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「どうなされましたか?リアム殿下。」
「………んー?」
シェリルとレンが噴水の前に辿り着いた頃、
王城の二階にある自室から、リアムは外を見ていた。
リアム・フォン・ファブレ。
この王国の第二王子であり、
次期国王となる王太子の懐刀といわれる男。
誰にでも穏やかな態度で接し、
国民からの人気も高い彼だが、実際はそうではない。
その本性は狡猾で腹黒、
間違いを犯した者には容赦なく罰を与え、
笑顔を崩すことなくその者の命を絶えさせる。
私生活ではその整った顔立ちのおかげで
女性に困ったことはない彼だったが、
少しでも興が削がれればアッサリと捨ててしまい、
ひとりの女性に固執したことはなかった。
「………あれは、レンですね。」
「…………………。」
先ほど自分の元で補佐官見習いをしているレンが、
姉が忘れ物を届けてくれたので少し席を外したいと
リアムと補佐官のジュードに申し出た。
急を要する仕事も特にないし、許可を出したところ、
ついでに少しだけ、
姉に城内を案内してきてもいいかと提案された。
『………いいよ、いっておいで?』
レンの思惑には勘付いていたリアムだったが、
彼は16歳という若さの割に仕事はよく出来る。
たまには労ってやってもいいだろうと、
忘れ物を取りに行くついでの休憩を許した。
「となると、
レンの横にいるのが姉君でしょうか。」
ジュードが窓越しに姉弟の姿を見ながらつぶやく。
そうなんじゃない?
そう答えようとしたリアムの目に、シェリルが映る。
「……………!」
窓から外の二人を見ていたリアムの纏う空気が、
一瞬でピリっとしたものに変わり、
隣に立っていたジュードがピクリと肩を強張らせる。
…………"アレ"は。
シェリルの姿をハッキリとその目に映した瞬間、
自分の心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥る。
直後、襲ってきた感情にリアムはニタリと笑う。
………この感情、この感覚。
「………ふはっ。」
「?!
……………リアム殿下?」
口元を手で隠し、目に黒い光を宿して笑うリアムを、
ジュードは何事かと凝視する。
……殿下がこの笑顔を浮かべる時はなにか
"楽しい"ことを思いついたときだ。
…………嫌な予感しかしない。
「………ちょっと挨拶してくるよ。」
「え?」
「レンの姉上に………
せっかくここまで来たんだから、
弟の上司としてちゃんと挨拶しなきゃね。」
そう言って突如リアムは扉へと向かって歩き出す。
……口元を緩ませ、妖艶な笑みを浮かべながら。




