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「あ、あの?リアム殿下?」
顔をあげながらおそるおそる話しかけると、
リアムが嬉しそうな顔をしながらこちらを見た。
「まさか………こんなに近くにいたとはね。」
「え?は?」
リアムの発する言葉の意味がわからず、
シェリルはまぶたをパチパチさせる。
抱きしめられる格好になっているのもおかしいし、
リアムが言ってることもなんだかよくわからない。
この状況をどうにか理解しようと頭をフル回転させるが、
一向に理解できそうにない。
「殿下!
とりあえず姉を離してもらえますか?」
とにかくリアムの腕から逃れようと
もがき始めたシェリルに助け舟を出したのはレンだ。
さすが弟!姉のピンチをわかっている。
「どうしてー?
この子は俺の鎖に繋がれてるんだよ?」
「………鎖?」
「出てるはずだよね?鎖のアザ。」
「!!」
「………アザって、なんのことですか?」
レンが不思議そうに聞き返す。
こんなことならもっと早く伝えておけば良かった!!
そう思っても後の祭り、どうしようもない。
「ねぇ、名前は?」
「え?あ……わたしですか?」
そういえばこの人、わたしの名前を知らないんだ。
………でも、なんかよくわからないけど、
素直に教えたらダメな気がする………!!
「で、殿下に知っていただくような名前では………。」
「………名前は?」
「ひっ!!」
地を這うような低い声で再び名前を聞かれ、
シェリルは思わず悲鳴をあげる。
一国の王子に名乗るような立場ではないのに、
なんで脅されるかたちで聞かれなきゃいけないのか。
「………シェ、シェリルと申します。」
冷や汗をかきながら自分の名前を告げるなんて、
今まで生きてきた17年の人生の中で初めてだ。
ましてや抱きしめられながら伝えるなんて。
「ねぇ、シェリル?
鎖のアザが浮かび上がってること、
レンは知らないんだ?」
「!」
「じゃあ見せてあげたら?
………俺の鎖で繋がれてるアカシ。」
もう隠したところで意味はない。
自分の腕に浮かび上がったアザをレンに見せる為、
シェリルはリアムに離してくれと頼む。
ん?いいよ?と腕の力が弱まり、
何がなんだかわからないといった顔をしたレンに
シェリルは袖を捲りながら近づく。
「!!
…………姉さん、これっ。」
「た、ただのアザだと思ったんだよ?!
でもなんか鎖みたいにみえるし、
もしかしたら呪いとかかと思って!!」
「なんですぐ言わなかったんだよ?!
これどう見たって普通のアザじゃないだろ?!」
「………は、話そうと思ったんだけど、
その前にジネットから言い伝えの話を聞いて。」
「言い伝え?」
「……鎖で繋いで、好きな女の人を閉じ込めた男の話。」
「はっ?なにそれ………。」
どうやらレンも、言い伝えのことは知らないらしい。
ジネットから聞いた話はただの作り話だと、
シェリルも信じてはいなかった。
………だが。
「ちなみにその言い伝え、作り話じゃないよ。」
「?!」
「うちの先祖の話だからね………
身分が違いすぎるせいで結婚を反対されて、
それでも女を忘れることができず、
自分の手元で監禁しちゃった王子の話。」
「かっ、監禁………。」
笑顔を崩さないまま話すリアムに、
シェリルは恐怖を感じ、レンの上着の袖を掴む。
「先祖返りっていうのかな?
その男の血を濃く受け継いだ人間が、
今でも生まれてくることがあるんだよねぇ。」
そう言いながらリアムは、
先ほどと同じように人差し指で円を描き始める。
「それと同じように、
監禁された女と同じ立場にたたされる人間が、
必ず同じ時代、同じ国に生まれてくるんだって。」
「…………まさか、それ。」
くるくると回していた指をリアムがくいっと曲げる。
その瞬間、シェリルの体が後ろにのけぞる。
「姉さん!!」
とっさにレンがシェリルを引き寄せ、
自分の腕にしがみつかせる。
「………そう、シェリルがそれ。」
姉弟にそう告げた王子は、愉しそうに笑った。




