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3 銃と鎧と雷と

 冒険者ギルドで登録の旨を伝えてから四日後の昼。前日に連絡を受けた通り、試験の準備が出来たそうなので冒険者ギルドに行く。一日二日と言われていたのに四日後になったのは、試験に使う獲物の捕獲に手間取ったかららしい。俺の行動には誰かが付き添うことが厳命されているためこれまではローテーションで回っていたが、今日は金獅子の全員が付き添いである。

「お、来たか」

 冒険者ギルドの扉を開けると、待合席のテーブルに座ったギルドマスター、キール支部長がよっと手を挙げる。なんでこんなところに居るのか聞いてみれば、休憩がてら冒険者たちの様子を確認しているらしい。話の内容とか、怪我してないかとか。依頼に迷っている新人を見つけたときはアドバイスを送ったりもするらしい。こんな感じなものだから、ギルド内でもギルドマスターというよりは頼れる先輩冒険者という認識だそうだ。というか、ロアの街を拠点にしていない冒険者の中にはそう勘違いしている奴もちらほらいるようである。

「試験は訓練所でやる。そこしか広い場所が無いんでな」

 行くぞと席を立ったキール支部長に続いて建物の奥に入っていく。ついた場所は解体場のさらに奥。位置的には冒険者ギルドと商業ギルドの裏の区画が丸々空き地になっていた。

「おーい、お前ら。新人のテストをするから場所を開けてくれ!」

 キール支部長の声に、模擬戦やら組手やら魔法の練習やらをしていた冒険者がその場を開け、数人はギルドマスターのほうに寄ってくる。

「今回の新人はどんな感じですか?」

「期待のルーキーだよ。なんとびっくりガンナーだと」

 キール支部長の言葉に「ほう」と先輩冒険者が方眉を吊り上げる。

「観戦しても?」

「駄目だと言っても居るんだろうが。あんま委縮させんじゃねーぞ」

 訓練場にカービンライフルを持って立つ俺に、ガンナー志望だという噂が伝播していくごとに興味の視線が集まってくる。中にはあまり心地の良いものではない視線も交じっていた。少々堪えたが、ガンナーということは高価な銃を持っているということに外ならず、貴族関係か少なくとも裕福であることが想定されるので多少のやっかみは仕方のないことだと割り切る。

 運ばれてきたのは檻に入れられた大きな牛だった。事前に聞いていた話によると、本当にただの牛。何故ただの牛を調達するのに時間がかかったのかというと、乳牛であるために的として買い取ろうとしたギルドに対し牧場主が渋ったためである。ちなみに食肉用の家畜はこの世界にはいない。魔物や野生動物の肉を狩猟すれば事足りるためである。

 檻から牛が解き放たれた。牛らしいのっそりとした動きである。しかし、手に鞭を持ったギルド職員が牛の後ろからこっそり近づくと、牛の尻を思いっきり鞭で打ち付けた。途端に暴れ始める牛。動物が嫌がる波長を出す魔道具が設置されているため俺に突進してくることはないが、いきなりのことに目が点になる。動物を撃って気絶させればいいと聞いていたが相手が暴れ牛とは聞いていない。

「どうしたー。早く撃てー」

 キール支部長から指示が飛ぶ。今は試験の最中。驚いている場合ではなかった。

 慌てて俺は銃を構える。もちろんセレクターはセミオート。使用弾薬は麻酔弾である。

 ガンナー志望と言っても銃の扱いは素人。だがそれを覆すだけの魔術知識を俺は神様から貰っている。反動は身体強化で抑えられる。精神的な慣れが必要な部分は闇魔術の精神操作で平常心を保てるように。あとはエイムだが、そもそもが大きい的だ。それにどこに当たっても問題はないし、二五メートル程度では予測射撃も必要ない。照門と照星、標的を一直線に並べて引き金を引けばいいだけだ。ちなみに銃本体の精度については問題ない。これは作っている時に構造が手に取るように分かるため、ズレがないことは最初から分かっている。

