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「………シェリルが?」
自分に熱烈な視線を送りながら話しかけてくる女性を
完璧なまでの作り笑顔を浮かべ交わしていたリアムは
先ほどまでシェリルについていた護衛から耳打ちされる。
「はい。
体調がよろしくないようで、
しばらく横になりたいとのことでしたので
控え室までお連れしました。」
「………誰かついてるの?」
「部屋の前に別の護衛をおいてきました。
メイドが一度部屋に入り、頭痛薬をお渡ししたと。」
「………わかった。そこに行くよ。」
女性との会話をうまく断ち切り、
シェリルの元へと歩き出そうとしたリアムに、
後ろをついてきていた護衛が"あの………、"と
まだ何か言いたげな様子を見せる。
「………まだなにかあるの?」
「実は………部屋へとご案内する前、
あまり気分の良くない話を
シェリル様はお聞きになられまして。」
「………………。」
「その話を耳にする前から
あまり体調はよろしくなかったようなんですが、
それを聞いてからさらに顔色を悪くされて
部屋に案内して欲しいと。」
「………どんな話だったの?それ。」
「………失礼を承知で申し上げますと、
シェリル様を蔑まれるような内容でした。
………殿下の、女性関係のお話など。」
「へぇ……?
その話をしてた人間の顔、覚えてる?」
「ハッキリと。
どこの国のご令嬢かまではわかりませんが、
顔や髪色、ドレスの色やデザインなど
鮮明に記憶しております。」
「………キミはその女性達を探しておいてくれる?
ほかの護衛も多少は使っていいから。
シェリルがいる部屋がどこかだけ教えて。」
護衛の者からシェリルの居場所を聞いたリアムは、
貼り付けていた"王子"の仮面をはがし、
不機嫌さを露わにしながら廊下を歩く。
ただでさえ興味も関心もない女性から呼び止められ、
そのせいでシェリルは不機嫌になるし、
自分のそばから離れたのも気に食わなかった。
体調があまり良くないことも気づかなかったし、
そこにきて自分の女性関係の話とくれば、
シェリルがゴキゲンナナメになるのは当然だった。
………そういえば、
聖堂のステンドグラスを見ている時から、
あの子はなにか"おかしかった"………?
ステンドグラスをボーッと眺め、
こちらが名前を呼んでいるのに
なかなか気づいた様子を見せなかった。
その後も辺りをキョロキョロと見回したり、
何か考え事に耽っている様子だった。
………また何か隠してる。
リアムはそう直感し、シェリルのいる部屋へと急ぐ。
こういう時の嫌な予感ほど、よく当たるのだ。
「!………殿下。」
部屋の前で待機していた護衛が自分に気づき、
シェリル様はこちらです。と扉を開ける。
「…………………。」
「なっ?!
………い、いらっしゃらない?」
自分の後ろから覗き込むように室内を見た護衛が
慌てた声を出し、呆然と立ち尽くす。
リアムも部屋の中を見回してみるが、シェリルの姿はない。
だが室内をよく見てみると、窓が少し開いているのか
一部分だけカーテンがゆらゆらと揺れている。
「………誰か窓を開けた?」
「い、いえ!
今日は夜風も少し冷たいですし、
部屋に入ったメイドもそのような事はしないかと。」
「………ならあの子だね。」
コツコツと靴音を響かせ、リアムは窓際まで来ると
少しだけ窓が開いているのに気づく。
…………ここから出て行ったのか。
そう思い窓を開け、暗い外を見回してみるが
シェリルの姿は見当たらない。
自分の目に映るものといったら、あの聖堂だけだ。
…………あの"猫"、
勝手にどこかに行くクセ、しつけなきゃダメかな。
心の中に広がる黒い感情を押し殺して、
リアムは窓枠に手をかけ、外へと飛び出す。
「殿下!!」
「シェリルの行き先はなんとなくわかったから。
キミは会場に戻って、
人探ししてるのを手伝ってきてくれる?」
護衛にそう伝え、
リアムは聖堂へと続く道をゆっくりと進み始める。
………猫なんだよね、シェリルって。
甘えた声で鳴きながら、
撫でろ撫でろと近づいて来るくせに、
撫でてやればやったですぐどこかへ行ってしまう。
彼女にも本物の猫のように
鈴のついた首輪でもつけてやれば、
どこに行ったかすぐわかるようになるだろうか。
「………ほんと。手のかかる飼い猫だね、キミは。」
そうつぶやきながら、リアムは微笑んだ。




