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その日の夕食時、
シェリルはいつ話を切り出そうか悩んでいた。
食卓には料理が並び、
両親とひとつ年下の弟が和やかに談笑している。
いつもなら仕事で父が不在だったり、
王城で補佐官見習いをしている弟が不在だったりと、
家族4人が揃って夕食をとるのは久しぶりだった。
……言うならまさに今しかない。
無意識に腕をさすりながら
シェリルが声を発そうとした瞬間、
「……あぁ、そういえば。」
隣に座っている弟のレンに、先を越されてしまった。
久しぶりの家族との夕食だ、
きっとレンも王城でのことを話したいのだろう。
ここは姉として譲ってやらねば。
「今日、リアム王子の様子がおかしかったんだ。」
「まぁ、そうなの?」
そう言って聞き返したのは母だ。
「なんかやたら機嫌がよくてさ………
あのプレイボーイのことだから
女性関係でいいことでもあったのかなーって
ちょっと聞いてみたんだ。」
「………自分が仕える主をプレイボーイって。」
「ほんとのことだろ?
高身長にあの甘いマスクの持ち主なんだから、
頼まなくても女性が寄ってくるんじゃないかな。」
「あ、そう。」
「………それで、本人に聞いてみたんだよ。
なにかいいことでもあったんですか?って。
そしたらにっこり笑って、
『鎖で繋ぎたいコが見つかりそう。』って。」
「ぶはっ!!」
「おいおい、大丈夫か?シェリル。」
そう言って声をかけてくれたのは、
向かい側に座っている父だ。
隣に座るレンには"汚いなぁ"と呆れられたが、
まさか鎖の話が出るとは思わず、むせこんでしまう。
「鎖で繋ぎたいって、
よっぽど気になる女性でもできたのか?」
「たぶんそうなんじゃないかなぁ………
あのリアム殿下なら、
たいていの女性が喜んで鎖に繋がれるんじゃない?」
「あの方、まだ婚約者はいなかったわよね?
立場は第二王子だし、
次期国王は第一王子で決まっているだろうし。」
「王太子が国王になられた際には、
リアム王子は右腕として補佐するんじゃないかな?
あの兄弟、仲がいいから。」
「……………………。」
………関係ないよね?
レンが聞いてきた王子の鎖の話と、
わたしの腕に浮かび上がった鎖のようなアザは、
なんの関係もないはずだよね?
「リアム殿下も
そろそろ決まった女性に落ち着くつもりなのかな。
そうなれば国王も王太子も一安心だろうけど。」
「そのうち婚約者の披露とかあるかもしれんな。」
「………シェリルー?
あなたもそろそろ考えなさいよ?
いくつか縁談のお話は来てるんですからね。」
「え?!
そ、それはまだいいかなぁ………?」
「そんな悠長なこと言ってると、
ほかのご令嬢にとられちゃうわよ?
あなただっていずれは嫁ぐ身なんですからね!」
「……………………。」
「売れ残りにならないようにね?姉さん?」
キッ!とレンを睨み返したものの、
言い返す言葉が出てこないシェリルはため息をつく。
自分のアザのこともなんだか言い出しにくくなったし、
まさか自分の縁談話につながるとは………。
まだ17歳なんだから早すぎる気もするが、
学園時代の友人のなかには
もっと幼いうちから婚約者が決まっている子もいた。
家と家のつながりを強固にするため、
公爵家に生まれたからには仕方ないとわかってはいるが、
自分の結婚相手をすぐに決めるつもりはない。
………縁談とかじゃなくて、
普通の恋愛をしてみたいんだけどなぁ。
そんな乙女心を捨てきれずにいるせいでもあるのだが。
そんなことを考えているうちに夕食は終わり、
結局シェリルはアザのことを家族に言い出せなかった。