 ロデオのように跳ねまわる牛を狙う。あっちに行ったり、こっちに行ったり。だが、俺の手はその視覚情報を元に勝手に狙いをつけている。これは身体強化の脳に施す応用、知覚強化のおかげでオートエイム化しているからである。もちろんこの世界の住人もできる。使い方を知らないだけで。まぁ、遠距離武装を使う人は無意識のうちに使っているみたいだが。

 こんなことができるようになっている理由はただ一つ。メカにロックオンサイトは必須だからである。

 引き金を引く。ダンッと発砲音が鳴り響き、暴れていた牛がビクンと硬直した。続けてどさりと倒れこみ、ギルド職員が寄ってくる。俺も状態を確認しに牛の側へ。撃たれた牛は目を閉じて深く呼吸をしているようで、睡眠の効果はばっちり現れている。ただ、俺の放った麻酔弾は非殺傷をうたいながらも肉に軽くめり込んでいる。評価をしているギルド職員に驚いた様子がないことからも問題はないだろうが、街の外に大量に生えていた大きなタンポポっぽい植物からゴム弾でも合成しようと俺は密かに思った。

「お疲れ様でした。ギルド証の発行はギルド内の受付で行います。後ほどお呼びしますので、待合でお待ち下さい」

 試験結果を記録していたギルド職員にそう言われ、俺は訓練場を後にする。試験後の俺に話しかけたそうな人が何人かいたが、金獅子の皆が囲んでくれたので絡まれずに済んだ。

 待相席に座り、呼ばれるのを待つ。その時、さっき声をかけたそうにしていたのはほぼ勧誘目的だとラッシュさんに教えてもらった。そういわれてあたりを見回してみると、さっきの見物人のうち数名は俺が金獅子のメンバーと談笑しているのを見て残念そうにしていた。

「いやしかし、よく当てるもんだよなぁ」

 ラッシュさんの言葉にミアとイリスさんが頷く。リューグは同じ物理遠距離職だからかそんなもんだろうという顔をしていた。

 ちなみに前の宴会以降、ミアとリューグからはさん付けが取れた。ラッシュさんには全員呼び捨てでいいと言われたが、ラッシュさんとイリスさんは年上を呼び捨てにすることに抵抗があったこともありそのままだ。あとラッシュさんは頼れる兄貴分という感じでなんとなくラッシュ“さん”なのである。イリスさんに関しては年齢のことは禁句なので「なんとなくお姉さんっぽいので」という言い訳で許してもらっている。ちなみに俺のことは全員呼び捨てだ。イリスさんにお姉さんっぽいという言い訳をしたところちゃん付けで呼ばれそうになったが全力で阻止した。あっさり引き下がったので多分意趣返しだろう。

「魔術の補助バリバリに使ってますからね」

「それも秘伝か?」

「ぁっ……ええ。そうです」

 俺が魔術も十全に使えるということは積極的には公言しないことになっている。なのでさっきの失言をラッシュさんがフォローしてくれた形だ。この世の中、どこで誰が聞き耳を立てているかは分からないのである。個人の秘伝や秘匿技術ということにしておけば無理に聞き出す輩もぐっと減る。

