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「………信じられない。」
「………まだ言ってるの?シェリル。」
自分の目の前に広がる海を見ながら、
何度目になるかわからない同じ内容のつぶやきを
シェリルは口にする。
「本当は二人っきりが良かったけど………
結局仕事のついでになっちゃったなぁ、"婚前旅行"。」
「………やめてもらえます?
その"婚前旅行"って言うの。」
熱を出して王城に泊まった夜からしばらくが経ち、
王子妃教育を続ける日々を送っていたシェリルに、
"婚前旅行に出かけるよ"と、
リアムはニッコリ笑って突然告げた。
「………また急に何言ってるんですか。」
「この前言ったよね?婚前旅行に行こっかって。」
「あれ、冗談ですよね?
本気で考えてたなんて聞いてませんけど。」
「本気に決まってるけど。」
「…………………行かな。」「行くんだよ。」
拒否権は当然与えられず、
あっという間に出発の日を迎え、
現在シェリルは船の甲板から海を眺めている。
「船酔い、大丈夫そう?」
「………それは平気です。
船には何度か乗ったことがあるので。」
「へぇ。………家族と?」
「いえ………友人の"旅行"に付き合った時に
何度か船に乗る機会があったんです。
まぁ今よりもっと、気楽な旅でしたけど。」
友人、それはもちろんジネットのことだ。
幼い頃からの友人である彼女の家は
代々商人として名を残してきた家柄なため、
各国をまわって買い付けに行くことも多々ある。
その買い付けに一緒に行かないかと
ジネットはよくシェリルを誘ってくれたのだ。
「今回も気楽な旅だよ。」
「どこがですか!?
さっきリアム様も言ってたじゃないですか、
"仕事のついで"になっちゃったって!
しかもリアム様だけが仕事ならまだしも、
なんでわたしまで宴席に出なきゃいけないんですか!」
「………まぁそれは仕方ないよね。」
「それに宴席があるって、
リアム様は知ってたんですよね?!
なんで教えてくれなかったんですかっ?」
「えー………だって先に伝えたらシェリル、
この旅行にも来てくれなかったでしょ?」
「……………き。」「絶対来ない。」
来たかな………たぶん。
そう口に出そうかと思ったが、
笑顔でこちらを見るリアムに遮られ、言えなかった。
「そんな大きな宴席じゃないよ?
外交官とその身内しか来ないから大丈夫。」
「………信用できないんです、その大丈夫。
リアム様は慣れてるからいいですけど
小さかろうと大きかろうと、
わたしにとっては宴席に変わりないし。
………それに。」
また現れるんだろうなぁ、リアム様の熱烈なファンが。
もうこの大陸中のどこに行っても現れる気がする。
抜いても抜いても生えてくる雑草のごとく、
彼を見つけたらどこからともなく走って来る気がする。
「………モテる人って大変ですね。」
「は?」
「違うか。大変なのはこっちだし。」
もう宴席のことは考えない。
どんな美女がどれだけ彼に近寄って来ようとも、
余計なことは言わない方がいいと前回で学んだ。
こうなったら好きなだけ女性と話しててもらって構わない。
わたしはわたしで、他の人と交流を持てばいいだけだ。
「帰る前日は
朝から夜までずっと二人でいられるから。」
「えっ?!」
「…………………なにその反応。」
「あ、いや、そのっ。
べつに嫌とかそういうわけじゃないですよ?!
ただリアム様忙しいから、
この旅行の2日間は宴席の時以外
一人でブラブラできるのかなぁって………。」
「できないよ?させないし。
しかも"一人で"ってなに?婚前旅行なのに?」
「そ、それはっ………おいといて!
させないってどうしてですか?
護衛の人をつければ町を観光とか………!」
「ダメ。無理。諦めて。」
「そんなの旅行じゃないです!!」
リアムの服を掴みブンブンと彼の体を揺さぶって
シェリルは駄々をこねてみたが、
首を横に振られるだけでいくら頼んでみてもダメだった。
そんな二人の姿を、
護衛の者や侍女達が微笑ましく見ていたのを、
もちろんシェリルは知らないのだった。




