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「どうかした?」
そうレンに声をかけられたシェリルは、
自分の頭に響いた声に驚いて、呆然としていた。
「いま、声が聞こえなかった?」
「声?だれの?」
「だれって………わかんないけど。」
「なんだよそれ。幻聴?」
「………そう、だったのかな。」
幻聴にしてはハッキリと聞こえた気がするが、
耳ではなく頭に直接響いた気がする不思議な声に、
シェリルは少し混乱したまま辺りを見回す。
「とにかく座ったら?
昨日遅くまで起きてて寝不足とか?」
「………そんなことないけど。」
先ほどからする胸騒ぎといい、頭に響いた声といい、
なんだか今日は調子が悪い。
アザのことで医者に行こうと思っていたが
こんな調子なら体の具合も診てもらおうかと悩む。
とにかくレンの言うとおりベンチに座ろうと
シェリルがトボトボと歩き出した時だった。
「わっ?!」
グンっと腕を後ろに引かれた感覚がして、
シェリルは後ろを振り返った。………そこには。
「リアム殿下?!」
レンが驚いたように声を上げる。
目の前に立つ背の高いその男は、
ニッコリと笑いながらこちらを見ている。
腕を引っ張られた感覚があったのに、
掴まれていない………?
自分の腕を凝視し黙ったままのシェリルの頭上に、
優しそうな、落ち着いた声が降ってきた。
「はじめまして?………ファルツォーネのご令嬢殿。」
「!!
………は、はじめまして。リアム殿下。」
顔を見たのは初めてではない、
祭典などで国民の前に顔を出すこともある王子を
シェリルも遠目からだが拝見したことはある。
ホワイトブロンドの髪に、少し垂れ目の漆黒の瞳。
鼻筋は通っており、形のいい唇を持つ美丈夫。
………これは確かに、女性が放っておかない顔だ。
至近距離にいるリアムの顔をじっと見つめ、
シェリルは冷静に分析する。
だがそれと同時に、心にモヤモヤとした感情が浮かぶ。
それがどんな感情かと言われれば説明し難いが、
とにかく近づいてはダメな人間だということだけは
なぜかハッキリとわかった。
「レ、レン?わたしもう………!」
行くね!と、最後まで言い終わらないうちに、
再び腕を引っ張られる感覚がしてシェリルは驚く。
それと同時にクスクスと笑い声がして見上げると、
「…………みぃつけた。」
「?!」
目の前に立つリアムが
人差し指でクルクルと円を描く。
何をしているのかと不思議に思い見ていると、
ふいにその指をくいっと自身の方に向けた。
「きゃっ?!」
「姉さん?!」
前につんのめる形になり、
そのままリアムの胸元にぽすんともたれてしまう。
一国の王子の体に断りもなく触れてしまい、
シェリルは一瞬で顔を青ざめさせた。
「も、申し訳ございません!!すぐにっ。」
離れますから!と体をのけぞらせようとするが、
なぜかそのままリアムの腕の中に捕まってしまう。
「でっ、殿下………?」
「大丈夫だよ?………俺がそうさせたんだから。」
そう言って微笑むリアムを、
シェリルは恐怖のまなざしで見つめた。