 そんな風に話をしていると、一人の男が近づいてきた。よっという感じに手を挙げた彼にラッシュさんも手を挙げて返す。どうやら知り合いらしい。

「ラッシュ、お前にしちゃ手が早いじゃねぇの」

「何言ってんだ。シグルドは俺が拾ってきたんだ。元々うちのパーティーに入れるために冒険者登録したんだよ」

 軽口を叩き合いながら拳を突き合わせる二人。よく見れば、話しかけてきた男はさっきのギャラリーの一人でキール支部長に話しかけていた男だった。

「お前さん、シグルドってのか。俺はガルム。蒼烏ってチームのリーダーだ。よろしくな」

 手を差し出されたので握手を返す。

「ふむ、こりゃ完全に素人だな。試験の時はマグレか?」

 ガルムと名乗った男は「こんなやつ入れて大丈夫か?」とラッシュさんに視線で問いかける。どうやら手を握っただけで俺の実力を測ったらしい。

「いいんだよ。彼はアイテムボックスが使えるんだ。それに付与術も結構使えるからな。そっちの方で入れようと思ったらまさかのガンナーだったってだけの話だ」

「おいおい、それじゃぁアイテムポーチとかも作れるってことか? かーっ、うらやましいねぇ。なぁ、俺にも一つ作ってくれよ」

「商業ギルドの規定で魔道具の販売は認可を受けた職人しかできないのを知ってるだろうが。譲渡なら問題ないがうちのメンバーにただ働きなんかさせられるか」

「ケチくせぇこと言うなよ」とガルムさんは言う。だがその言葉は本気ではないようだ。軽口を叩き合う二人に面食らっていると、隣にいたミアがガルムさんはもともとラッシュさんと同じパーティーにいた人で何度も一緒に仕事をしている信頼できる人だと教えてくれた。元同じパーティーで解散後に別の道を歩んだのは戦闘時の相性が悪いからだそうだ。二人ともタンク役らしい。もっとも、ラッシュさんはガチガチの盾使いでガルムさんはミアと似た機動力特化のスタイルをもってする回避タンクという違いはあるのだが。

 そうこうしているうちにお声がかかる。ギルド証の発行ができたようだ。俺はカウンターの方へと向かう。金獅子の皆もついてくる。気になっているのか、ガルムさんもついてくる。

「シグルドさん。こちらがあなたのギルドカードになります」

 そう言って手渡されたのは、銅色のカード。受付嬢の話によれば試験で睡眠魔術のレベルが高く好成績と評価されたため、最低ランクである鉄よりも一つ上の銅から始めさせてくれるらしい。だがこの説明にガルムさんは訝しげな顔をする。それに気づいたラッシュさんがすかさずフォローに入った。

「ガンナーの状態異常付与に本人の力量は関係ないはずだが……?」

「高品質の弾丸を調達できる伝手もガンナーの力量の一つですよ」とは受付嬢の談。その言葉にガルムさん含めその他大勢のギャラリーも「金の力か」と一部納得顔だ。

「おう、無事発行されたようだな」と声をかけながらギルドマスターが上の階から降りてくる。そして俺の側まで来ると、肩を組み、小声で森の外まで付き合え、と言った。

「あの件ですか?」

「そうだ。金獅子も……ってお前も今はそうか。ラッシュたちも連れてこい。お前のサーチだと俺個人も特定できるんだろ。先に行ってるから探せ。東門の外だ」

 はい、と俺は頷いた。それを見たギルドマスターは大げさに「俺が受け持った中で初めてのガンナー職だ。肉の確保とか少なくなってきたら頼むからな!」と言い、受付嬢に小腹がすいたから飯に行ってくると言伝してギルドを出て行った。一瞬冒険者たちがぽかんとしていたが、やがて「あぁ、いつものやつか」という空気が蔓延してくると元の喧騒をじきに取り戻していった。

「ああいうの、よくあるんですか?」

「やるなぁ、あのギルマスは」

 ラッシュさんが言うにはそういうことらしい。素なのか、ああいう内緒話をしやすくするために普段からそうしているのか。後者だとしたら抜け目のない人だ。

 先ほど言われたこともあるので、俺はギルドマスターの後を追う。もちろん皆にも同行をお願いしてだ。ちなみに興味を持った冒険者がついてくることを警戒してサーチを使ったが、そんな人はいなかった。それをラッシュさんに言うと、そういう輩が少なくなるようにあえてガルムさんとの会話で俺を荷物持ち目的で加入させたことを言ったらしい。この人もこの人で頭のキレるお人である。

