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「………王城に?」
「そうなの!
レンったら必要な書類を忘れて行っちゃって。」
家族そろっての夕食から数日後。
屋敷の自室で本を読んでいたシェリルは、
母から王城に行ってきて欲しいと頼まれていた。
「………いいよ、届けてくる。
ちょっと行きたいところもあるし。」
弟に忘れ物を届ける"おつかい"を引き受け、
シェリルは出かける支度を始める。
ついでにこっそり町医者に寄って、
このアザを診てもらおう……そう考えていた。
あれから………アザにはなんの変化もない。
痛くもないし、薄くもなっていない。
むしろ少し、濃くなった気がする………
なにかの病気だとしても怖いが、
もしあの言い伝えが本当で、このアザがそれだとしたら?
レンが言っていた話も気になるが
なんと言っても相手は王子だ、
そうそう簡単に会える立場の人間じゃない。
「それじゃあ、お願いね。」
母に見送られ、シェリルは王城へと向かう。
今日予定どおりこのアザを医者に診せることができたら
結果と一緒に家族に伝えよう。
このまま黙っておくわけにもいかないし、と思いながら。
「姉さん!」
「!」
レンの忘れ物を届けに城に来ていたシェリルは、
門番に事情を説明したあと、
近くの休憩室で待たせてもらっていた。
カルツォーネの公爵当主である父や、
補佐官見習いとして城に登城している弟とは違い、
シェリルが城に出向くことはそうそう無い。
どうしたものかと悩み、門番に声をかけたところ
こちらでお待ちくださいと案内されたのだ。
「助かったよ!
今日の会議でいる資料の清書なんだ。」
「お礼はいつものパイで手を打つよ?」
「わかってるって!
はい、と書類の入った茶色の封筒をレンに渡し
シェリルはその場を離れようとする。
なぜだかわからないが、先ほどから胸騒ぎがするのだ。
「よかったら少し城内を見て行かない?
事情を説明したら、
王子にそうするといいって言われたんだ。」
「い、いいよ……遠慮しとく。
レンもまだ勤務中でしょ?
早く仕事に戻った方が…………。」
「いいから、いいから!」
レンに手を掴まれ、強引に連れ出される。
本当は一刻も早くここを出て
医者のところに行きたいのだが、
掴まれた手を離すことができないまま
シェリルは引きずられるように休暇室を出る。
「………レン、
ほんとは城内を案内するのを口実に、
仕事をサボれてラッキーって思ってるでしょ。」
「そんなわけないだろー?」
隣を歩く弟は"したり顔"だ。
きっと執務室を出る時に
自分から言って出てきたのだろう。
………姉に城内を案内してあげたい、と。
「僕は姉思いの優しい弟なんだよ?」
「なにそれ、きもちわるい。」
憎まれ口を叩きながらレンについて行くと、
着いた先は大きな噴水のある広場のようなところだった。
封筒の中身を確認したいから、と
レンは近くに設置されているベンチに座る。
それに見習って座ろうとしたシェリルは
「?!」
強烈な胸騒ぎと
どこからか見られているような鋭い視線を感じ、
反射的にバッと後ろを振り返り見る。
「………姉さん?」
「…………………。」
頭の中に、声が響いた気がした。
「………………は?」
逃げて、と。




