22-ギワク-
沈黙を破ったのは亜妃だ。
「……王の命令だから」
きわめてシンプルで、言葉少ないく答えた。なるべく、自分の発言から情報を得られないようにするためなのか表情も作っていない。しかし颯希は驚くことなく、むしろ当然だと考え質問を続けた。
「命令だからといって、気持ちが良いもの?」
「……やりたくないわよ、絶対」
日記に書いてあった通りだ。亜妃は日記に、『心苦しいが、仕方がない』と書いていたはず。颯希の記述で『でも、誘拐を止めてくれるような気がした』とも書いていた。颯希は、その亜妃の思いに精一杯答えようとしているだけだ。
「じゃあ、誘拐を止めてほしい?」
「うん、できれば」
笑顔になった。それを駄目だと思ったのかすぐに表情を元に戻す。
「誘拐された子供たちは、今どこにいるの?」
「城の中に決まってるでしょ」
ゆっくりだが、話している言葉に私情が含まれてきた。頷き、いい感じだと思う。
「そこで何をされているの?」
すぐに返事が返ってこなかった。振り向いた颯希に下を向き視線を合わせようとしない。
「おい」
滉の問いにも無反応だ。これは、さほどひどいことがされていて、亜妃の口からでは言えないようなものなのだろうか。後回しにしようと、次の質問に移る。
「亜妃の能力は?」
またも、無反応だ。きっと記憶関係だろうが確認のために聞いたまでだ。面倒くさいなと思いつつ、次に行く。
「亜妃の仕事は?」
これは答えられるようで
「周辺警護」
とだけ言った。予想通りだと思った。質問したいことがいったん途切れたので、ノートを見返す。
ちょうど亜妃の日記を読んでいたところで止まり、『純粋な子供』と言う単語が目に入ってきた。
「純粋な子供が欲しい。これってどういう意味?」
途端に亜妃は目を見開いた。
「見たなっ!」
日記のことかと悟り、頷く。
「何で?」
「だって彩里が持って来たんだもん」
「彩里!!」
「だっておうちに置いてあったんだもん」
亜妃はむしゃくしゃしてか、もう! と言って怒りを収めたようだ。まあ日記を見られて怒るのは当然だな。うん、と思ったところで亜妃が言った。
「知らない! でもきっと、王に忠実で完璧な兵士が! ……あー……ごめん、今の忘れて」
怒りが亜妃の脳内のリミッターを外したのか。まともな答えが返ってきて颯希はガッツポーズを決める。
「今の聞いた?」
三人に問いかけるとみんな頷き亜妃の顔は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「忘れてよ」
力なし気味に亜妃が言ったが颯希は構わずノートに書いた。
つまりだ。子供を集めて、自分に忠実な兵士をつくることが王族の目的。彩里が教えてくれたことも颯希の仮説を組み込むとすれば、できるのは凡人ではなく能力者たちだろう。ただ、これが誰でも持っているものだとすればの話だ。しかし、作った後どうする? その子供たちは大人になるまでこき使われて、何をするんだ?