 東門に着くと、見知った顔がいた。警邏隊のロレンスさんだ。ここ毎日装備の拡充に街の外に出ていたが見かけなかった。今日はたまたま、また門衛をやっているらしい。

「おお、こないだの……なんてったっけ?」

「シグルドです」

「おー、そうそうシグルドさん。元気してたか? 街を出るのか?」

 冒険者になったので訓練がてらパーティーで少し外に出るのだと説明する。嘘は言っていない。

「お、冒険者になったのか。じゃあ木札は回収しとかないとな」

 ずっと見張られてるのも気分のいいもんじゃないだろ? とロレンスさんは言ってくれる。

「どうする? 市民用の木札買うか? 冒険者だと要らないとは思うが」

 普通の木札はほかの街でも使えるらしい。緊急用に買っておくのもアリかと思ったので鉄貨一枚を支払って印付きと交換してもらう。

「はい。新しい木札。じゃあ気を付けてなー」

 のんびりと手を振るロレンスさんに別れを告げ、俺はサーチでキール支部長の後を追う。サーチはソナーのような感覚だ。一般的には知られていないが、対象物から帰ってくる反応は少しづつ違う。もちろん生き物であれば同種の個体でも個々で異なる。持っている魔力の属性や質が違うのだ。反応を見るに、ギルドマスターは森の中へ五〇〇メートルほど行ったところに居るらしい。

 森の中を進んで行くと、少し開けた感じになっているところにギルドマスターが立っていた。

「来たか」

 ここで見せるのは、俺の中にあった構想のうちギルドマスタ―から許可を得たもの。フルオートの殺傷弾、格闘戦用の装備、そして完成したパワードスーツだ。

 とりあえず全部出せ、と言われたので装備を改める。

 いきなり俺の後ろに大きなアイテムボックスが出現して全員が度肝を抜かれていたが気にしない。

 アイテムボックスから現れたのは、パワードスーツ。白銀色の騎士鎧のようなそれが現れると、一瞬その姿が掻き消えて俺の体を包み込む。思わず「殖装!」と叫びたくなるがぐっと我慢だ。これを作るのには苦労した。可動部やサイズなどは防具屋に頼んで実際の鎧を参考にさせてもらったが、魔法的な仕組みを作るのが大変だった。もちろん戦闘に使うギミックは問題なかった。しかし、どうやって着るのかが問題だったのだ。

 ここで一つ、魔道具について話をしておきたい。この世界の魔道具は二種類あり、その違いは魔石を使っているか否かというものである。俺が今まで作っていた魔道具は前者に当たる。この二つの違いは、効果を発揮するのに直接ないし間接的に触れている必要があるかどうかということだ。なんでも、魔石を使った魔道具は触れなくても魔石から魔力を消費して稼働してくれるらしい。俺はこれに目を付けた。パワードスーツをいくつものパーツに分け、その一つ一つに魔石を組み込んだのだ。

付与したのは転移魔法。生体は転移できないが無機物かすでに死んでいるものなら可能らしい。それでも起動するのには触れる必要があるのだが、転移魔術の発動は一瞬。その一瞬だけ動けばいいので、背中から魔力波を放つことでこれをクリア。パワードスーツを一瞬で装着するという芸当を可能にした。なお、一瞬で着れる鎧として既に実用例はあるらしい。

さらにその鎧が手に持つのは、改良が施されたライフル銃。サイズアップしたので長銃身のアサルトライフルっぽくなっている。イメージは緑ライフルである。一番の改良点は銃身下部に付けられた銃剣。ハンドガードと一体化した直刀で、それが銃本体と合わせて見ると短槍のようになっているのだ。なお、パワードスーツから銃、銃剣に至るまですべて元はやはりただの土塊である。ただし今回は鎧に見せるため表面を鉄鉱石から抽出した鉄で覆っているが。その抽出作業を見ていたラッシュさんが「錬金術まで使うのか!」と目を覆ったのは言うまでもない。また、今回鉄鉱石と魔石を購入したおかげで所持金ががきれいさっぱり吹っ飛んだ。早く稼がなくては。

