79
祭壇の前で愛を誓い合う二人を、
シェリルは複雑な気持ちで見つめていた。
ピンクのウェディングドレスを着たアイリーンは
シェリルが想像していたとおり素敵な花嫁で、
時折り見つめ合い、微笑み合う二人は、
本当に幸せそうに見える。
………さっき見えたのは、なんだったんだろう。
今は太陽が空を照らす時間。
でもさっき、ふと見えたステンドグラスは、
月の光を浴び、白や銀色に輝いているように見えた。
そしてその光景に、シェリルは見惚れていたのだ。
………見たことがある?夜のステンドグラスを。
自分の記憶を疑い、戸惑うシェリルに
隣に座っているリアムが小声で話しかける。
「………シェリルもピンクがいいの?」
「へっ?!………な、なにが?」
突然の問いかけに思わず大きな声を出しかけるが、
今は静粛な式の最中であることを思い出して
シェリルはリアムと同じように小声で聞き返す。
「ウェディングドレスの色。
さっきからずっと見てるから、アイリーン様のこと。」
「えっ?あ、あぁ………
アイリーン様、よく似合ってるなぁと思って。」
先ほどの光景を思い出しながら
ボーッと祭壇の前に立つ二人を見ていたシェリルを、
どうやらリアムは
ウェディングドレスに見惚れていると勘違いしたらしい。
確かにアイリーンが着ている
ピンクのウェディングドレスは素敵だが、
あれを自分が着こなせるかと言われれば無理だ。
あんな可愛らしい色を選んだりはしないだろう。
「………わたしには似合わないです。
ピンクどころかウェディングドレスも………。」
「着てもらわないと困るんだけど。」
拗ねたような顔をしながらつぶやくリアムに
シェリルは思わず苦笑いを浮かべる。
自分がウェディングドレスを着たところなんて
申し訳ないがまったく想像もつかない。
女性なら誰もが一度は憧れるであろうその姿を、
自分に置き換えて考えるのが難しい。
「………ちゃんと着てね、シェリル?」
「………未来のわたしに頑張るよう言ってください。」
今日二回目のこのセリフに、
自分で言っておきながら笑いがこみあげる。
たぶん未来の自分も、
ウェディングドレスにさほど興味は持たないだろう。
そんなことより転んだりしないか、何か失敗しないか、
そっちの心配をしているに違いない。
そんな未来を想像していたシェリルの手に、
リアムはそっと自分の手が重ねる。
「…………結婚するんだからね?俺たちも。」
「!」
「………ずっと一緒にいて、シェリル。」
その言葉に、シェリルの心臓が跳ね上がる。
………違う。さっきの声じゃない。
今わたしに"一緒にいて"と言ったのは、リアム様だ。
あの時聞こえた声は、リアム様じゃない。
………わたしは誰に、言われたことがあるの?
「…………いますよ、一緒に。」
そう言って微笑んだ自分の顔は、
引き攣っていなかっただろうか。
握られた手が小さく震えているのを、
リアムはもしかしたら気づいているかもしれない。
………どうか、勘違いしていますように。
自分が言った言葉に恥ずかしがっているのだと。
「それでは、誓いのキスを。」
静かな聖堂に響いたその言葉に、
シェリルは視線をリアムから二人の方へと移す。
だがシェリルの視界に映ったのは、
そこにいるはずのバルドとアイリーンではなく、
二人に重なるようにしてぐにゃりと歪む人の姿だった。
「?!」
自分の瞳に映った異常な光景は一瞬で消え、
誓いのキスを終えたバルドとアイリーンが
微笑み合う姿がハッキリと確認できる。
………さっきからなんなの?
あの声も、ステンドグラスの光景も、
今見えたぐにゃりと歪んだ誰だかわからない人の姿も。
幻聴?幻覚?………わたし疲れてるのかな。
自分の見たものと聞こえた声に戸惑い、
無意識のうちに手を握りしめ、力を込める。
隣にいるリアムが眉間に皺を寄せ、目を細めていたことに
気づく余裕などシェリルにはなかった。




