93
船は無事に港へと到着し、
シェリル達は王城へと続く道を歩いていた。
この国の城は港のすぐそばにあり、
舗装された道を一直線に進めば辿り着ける。
色とりどりの花が城へと続く道の脇で咲き誇る中、
シェリルは少し前を歩くリアムの背中を時折睨みつつ、
不貞腐れた様子で侍女たちと歩いている。
「………シェリル様。
殿下はシェリル様のことが心配なんですよ。」
「そうですよ。
だってシェリル様ったら、危機感がないんですもの。」
そう言って話しかけてくる侍女たちを、
シェリルはじとーっと見つめ返す。
自分のそばに仕えてくれている侍女やメイドは
比較的フレンドリーな性格の者が多く、
他の王族たちに比べて主人との距離も近い。
ちなみにこの人選はヴィンセントによるもので、
慣れない王城での生活に早く馴染めるように、らしい。
「………危機感って、
べつに夜に出歩くわけじゃないし、
護衛の人を連れて行くって言ってるのに。」
「シェリル様の場合はこう、
すぐ連れて行かれそうな雰囲気があるというか。」
「………………。」
「可愛らしい見た目ですから、
簡単に連れ去られそうですものね!」
「………子供じゃないんだけど。」
「ですが、
やはりシェリル様は殿下の婚約者様ですから、
勝手な行動はしない方がよろしいかと。
殿下の立場もございますし、
なによりシェリル様の身の安全を考えれば
私どもの目の届くところにいていただかないと。」
「…………わかってるけど。」
久しぶりの遠出、来たことのない国。
ならばぜひ町を探索したい!と思っていたシェリルは
自分の身動きのとれなさにガッカリする。
………こんなことなら、
ヴィー先生にも来てもらえばよかった。
そうすれば"野外学習"の名目で外に出れたかもしれない。
「さぁシェリル様、いつまでも拗ねていないで。」
「殿下が困ってしまいますよ?
せっかくの"婚前旅行"なのに
いつまでも可愛い婚約者がそんな顔をしていたら。」
「…………気にもしてなさそうだけどね。」
侍女たちの言葉にそっけない返事をして、
立ち止まって自分を待っていたリアムの横へと並ぶ。
「…………機嫌はなおった?」
「…………。
ご心配なさらなくても、
ちゃんと切り替えますから大丈夫です。」
そう言ってシェリルは、
不貞腐れた表情の上に"王子妃の婚約者"の仮面をつける。
………つまり、作り笑いだ。
「さぁ行きましょう、殿下。」
「……………………。」
リアムの肘に軽く手を添えて
目の前にそびえ立つ王城を見つめたシェリルは、
気づかれない程度のため息をついた。