「見た目は……騎士鎧っぽいな。……兜の形とか、背中が張り出しているのとか、肩当と足が大きいのとか、何やら各所に穴が開いているのが気になるが」

「後で説明します。とりあえずこれで一人でも戦えますよ」

 とりあえず銃の方から見せろと言われたので、俺はライフルを腰だめに構える。パワードスーツ状態では目で見て照準する必要はないのだ。頭部パーツにはサーチと知覚強化を組み合わせたFCSとなる魔術が組み込まれている。なお、頭部の形状は固定式のモノアイだ。これだけは譲れなかった。EYEシリーズ万歳。

適当な木に照準を合わせようと思うと、俺の視界の中にロックオンカーソルが現れる。この辺は幻術を扱う光系と闇系の混成魔術の応用だ。何もなくても当てられるのだが、何とも味気なかったので追加した。

イリスさんに強めの遮音結界を張ってもらってから引き金を引く。ダダダダダダダダッと音を立て、マズルフラッシュを輝かせながら発射された弾が大木を穿ち、削り、果てに大木はその自重を支えきれずにズゥンと地響きをさせながら倒れた。

よし、とキール支部長の方を見れば、顔が引きつっていた。それでも何も言わないのは面通しした時に概要を伝えていたからだろう。

次は剣の方だ、と言われたのでハンドガードに当たる部分を持っていた左手に魔力を込める。すると剣先が目に見えないような高速振動を始め、かすかにキーンという音が聞こえるような気がした。

俺は発振状態になった銃剣をさっき的にした倒木に当てる。すると熱したナイフをバターに差し込むかの如く、かすかにジジジッと音をさせて刃先が中ほどまで簡単にめり込んだ。

「…………ラッシュ?」

「いやいや本人が説明してたでしょう」

 そんな会話が横でなされる。

「まぁいい。問題はその鎧だ。飛べるんだろ、それ」

 キール支部長の言葉を俺は肯定する。パワードスーツ自体は圧縮した土塊なのでそれなりの重量がある。それを重力魔術によりある程度重さを無くし、俺含めて一〇〇キロくらいにまで抑えてある。重量を無くさないのは風で倒れないようにするためだ。実際、軽い方がいいだろうと極限まで軽量化した結果、風にあおられて立てなかった。そこに飛行魔術として使われる重力魔術レヴィテイションと風魔術のフライを同時併用し、自由に飛行ができるようにしてある。しかしそれでは速度が出ないことを知った俺は、さらに脚部、背部をメインに肩部、腰部に爆風を生み出すブラストを組み込み、さらにそれを応用したジェットエンジンもどきを組み込んだ。要は爆風が出続けるようにする魔術である。

 これは知らなかったことだが、この世界にも当たり前のように魔力枯渇という現象が存在した。魔石を組み込んでいない、ないし、魔石があったとしても使用者から直接魔力が供給できる状態にある魔道具は基本的には常に使用者の魔力を吸い取る。この世界にはステータスなんて便利なものはなかったので感覚でしかないが、この世界の人間は、例えば火属性に適性のある人間が平均的な火球を一日中撃ち続けても魔力枯渇はしないらしい。ところが俺がこのパワードスーツを武装込みで全力運用すると、約三時間で魔力枯渇に陥った。その時の倦怠感と吐き気は思い出したくもない。また、俺の魔力総量が多いのか少ないのかは分からないが、神様にチートは渡せないと言われた以上、平均的か少し多いくらいの魔力量だと推定しておく。なお、魔力枯渇状態からは三十分ほどで自然回復した。この世界の魔術の使用魔力量が少ないのか、はたまた魔力量が平均的に多いのか。それは誰かが水の温度を決めた時のように定義されるまでは永遠の謎であるが、魔術の使用魔力量に対して自然回復力はかなり高いようである。

 話を戻そう。俺の後ろにはすっぱりと切断された木の太枝がある。地上から三メートルほどの高さにある枝を切った。ただそれだけのことである。しかしその先、俺が立つ足元の地面は後方一メートルほど慣性を止めるのに使われた証にめくれあがっており、ひっかけて削られた木の根が痛々しかった。

