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戴冠式と結婚式まであと少し、と差し迫った頃。
「………あ、あの?
どうして先生やお母様までこちらに?」
「やぁねぇ!
シェリルちゃんのドレスを選ぶ為によー!」
「私はコイツの見張りをする為よー!」
身長デカめの親子に同時にそう言われ、
シェリルは呆然と二人を見つめる。
今日はファルツォーネの屋敷から登城してきたメイドと、
王太子の結婚式で着るドレスの打ち合わせの日だ。
べつに屋敷で確認してもよかったのだが、
城に登城することが増えたシェリルに合わせ、
メイドは選んだドレスが城に届くように手配していたのだ。
「でっ?
シェリルちゃんが着るドレスの候補は?」
「こ、この中のどれにしようかと………。」
そう言ってヴィンセント親子の前に並べられたのは、
黒、青、深緑の三色のドレスだった。
「………なんかこう、
もっと派手なドレスは無かったの?」
「これでも十分派手だと思いますけど………。」
「確かにデザインは凝ってるけど、
赤とかピンクとか、可愛い色はないの?」
「いや、それはわたしが着たくないというか………。」
「なんで?!
シェリルちゃん色白で可愛いのに?!
もっとこうド派手な色も似合うわよ!!」
「ババア、暴走し始めるんじゃねぇ………。」
シェリルがメイドに頼んだのはいつもどおり、
派手じゃなくあまり目立たない色のドレス。
赤やピンク、淡い黄色など、
可愛い女の子が着るような色のドレスは
どうにも抵抗を感じて昔から選ばないのだ。
「で、でも!
この深緑のドレスはデザインが凝ってるし、
もうこれでいっかなー!って思ってるんです!」
「………まぁ、
確かにこの中ではこれが一番いいわね。」
「ドレスなんてこれからいくらでも着ることになるんだし
どうせそのうちあのクソガキが口出すようになるだろ。」
「リアムは嫉妬深そうだものねぇ………
でもラッキーだったのは
あの子の瞳の色が"漆黒"なことね。」
「…………ラッキー?漆黒なのが?」
「よくある話よ。
自分の想い人に自分の瞳と同じ色のドレスを贈って
この子は俺のモノです〜って
他の男への牽制として着てもらうのよ。
でも残念ながらあの子の瞳は漆黒だから、
真っ黒なドレスを贈るワケにもいかないでしょ。」
「はぁ………。」
「それに比べてどう?!うちの大男は!
レンガ色の髪にコバルトブルーの青い瞳!
青いドレスならたくさんあるわよ〜!」
「………ババア、黙れ。」
「なんでよ。
アンタだってそれなりの地位の人間なんだから、
シェリルちゃんの相手になっても大丈夫よ。
………本当なら、
バルドの専属騎士になるはずだった男だし?」
「はっ?!そうだったんですか?!」
「………まぁね。
でもそうなったらこの格好もできないしぃ?
王家の護衛騎士なんて堅っ苦しい役職は
自分に向いてないから。」
「…………………。」
「まぁ今みたいに
王家の家庭教師ぐらいでちょうどいいのよ。
これでシェリルちゃんの王子妃教育が終わったら、
またどっかの国に留学でもしようかしら。」
「…………そ、それは。」
寂しいかも。と口にしかかったが、
ヴィンセントの人生に自分が口出ししていいものかと
口をつぐんでしまう。
だがここ最近、
リアムよりも一緒にいる時間が長い彼との関係が、
そのうち終わってしまうのは嫌かも……とは思う。
もちろんそこに恋愛感情などはないのだが、
シェリルにとってヴィンセントは
王城内で信頼できる数少ない人間の一人なのだ。
「………シェリルちゃん?」
「せ、先生は!
………ずっとわたしの先生でいて欲しいです。」
「!」
「なので出来れば、
あまり遠い国には留学しないで………。」
「待った待った。」
「やだぁっ、脈アリじゃなーい!
あ、もうドレスも青色にしましょうよ!
ちょうどコバルトブルーのドレスだし!」
.「シェリルちゃん。
誤解を招くようなことは言わないでくれる?
………ババアが勘違いするから。」
「………誤解?
わたしは出来るなら
先生にずっとそばにいて欲しいですけど。」
王子妃教育が終わっても、
ヴィンセントから教えてもらいたいことは山ほどある。
語学にも歴史にも精通している彼は、
シェリルにとって生き字引みたいな存在なのだ。
これからもわからないことは教えてもらいたい。
「………、これはあれね、
リアムと喧嘩でもして婚約解消したら、
アンタがもらってあげるのがいいわね。」
「……………血を見るぞ。」
親子がボソボソと話す会話は、
シェリルの耳には届くことはなかった。




