21-ハナシ-
彩里の言葉に、あまり驚かなかった。女の発言からそうだろうなと言う予測はついていたし、何より誘拐ばっかりしているのだからそれは当たり前である。
誘拐に使われている、亜妃の能力が何かは知らないが、亜妃が選ばれたということはそれ相応の理由があるのだろう。やはり、能力を知ることが先決だと思った。
「それでさ、命を狙う人たちって亜妃の外見だけを覚えているのね。例えば、赤毛で緑の目、汚れた薄い茶色のコートを着ている背の高い女。この手の類を聞く人は亜妃を殺そうと躍起になっている奴らだって、城では騒がれているらしいわ。それで、さっき滉から聞いたけど颯希たちは「赤毛で緑の目、少し汚れた茶色のコートを着ている女の人を知っていますか?」と聞いた。そりゃあ、城の人たちは驚くわよ。「お前たちかっ!」って言ったのはきっと、亜妃の手下ね。颯希たちを殺そうとやってきたのが、その傷を作った女の人」
なるほど、だから男たちは走って行ったのか。逃げた、と思ったのはそうではなく、城へ行ったのだ。だったら、その質問を大勢にかけて、走って逃げた人が城に入れるのだからその人を追いかけたらいいのではないか? と思った。
「でも多分、この騒ぎで亜妃はわたし達に気が付いたわ。結果オーライ、ってやつね」
塀から飛び降りた彩里は颯希に向かって言った。
「亜妃がわたし達に気付いたなら、わたし達に会いに来てくれるはずよ。それまで隠れてましょう」
颯希はゆっくりと頷き、塀から飛び降りた。
***
数時間後、彩里の予想はぴたりと的中した。西側の人が少ないまた木が生い茂る場所に隠れていたのだが亜妃は見事にそれを見つけ、颯希たちに話しかけてきた。ちなみに、それまでの時間は颯希へのヴィパル講座だった。(おもに、お金や物資について)
「……何やってんのよ」
亜妃に言われ、驚いてノートをショルダーバッグの中に勢いよく突っ込んだ。隠す必要はないかもしれないが、驚いた反射だろう。
「颯希へのヴィパル講座よ」
彩里が答えた。それを聞きながら亜妃は、適当にあった切り株に座り言う。
「……あんたらのせいで、あたし駆り出されたのよ? 『お前を殺したいのなら、お前が出歩けば相手も動くだろう』って王様言ってくれてさ~……。で、何しに来たの?」
空気が緊張した。亜妃の周りのが、だ。亜妃は身構えて、颯希たちの返答次第では戦闘を余儀なくされる。今、颯希は肩をけがしていて容易に戦えるわけではない。しかし彩里と亮は臆することなく、堂々と話した。亜妃と面識の少ない滉は颯希の近くでその様子を見守っている。
「あなたに許可してもらいたいことがあるの」
「何?」
一つ間をおいて、亮が言った。
「アンフォッシ家に会わせてくれ」
直球な質問に、亜妃は驚いたようだった。しかし落ち着いて、答えている。
「だめ」
「何で?」
「……あたしはそれほどの権力はないってこと」
嘘だ。颯希はそう思った。王族と話せているのが、特別だというのに亜妃が気付いていないわけがない。亜妃の回答に思わず口をはさむ。
「じゃあ何で、王様と話せてるのよ? 何であなたは王様から直接誘拐をしなさいと命じられているの? なぜそこまで、特別に扱われているの?」
少し離れていたが亜妃に向かって身を乗り出し、割と近距離でまくし立てた。亜妃はそっぽを向く。
「あたしが地球出身者だからよ」
ぽつりと言ったその言葉に、颯希は驚いた。たったそれだけの理由で、ヴィパルの王は亜妃を酷使し、特別に扱うのか? それよりも地球出身者と、いつばれたんだ?
「あんたらがいくら願ってもアンフォッシ家に会わせることはできない」
亜妃は周りをうかがった。誰も答えないことを確認すると立ち上がる。
「……じゃあね」
「待った!」
颯希だ。亜妃が立ち去ろうとする中、亜妃の肩を思いっきりつかむ。それに驚いて振り向き、熱心にノートを見ている姿を見て亜妃は呆れたようだった。颯希の手を離しながら
「痛いんだけど」
と言う。しかし颯希は離そうとせず、動かしにくい左手で何ページかめくり、言った。
「 王族とは、ヴィパル王国(以下、王国)を治める家であり、また王国内で起こった騒動・戦争などの争いを鎮圧するとともに王国の安全や経済について考える者たちのことである。王族と話せること自体が限りある人物に限定される。
彼らは、我らアンフォッシ家を筆頭にし数名の貴族を従え、《王国直下軍》というものをつくり、主に国の警護や戦争の伝達などの仕事をさせた。
王国には《王国直下軍》のほかに、王位を継いだものの命令しか聞かない七人で構成された戦闘員がいるとされる。この七人は《王族直下軍》にあるアンフォッシ家の下にある三家のどれか一つを選択して従えることができ、この七人が主に戦争の鎮圧をするとされている。ただし、七人の名前、顔、名前など明かされているのはたったの七人だけだということである、とあるの。
……わたしが言いたいこと、わかる?」
颯希は今まで調べていたことを読み上げただけだ。ただし、ここに書かれている文章は亜妃が何かを特定するために颯希が言ったものである。つまり、颯希は考えていたのだ。ずっと前から、亜妃は、『王位を継いだものの命令しか聞かない七人』の一人ではないか、と。
「分からないわ。難しいこと言われてもさ」
明らかに目を泳がせている亜妃は単純だ。周りの三人も、ここ数日颯希といることで颯希がどんな言い回しや、態度をとるかで何が言いたいのか少しだけだが分かるようになっていた。
また立ち去ろうとする亜妃に、今度は滉が引き止める。柔らかな草をばねにしてしっかりと立ち上がり、亜妃に近づいた。
「……お前だってわかってんだろ。自分が何か、何に置かれた状況か、ってのが」
振り向いた亜妃に、滉は笑みを浮かべる。
「教えろよ。俺たちが悩んでいるお前の誘拐と、この国の目的について」
颯希の手が力なく振りほどかれた。驚いてもう一度つかもうとしたが亜妃は切り株に座った。
「分かってんじゃない、あんた。それを有効に使うこと。先輩からの助言」
滉の顔がむすっとした仏頂面になりその場に座る。この二人の間に、何があったのか全く分からない颯希だったが亜妃が戻って来てくれたことで安心し、講座を受けていたところまで行く。切り株を机代わりに、ペンを回しメモを取る体勢だ。
「でも残念なことにあたしがわかってるのは誘拐についてだけよ」
一瞬、沈黙が流れる。颯希が思い切って質問した。
「なんで、なんで誘拐をするの?」
もう一度、今度は長い沈黙が流れた。