 俺がやったことを要約するとこうなる。

 まずキール支部長に鎧の性能を見せろと言われたので爆風が発生するからある程度離れてほしいとお願いした。程よく離れたところで俺は空き地の最も対角線の長さが取れる端に行き、その対角線上にある大木に飛んで近づいて切ると説明。許可が出たので実行に移す。膝の屈伸を使い、前方に跳躍。といってもこれは普通のジャンプだ。続いて飛行系の魔術が発動、体を宙に浮かせる。背部と腰部、脚部のスラスターが火を噴き、航行状態へ。さらに前方に推進力を得るように最大出力でブラストを発動。ドパンッと炸裂音を響かせながら目標に飛び込んだ俺は、パワードスーツの各所に設置されたバランス調整用の補助スラスターを起動させながら姿勢を安定させ、すれ違いざまに木の枝を切る。そして逆噴射とともに飛行の術式を停止させ、着地した。本来ならば地面を抉ることはないはずなので要練習である。

なお足が地面から離れてから着地まで約一秒。枝を切るまでは零コンマ二秒のうちにできた。落下は重力任せなので少し時間がかかるのが難点である。またこれだけの動きをしても俺の体には一切負荷はかからない。パワードスーツを基準に空間魔法で位置を固定しているからである。逆立ちしてもこれを装着している限り頭に血が上らないのだ。

「リーダー?」

「何だ?」

「これ、ミスリルランクが壊滅どころか国が落ちるのでは?」

「俺もそう思う。ミア、見えたか?」

「無理。リューグは?」

「ミアに無理なら俺に見えるわけがない」

「こンの…………バカもんがァッ‼」

 またキール支部長の雷が落ちた。少し距離があるため、遮音結界のおかげでちょっと聞き取りづらいが。

「お前の考えは確かに聞いた。ああ聞いたとも。だがここまでのモノと誰が予想できる!」

「えー……。でも再現可能な範囲ですよぅ」

「だからそれが一番の問題だと言ってるのが分らんのか貴様はァッ!」

 戦争でもする気かだの非常識にもほどがあるだのくどくどと怒声交じりのお説教は約三十分続いた。要は俺の技術ではなく知識や発想が問題なのだと改めて言われる。

「ちょっとお前ら宛の依頼は考える。とりあえずは地道にシグルドにランクを上げさせろ。あとシグルド、お前、銀ランクに上がるまでその鎧は使用禁止だ。いいな? わかったな? わかったら返事をしろ」

「……はぃ」

「あと銀になったら槍術師も名乗れ。それまでは普段使いの方の銃にもその……銃剣? ってのを付けとけ。誤魔化すのに要る。一応それでも戦えるようにはしとけよ」

 キール支部長が言うには、あのパワードスーツが使いたいなら最終的に槍で近距離戦を行いつつ銃でサポートもするような戦い方に見せかけろとのことだった。なお、パワードスーツの出力は大幅にカットし、あの爆発的な加速の使用は絶対に禁止だと厳命された。

元々出力調整ができるように作っているので改造の必要がないのは救いである。何が悲しくてせっかく作ったものをデチューンしなければならないのか。いや、怒られた理由はわかっているのだが。

街に戻るということになったので、俺はパワードスーツを脱ぐ。要領は着た時と同じだ。パワードスーツ自体を転移させ、自分の後方に移動。その下にアイテムボックスを展開し、自重で格納する。ちなみに普段使いの銃はこれも同じ要領でアイテムボックスに収納することができる。取り出すときは普通にアイテムボックスから引っ張り出すだけだ。

