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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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キィっと音を立て、ひらいた扉の奥に、

そのステンドグラスはある。

昼間とは違い白銀の光を浴びて輝くそれは、

なんとも言えない神秘的な光景を作り出している。


「……………似てる。」


あの時見えた、幻覚の光景に。

違うとすれば、ステンドグラスの模様だろうか。


「………でもやっぱり、見た記憶がない。」


デジャブのようなものなんだろうか。

一度も見た事はないのに、

以前にも同じような光景を見たことがあるような。

このステンドグラスを見ていると、

そんな不思議な感覚に陥って、飲み込まれそうになる。


「………そろそろ戻らないとヤバいかな。」


体調の悪さは少しはマシになったが、

自分が部屋にいないことがわかれば

護衛やメイドが騒ぎ出し、リアムに報告するだろう。

そうなったらまた何を言われるかわからない。

そうなる前に戻ろうとしたシェリルは、

自分の背後から聞こえた扉を開ける音に

体をビクつかせた。


「…………やっぱり、あなたもここに来てたんですね。」

「!!」


後ろから聞こえてきた声に、

シェリルは"どうして"と小さな声でつぶやく。

ただでさえ黙ってこの場所に来ているのに、

この人に会ったなんてことがリアムに知られたら………。


「………お久しぶりですね、シェリル様。」


そう声をかけてきた人物に、

シェリルは覚悟を決めて振り返り、同じように挨拶をする。


「………えぇ。そうですね、ゼイン様。」


そう言ってニッコリと微笑むと、

すぐそこに立っているゼインも同じように微笑み返す。

………この人、どうしてここに?

それにさっきわたしに"やっぱり"って………。

自分を疑いの目で見つめるシェリルを、

クスクスと笑いながらゼインは見つめ返す。


「そんな目で見なくても………

 あなたの跡をつけて来たわけじゃないですよ?

 ………だってここに来るのは、

 僕たちにとって"運命"ですから。」

「……………運命?」

「結婚式が始まる前にも見ていましたよね?

 このステンドグラスを………

 なにか感じるものでもありましたか?」

「!」

「僕は"懐かしかった"ですよ?

 ………あの夜、

 "キミ"と永遠を誓い合ったのも、

 ステンドグラスの下でしたから…………。」

「なっ………。」

「ずっと一緒にいようねって誓い合ったのに、

 キミはあんな下劣な男に攫われてしまって。

 ………なんとかして取り戻そうとしたけど、

 相手が王家の人間ではどうしようもなかった。」

「……………!!」

「小さな頃からずっと一緒にいたのに。

 キミは僕の花嫁になるんだって思ってたのに。

 ………なのにキミはあの男に捕まって、

 鎖で繋がれて監禁までされて、

 二度と会うことができなくなってしまった。」


冷たい声でそう言うと、

ゼインはシェリルに向かって手を伸ばす。

その手から、この場から、

今すぐに逃げなければと頭ではわかっているのに、

なぜかその場から動くことができずにいたシェリルの頬に、

ひんやりとしたゼインの手が触れた。


「…………でもやっと、

 キミをあの男から取り戻すことができそうです。

 今度こそずっと…………。」

「ぅあぁ?!」


"ずっと一緒にいようね?"

ゼインがその言葉を囁こうとした瞬間、

シェリルは腕に強烈な痛みを感じ、

呻き声をあげながら床へとへたり込んでしまう。


「…………っ、………いっ………!!」


あまりの痛さに涙がこみあげ、視界がゆがむ。

それでもなんとか立ち上がろうと足に力を入れるが、

目には見えない何かに押さえつけられているかのように

床にへたり込んだまま動くことができない。

………こんなことが出来るのは…………。


「…………何してるの?シェリル。」

「!!」


聖堂に響いたその声に、

シェリルの近くに立っていたゼインが驚き、振り返る。

  

「…………っ、リアム殿下。」


自分の名前を呼ぶゼインを無視して、

リアムは一直線にシェリルへと向かって歩いて来る。

その顔に表情は無く、


「………二回目だよ?シェリル。」

 

ただ口元だけを、三日月のように歪めていた。



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