が険しくなる。女と戦ったときとは明らかに、〝亜妃〟という名の響きが違う。そしてなぜそう言い切れるんだ?
しかし、なるほど、と納得できるものでもある。亜妃が今までの記憶を削除して、そして新しい嘘の記憶を入れる。そうすると、記憶によっては王に助けられたとかで、忠実な兵士はいくらでもできるからだ。
「消してしまった記憶をもとには戻せるの?」
「ああ。ただ、亜妃がすごく疲れるだけだ」
颯希の質問だ。亜妃が疲れるのは知ったこっちゃないが、子供たちを誘拐される前の状態に戻すことは可能だろう。亜妃が、子供たちの記憶操作に関わっていたとしたらの話だが。
「それ以外には?」
颯希が聞いた。きっと滉は知っている。亜妃と一対一で話していたときの内容なのだろう。能力と関係あるのか。そう颯希は勘ぐっている。
滉は思い出そうとしているみたいでしばらく考えた。
「あいつは普通に地球の人だ」
うん、そうだねと心の中で頷いた。しばらくすると滉はまた答えた。
「……しかもやっぱり、王族に使える中で権力は高い。七人才、っていう王位を継いだものの命令しか聞かない七人の一人、ほら前に亮ちゃんが言ってたあれ……らしい。今の俺なら王族の隊の表もつくれる、かも」
ああなんだ、この仲間のうちで一度信じれらると思えた相手を疑うのはなんというか。
気持ちと裏腹に、というべきか滉から得られた情報はかなり有益だった。感情をなるべく顔に出さないように話を聞いているが、周りからどのように見えるのだろうか、大丈夫だろうかと少し心配になる。
表が作れるというので、ノートとペンを渡した。滉はサンキューと言ってそれらを受け取る。
「まず、勿論だけど王族が一番上にいる」
ノートの上に、王族と書き四角で囲んだ。
「次に、王国直下軍と七人才がくる」
王族から線を二本斜めに引き、そこに王国直下軍と七人才を書き四角で囲んだ。
「王国直下軍がアンフォッシ家を筆頭とするもの、七人才は亜妃がいる王族に有益だと判断された七人で構成された能力者たち。
先に、王国直下軍から行くが、これらは全員貴族だ。王国直下軍はもちろんアンフォッシ家が一番上でその下には戦うことが得意なチェロニアーティ家・メランドリ家、代々暗殺を生業としてきたラド家がつく。さらにその下に王国の兵士が付く。今言った三家のそれぞれ選ばれた者が軍団長となり、その下に隊長が付きその下に兵士が付く。こんな具合に」
そう言って、王国直下軍と書いたところから三本線を引きチェロニアーティ家・メランドリ家・ラド家を書き四角で囲む。そこから線を引っ張り、軍団長を一つの貴族に一つずつ、そして隊長を軍団長の下から四個書き、三家合わせて十二個できた。十二個の隊長の下には王国の兵士がいるらしく線を引っ張り兵士と書いた。
「ちなみに、そいつらはみんな黒服を着ていて、何かしらつけている。チェロニアーティ家はみんな金のチョーカー、メランドリ家は銀の指輪。ラド家は金の腕輪。そのトップも同じものをつけている。軍団長と、七人才だ」
そう言われて、亜妃に金の腕輪が付いていたのを思い出した。昼間襲ってきたのはつけていたのか見えなかったがきっとラド家のものだ。どう考えても暗殺要員だったし、亜妃のことを様付けて読んでいた。
「で、七人才に至っては下がなくてそれぞれが一軍団長より上の、――言ってしまえばアンフォッシ家の長よりも権力を持っている。王国直下軍と同等またはそれ以上、だな。まあ、必然的に王族の次に権力があるやつ、となる。だが、七人才の中でもリーダーがいてそいつが一番強いらしい。亜妃は一番の新米だ。……顔を書けたらいいけど生憎、俺に美術の才能はないから特徴と能力を書くけどいいか?」
「能力が分かったの!?」
滉は自信たっぷりに頷いた。
その時、颯希は確信を持つ。滉には能力があるということにだ。能力発動は額と額を合わせたときだろう。きっと、相手のことがすべてわかる能力なのだ。もしかしたら相手の了承が必要なのかもしれない。だがそうなれば颯希は当てはまらないだろうからそうではないのだろうが。
その瞬間、颯希は悪寒がした。颯希もその能力にみられている。ただ、全てわかられても元々隠している物はないのでやり損かも知れないが。
「さっき言った通りリーダーが一番強い。名前は確かジェラルドで男。能力は空間操作。金髪。瞬間移動も空に立つことも飛ぶことも、できる。多分、自分の能力を一番分かっているからだな。あとは、ドゥッチオていう男。赤の上着を着てる。能力は、時を戻すこと、止めることも多分できるな。ダニーロ、男。能力は天候を操る。いつもなんか食べてるって。マノロ、男。五感を操る。背が高い。エルシリア、女。能力は植物を操る。青い髪。最後がシモーナ、女。白髪で髪が長い。能力は心を読むこと。……てな具合」
言いながら書いていたノートを見ながら、滉って字が汚いんだなと思う。関係ないが、あとで書き直したいと思うぐらいのものだ。
ノートを返され、ペンを渡される。いつか、彩里たちの戦う武器を書いたページを開きそこに余白があることを確認すると、颯希は決意した。
思い返せば、一番初め王族について調べてやると思った時その能力についての本は一向に見つからず、彩里たちは何かを隠しているのではないかと思っていた。その時、その考えはなくなっていたが王家の印の本を読んだ時、滉が慰めてくれたし、読む前から彩里は自分にカラーコンタクトを進めてきた。
つまり、知っていたのだ。王家の印を。
ならば必然的に、王族についての知識には少しふれるだろう。アンフォッシ家の本は十冊以上ある。二年も調べる期間があったのだ。能力について、まったく知らなかったとは言わせない。
目の前にいる滉を見てベッドに座る彩里と亮を見る。その視線が厳しかったのか、三人は会話をやめた。
「……ねえ、知ってるんじゃないの? 地球の人も能力を持つ事ができたりして、その条件も」
首をコトンと横に曲げて、聞くその言葉。自分自身の安全は確保ができない。こんな状況なのだから。
「ねえ滉。あなた、自分の能力で今の情報を得たんだよね」
鎌をかけるどころか直球勝負だが言ってしまったらお終いだった。とにかく。
「隠していること、知っていること、全部教えて」
部屋の中は物音ひとつせずに静まり返った。
カタカナの名前は覚えにくいので私自身が間違えている可能性もゴニョゴニョ|゜Д゜)))