いつもの装備に戻ってカービンライフルを肩から掛ける。銃剣はまた後日付けるとしよう。槍として運用するなら銃身も伸長させたいし。と言っても、槍運用を考えるとスナイパーライフルっぽくなるのが難点だ。いや、もともと隠蔽用の装備なのだからこの世界の基準に倣って単発メインにしとくのもアリか。ただ、この世界で流通している銃は同じ単発発射方式とは言えど前装式のライフリングのないマスケット銃である。俺の作る銃はもちろんライフリングもあるし、マガジン式。威力はともかく射程と精度と連射力が段違いなのである。だがそれをこの世界基準に合わせたりする気はない。ライフリングのない銃で的に当てられる自信など皆無だ。

帰路につきながら、そういえば生身用の軽鎧くらいは買うか作るかしないとな、などと考えていると、背後にすすすっと寄ってくる気配。ミアだ。

「そう言えばシグルドのアレって全部魔道具なんだよね?」

「? ええ、そうですよ?」

「作ってるのも見てたけど、材料は土だよねぇ」

「流石に金属使った方が軽くて丈夫だし、ちゃんと鍛造したガワで作った方が良いですけど、まぁ、そうですね」

「んで、作ろうと思えば誰でも作れるんだよねぇ……」

 さっきキール支部長に怒られたことである。一体何が言いたいのだろうかと、疑問を向けながらも俺はその言葉に頷く。それに対してミアは、すごく遠い目をしながらこう言った。

「いや。あんなのが誰でも使えて土から量産出来るとなると、あれ使って戦争始まったら世界が終わるなぁって……」

 俺の装備品が、お手軽とまでは言わないが誰でも使えて材料費的には低コストで作れる魔道具であることを失念していたらしいリューグとイリスさんが「マジか」とでも言いたげな目で俺を見る。端からその危険性に気づいている上にさらにその上の段階を知っているラッシュさんとキール支部長はもはや何も言うまいというばかりに静かに目を閉じた。

 後日、また俺は森の中にいた。今日の付き添いはミアである。森の中に来たのは銃の改造のためだ。形を作り変えるだけだが、全体にゴーレム生成の魔術を使用して形を変えるので魔法的な機構はすべてパァだ。なので一から作り直した方が早いのではないかと思い直し、銃本体をアイテムボックスに片づける。ちなみに作るのはスナイパーライフルもどきなので、マガジンの口の縦幅は自分の中のイメージに合うように長くする。

 いつものように魔術で形を作る。今まではゴーレム生成の魔術を使用していたが、それをモノの形を作ることに特化させるように独立させてクリエイトという魔術に昇華させた。大昔に同じことを考えた人はいたらしいが、鍛冶では鍛造、鋳造に耐久性で劣り、陶器を作るにあたっては焼き入れの時に失敗するらしいので廃れたらしい。

 イメージするのは日本でも使われているような猟銃。ベースに選んだのは槍としての運用を考え、グリップにある程度角度があり、ストックと一体になっているからだ。ただ、ベースにするといっても一応連射できるようにマガジン式にするし、ハンドガードを付けたりするので見た目は全くの別物になるのだが。なお銃剣を付ける機構なんてものは知らないので、見た目だけで取り外しができない固定式の銃剣を取り付ける。下手に考えるよりこっちの方が作りやすい。戦闘中に取れても困るし。この辺の脱着機構はまた時間のある時に考えることにする。

 結果出来上がったのは、一二〇センチほどの銃剣付きライフル銃。WW2の小銃的な見た目を残しながらも若干近未来臭がするが気にしない。突き出した銃剣は三◯センチ程の両刃剣だ。魔法的な仕組みは前に作ったものと同じだが、ひとつ追加したことがある。サーチの派生である魔力感知の魔術を付与し、薬室内の弾薬を判別して発射の時のブラストの威力を調整できるようにしたのだ。殺傷目的の岩石弾であればより強力なものを、非殺傷目的のゴム弾であれば人に当てても怪我を与えず、頭に当たれば気絶する程度のものを発動するように改良した。もちろんフルオート機構は健在である。弾の認識というプロセスが挟まった結果、若干連射力は落ちたが。なお既にゴム弾は完成している。予想通りその辺に生えているタンポポっぽい植物から成分を抽出するとゴムができた。だいたい一株から一発。サーチで探したら脳の処理が追い付かなくなるくらいあったので弾切れの心配はない。心配と言えば、ゴム弾の射程である。爆発の威力を下げたので、通常弾に比べて射程は短い。しかしこの世界基準ではどこまで飛ぶかはともかく当てられる距離は五〇メートル程度なので、それでも破格の射程距離をもっているので問題はないのだが。また、マガジンサイズはスナイパーライフルはマガジン式ならば5発マガジンくらいが見た目的に至高という俺の強い意志の元、あまり目立たないサイズのものが装着されている。おかげで付与したアイテムボックスの容量は二〇〇発程度になったが、この時点で過剰なので気にしない。

