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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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さすが国王の披露宴というべきか、

開かれた会場にはたくさんの人が集まり、

新国王となったバルドと、

王妃となったアイリーンに挨拶しようと、

たくさんの出席者が駆けつけるものとなっていた。


もちろんリアムとシェリルも

各国の要人たちへの挨拶に追われ、そのたびにシェリルは

笑顔の仮面をベッタリと顔に貼り付けた。


「バルド様もご結婚なされ、次はお二人の番ですな!」

「こんな可愛らしい方が婚約者とは、

 リアム殿下も幸せ者ですね!」

「なんとも仲睦まじいご様子で。

 お二人の結婚もすぐではないですか?」


………等々、

挨拶をされるたびに笑顔で返し、

そろそろ仮面にヒビが入るのではないかと思われた頃、

大方の要人客への挨拶は済んだとリアムが教えてくれ、

シェリルは安堵の息をもらす。


「よく頑張りました。シェリルちゃん。」

「………はぁ。」


ずっと作り笑顔をしていたせいか、

顔の筋肉が疲れきっているシェリルは

リアムが褒めてくれても笑顔で返す気力が残っていない。

それにどうせまだ…………。


「リアム様!」


………ほら来た。

こちらへと近づいて来る女性を見ながら、

シェリルは呆れたような顔をして下を向く。

………もう疲れた。

お偉い様たちにはちゃんと挨拶し終えたのだから、

この方みたいな"プライベート"な関係の方への挨拶は

リアム様ひとりでやってくれればいい。


「お久しぶりですわ、リアム様!

 このたびはバルド様のご即位とご結婚、

 本当におめでとうございます!」

「ありがとうございます。」


そう言ってリアムは笑顔を浮かべ淡々と答えているが、

目の前にいる女性はそうではない。

むしろ虎視眈々と

リアムに声をかけるのを狙っていたに違いない。

その証拠に、シェリルの方などまったく見向きもせず

ハートでも出せそうなほどの熱い視線を

リアムに送り続けている。


………あぁもうウンザリ。

あとどのぐらいこの人みたいな女性が

あちこちから湧いてくるんだろ?

………もう後は好きにしてくれればいい。

いくらリアム様が

美丈夫のプレイボーイだとわかってても、

自分以外の女性に声をかけられて笑顔で対応するのを

隣でおとなしく見ていられるほど、自分は大人じゃない。


「リアム様。」

「!」

「………あら。

 こちらの方が"今"お気に入りの婚約者の方?」


シェリルがリアムの名前を呼ぶと、

さも今気づきましたといわんばかりに

目の前にいる女性がチラリとシェリルの方を見る。

………"今"お気に入りの婚約者、ということは

いずれリアムに飽きられて

婚約も破棄されると思っているのだろう。

しかしなぜ初対面の女性に

こんなふうに嫌味の挨拶をされなければいけないのか。

シェリルは無性に腹が立って、

リアムの肘に組んでいた自分の手を離す。


やっぱりわたし、

こういうところは向いてない気がする。


イライラする理由が子供っぽいことも、

リアムの隣に立つ自信がまだ完璧に持てていないことも、

シェリルの恋心を少しずつ削っていく。

……そばにいたい。

でもそばにいると、モヤモヤすることが増える。


「わたしは向こうで少し休ませていただきますから、

 リアム様はどうぞごゆっくり

 こちらの方とお話しなさっててください。

 ………どなたかは存じませんが、

 リアム様のお知り合いの方なんですよね?

 どうぞゆっくりお過ごしください。」


ニッコリと微笑んで

その場から立ち去ろうとするシェリルを、

リアムが腕を掴んで引き留める。


「………シェリル。」


いつもより低い声で名前を呼ばれたが、

特に動じた様子を見せることもなくシェリルは


「大丈夫ですわ、リアム様。

 問題など起こさずおとなしくしてますから。」


そう言ってリアムの手をそっと振りほどき、

その場から颯爽と立ち去る。

………わかってる。くだらないヤキモチだ。

自分の気持ちを素直に認めつつも、

シェリルは一刻も早くその場から離れたかった。



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