「兵士をつくってどうするの?」
先ほどばらしてしまった自分に苛ついているような亜妃だがためらわずに答えた。もういいと判断したのか、言っておこうと前から思っていたのかは知らないが。
「地球を攻めるらしい」
聞いた瞬間に呆れたのは颯希だけではないだろう。全員そろって、引いた目で亜妃を見ていて亜妃は手を思いっきり横に振り
「え、あたしが言ったんじゃないよ」
と言った。
そりゃそうだ。そんなことを考えるのは、どこぞの中二だ。いや、中二だってもう少しまともな答えをする。
「王様ってバカなのか?」
滉の発言にも頷けた。
「というか、それ以前に何考えているんだ?」
「本当よね。自分の力、過信しすぎてるんじゃないの? 所詮地球より何もかもが劣っているのに」
それは言ってはいけないことだ亮、彩里。
ぼろくそに言われた王のことを亜妃はフォローしようともせずに逆に頷いて
「あたしもそう言った」
と言った。どうやら、言ったところで王は聞こうとしなかったようだ。
「まあ、それが我らが王のお気持ちなんだから、あたしはそれに従わざるを得ないっていうか」
始めの無表情はどこへやら。思いっきりやりきれないような呆れたような顔である。颯希はノートを取りながら、そんなことのために子供たちが使われるのかな? と思うと王の考えをただしてやれとどこかいい加減に思っていた。
「ていうか、もう行っていい?」
亜妃が立ち上がったので「だめ!」と叫ぶ。
「あともう一つ、二つぐらい」
言った後、亜妃に断られる前に滑り込んだように言った。
「亜妃と同じような人はどのぐらいいるの?」
「……それは、どういう意味?」
「亜妃と同じように、地球出身者の人で能力者。王家に仕える人はいるの?」
本当に分かっていないのか分からないがとにかく丁寧に言い直した。
「……いないわよ、一人も」
「じゃあ亜妃と一緒に城に集まる人はどのぐらいいるの?」
この質問は確信だった。亜妃は七人で構成された者の一人だという確信だ。それを確かめるためのもの。
しかし、亜妃はそんな颯希の気持ちに気付いたのかけろりとして言い放った。
「さあ」
その時の笑顔が、妙に眩しかった。
***
亜妃が出て行った後、滉が彩里、亮と目配せをして出て行った。その様子を見た颯希は些か訝しいと思ったが深くは考えず面識がないのだから話すこともないと思うのに、と思ったのでこっそり後をつけることにした。
しばらく行ったところ――といっても林を抜けたら平地しかないのだが――で止まり、何かを話していた。
遠目から見ているので何を話しているのか知らないが少し揉めているようにも見える。すると滉が、颯希にしたように亜妃の額に自分の額を重ねた。それを見た颯希は途端に赤くなり心のどこかでショックだった。なぜショックを受けたのか分からないが、亜妃はその行動に驚きもせずその後何回か言葉を交わし亜妃はきっと城へ向かった。
颯希は、見てはいけないものを見た気がしてそこから動けなかった。しかし滉が戻ってくるのでとりあえず隠れる。だが、颯希が隠れている木の影は少し動いただけで音が鳴ってしまうもので颯希は座り込んだ状態でそれを見ていたのだから逃げようとしたので、まさにその状態――要するに、音がとても立つ状態に――に陥ってしまった。つまり、
「何やってんだ颯希」
と見つかってしまったわけである。
「いや、べつに、ちょっと……散歩」
苦しい言い訳だとわかっていたので語尾がどんどん萎んでいった。
「今の見てた?」
滉がしゃがんで颯希と同じ位置になった。今の、と言う言葉に颯希は先ほどの行動かと思いとりあえず嘘をつこうと少し考えてから言った。
「何を?」
見てないと答えると、見ていることが分かってしまう気がしたのでこう言ったのだが、滉には逆効果だったようだ。
「見てんじゃねえか」
ばれてしまった。何で分かったの~と冷や汗をかくがあくまで見ていない体を装うつもりなので何を? の一点張りである。
「別に、え、何かしてたの? わたし何も見てないよ?」
笑顔が引きつるのを感じる。滉は手を伸ばしてきていった。
「嘘言え。見てたろ、俺が亜妃にこうやったの」
と言って、颯希の後頭部に手をつけ再び颯希と額を重ねた。颯希は恥ずかしさと何かが入り混じったような気持ちになりとりあえず頷く。頭が少し混乱した。颯希は自分の気持ちが一瞬何なのか分からなくなる。
「ほら、やっぱり見てる」
クスッと笑う滉が本当にかわいくてそう言えば滉を一番初めに見たときは女の子と見間違えたんだよなーと思い出す。
「行こう」
立ち上がって颯希に手を伸ばした。颯希はその手に甘えるが滉の行動が変だと感じた。何がだ? と自分に問いかけるがたった数日の付き合いでそれがわかるものではなかった。
そして一つの疑問が生じた。
いったい何をしているんだ? と。額と額を重ねることで何かが分かるのか?
滉にも、〝能力〟があるのではないかと思った瞬間だった。