「できたの?」

「はい。一応通常弾も作っておこうとは思っていますが、これで完成です」

 構えたり振り回したりしてみる俺を見ながらミアは「確かに短槍に見えなくもないか」とこぼしている。

「じゃぁちょっと戦ってみようか」

 そういわれて俺は首を傾げる。サーチに魔物の反応はない。

「特に獲物は居ませんが……」

「ちがうちがう。あたしと。といっても銃の方は使わないでね。勝負にならないから」

 そういって立ち上がり、抜き放った二振りのショートソードをヒュンと鳴らす。

「危なくないですか? 魔術を使ってなくても十分切れますよ、コレ」

 一応警告し、近くの木の幹を切りつけて見せる。だがそれを見てもミアはカラカラと笑うだけで目線で「早く構えなよ」と促してきた。

 俺は今、買った軽鎧の上に魔術的な防護を付与したロングコートを着ている。一応戦闘できる状態ではあるのだが、あまり気が進まない。ミアも強いらしいので万が一はないだろうが、怪我をするのもさせるのも怖かった。

「大丈夫だって。早く打ち込んできなよ」

 何を言っても無駄そうなので、言われた通りにする。構えなど知らないので、とりあえず始めは立射の態勢だ。銃を撃っているときに接近された時を想定する。

 俺は身体強化を使い、今自分に出せる最大の力をもって地面を蹴り、ミアを目掛けて渾身の突きを放った。もちろん当てる前に止めるつもりだ。寸止めなんて甘いことは言わない。未熟さは分かっているので十分マージンを取るつもりで。だが。

「ッ⁉」

 知覚強化された目が一気に前に踏み出したミアを捉える。構えられていた左手ではなく、だらりと下げられていた右手が跳ねあがる。踏み込まれた分、ミアの位置は俺の銃槍の加害範囲。だがその切っ先は、ミアの振り上げた右手の剣の腹で跳ね上げられた。バランスを崩して俺はたたらを踏む。上がった腕の隙間から、ミアの構えられていた左手が引き絞られるのが見えた。

 俺の首を、剣の風圧が薙いで行く。

「…………お見事」

刺突されたミアの剣は、俺の首元一センチで止まっていた。

「ね、大丈夫だって言ったでしょ」

 ショートソードを下げながらミアは笑う。実力差は理解していたつもりだったが、圧倒的だった。これが日常的に命のやり取りをしている人の動きかと戦慄する。

「魔物に対してはあれでもいいと思う。ラッシュが動きを止めてくれるし、何よりそれがあるからね」

 ミアは俺の銃槍を指しながらそういう。しかし、「でも、」とその言葉は続く。

「対人戦は駄目だね。冒険者の依頼には商隊の護衛とかもあるし、そうなったら相手は盗賊だから。人、殺したことある?」

 俺はふるふると首を振る。

「人が死ぬのを見たことは?」

 病気や寿命で、という意味ではないはずだ。俺はもう一度ふるふると首を振る。

「そっか。平和だったんだね、シグルドの故郷は」

 そう言って遠くを見るミアの目は、羨ましいような、哀しいものを見るような目をしていた。

 この日この後、俺は日が暮れるまでミアからの戦闘訓練を受けたのであった。


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