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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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「…………リアム様。」


振り返った視線の先にいる彼に、シェリルは声をかけた。

………いつのまに入ってきたのだろう?

夢を思い出して心ここにあらずだった自分が

部屋へと入ってくる物音に気づかなかっただけなのか。

黙ったままその場から動こうとしないリアムに、

シェリルはもう一度声をかける。


「………リアム様?どうしたんですか?

 まったく気づかなかったからびっくり………。」

「っ…………。」


ツカツカと歩み寄ってきたリアムの顔に、

シェリルは思わずギョッとする。

………なんでそんな、泣きそうな顔してるの?

彼の浮かべる表情に戸惑いながらもシェリルは、

目の前に立ち黙ったままのリアムの頭を撫でようと

背いっぱい背伸びする。


「………ごめんなさい、心配かけて。

 もう熱も下がったみたいだし、だいじょぶ………。」


もう大丈夫だと頭を撫でながら伝えようとしたシェリルを、

リアムは思いっきり抱きしめる。

ひゃっ?!と小さな悲鳴をあげ驚きながらも、

シェリルは彼を心配して声をかけ続ける。


「…………リアム様、どうしたんですか?

 …………なんで、そんな顔してるの?」


眉を下げ、今にも泣き出しそうな顔をしたリアムが、

口元を歪めて小さな声でつぶやく。


「…………行かないで、どこにも。」

「!」

「俺のそばから………離れていかないで。」


泣きそうなその表情を隠すように、

シェリルの肩にグリグリと顔を押し付け、

リアムは懇願し続ける。


「ワガママもお願いも、なんでも聞いてあげる。

 シェリルが欲しいものは全部手に入れてあげるし

 嫌なことはしなくてもいい。

 俺だけを見て、俺だけの声を聞いて、

 ほかのなにもいらなくなるぐらい、甘やかすから。」

「…………………。」

「………だから、どこにも行かないでシェリル。」


懇願の言葉を止めたリアムは、

シェリルの肩にうずめていた顔を首筋へとうつし、

汗でベタつく肌に唇を這わす。

………こんなのじゃ足りない。

もっともっと………全部欲しい。足りない。全然。

自分の中に湧き上がる黒い欲望の渦に身を任せ、

その首筋にカリっと歯をあて、噛みつこうとした瞬間。


「リアム様!!!」


耳元で響いた声に、リアムはハッと我に帰る。

…………もう少しだったのに。

頭の中に聞こえたもう一人の自分の声を押し隠し、

リアムはそろそろとシェリルに視線を合わせる。


「ほ、ほんとにどうしちゃったんですか?

 わたしならもう大丈夫ですし、

 それよりもリアム様の方が………!」

「………シェリルが、いなくなっちゃう気がして。」

「………なに言ってるんですか。 

 ちゃんとここにいるし、どこにも行きません。」

「…………そう言って、いつもいなくなるから。」

「なっ?!………さ、さすがに、

 病み上がりの体でどこか行ったりしませんよ。」

「………熱は?」

「もう下がったと思います。

 頭も痛くないし、気持ち悪さも眩暈も無い………。」

「でもダメ。ベットにもどろ。」

「え。」


慣れた手つきでシェリルを抱き上げると、

リアムはベットに向かって歩き出す。

………この人に急に抱きかかえられるのも慣れてきた。

そんなことを考えている間に

再びベットの上へと逆戻りしたシェリルの髪を、

今度はリアムが優しく撫でる。


「………ごめんね。無理させて。

 でもこれでほとんど片付いたから、

 シェリルを甘やかす時間も作れるはず。」

「………大丈夫です。

 それよりリアム様はゆっくり休んでください。」

「そうだね………

 休みでももらってゆっくりしようかなぁ。

 ………で、一緒に旅行にでも行く?」

「なんでそうなるんですか。」

「誰にも邪魔されないような所に二人っきりで。」

「え、やだ。怖い。行かない。」

「…………よし、そうしよ。」

「やだって言ってるじゃないですか!!」

「婚前旅行かぁ、楽しみだなぁ。」

「勝手に話を進めないで!!」


この時、

リアムが冗談で言っていると思っていた"婚前旅行"が

実は本気だったことをシェリルが知るのは、

旅行へと出発する数日前のことだった。



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