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寝室のベットの上。
ころんと丸くなって眠っているシェリルを、
リアムは困ったように笑いながら見つめていた。
「………夜這いに来といて寝ちゃうとか。
ありえないんだけど、シェリルちゃん?」
そう言いながらリアムは、
ベットの端で丸くなっているシェリルの横に腰掛ける。
彼女の寝つきの良さは知っている。
一度寝たらなかなか起きないことも。
だから声をかけたところできっと、彼女は起きない。
どうやら彼女は、
昼間の自分の様子を見て心配になったのか、
いつもならある程度の時間になると屋敷に戻るのに、
今日はそのまま城に滞在していたらしい。
"リアム様にはわたしがいることは内緒で"
そう口止めされた護衛の者は、
さっき扉の前でキョロキョロしていた男だ。
黙っていてすみません。と、彼は頭を何度も下げたが、
それに関して怒るつもりはない。怒る気力も残っていない。
「………ナイショにして、
俺に何してくれるつもりだったの?シェリル。」
眠る彼女の髪を撫でながら、小さな声でつぶやく。
………この子のことだから
自分が望むような"甘い"ことをしに来たワケじゃないのは
重々わかっているけど………。
男の寝室に自分から出向くってことは
そういうことをされても文句は言えないってこと、
この子はわかっているのかなぁ………。
寝ている間に袖がまくれてしまったのだろうか、
肌をあらわにしたシェリルの細い腕には、
あのアザがくっきりと浮かび上がっている。
………あの時、
一時的とはいえこのアザが薄くなったときは
さすがに焦った。血の気が引く感覚とはまさにアレだ。
………このアザは、絶対に消えたらダメなもの。
今のこの一生を終えても、その先もずっと、未来永劫、
どれだけ生まれ変わってもキミを見つけるための印。
無意識にシェリルの腕を掴み、
自分の中に眠る真っ黒な感情に
ポツポツと飲まれ始めようとしていたリアムの耳に
「…………ふふっ。」
「!」
「…………くすぐったいです、リアム様。」
笑いをこらえ、
掠れたような声でそうつぶやくシェリルの声がした。
「………起きてたの、シェリル。」
「………まぁ、そうですね。起きてました。」
本当はちょっと寝てた。
ほんの少し、彼が部屋に入ってくるまで。
「昼間の仕返しです。
リアム様だって寝たフリしてたでしょ?」
ふわぁと小さなあくびをして体を起こしたシェリルを
リアムは"ふぅん?"と言いたげな顔で見ている。
そんな視線に気づきながらも、
シェリルはベットの上の枕をポンポンと叩き、
「さぁリアム様、横になってください。
………あなたがちゃんと眠りにつくまで
昼間の時みたいに髪を撫でてあげますから。」
「…………………。」
ほら早く!とシェリルにせかされ、
いつもなら"自分の番"とばかりに
シェリルをイジメようと仕掛けるリアムだが、
今日はさすがに疲れているのでおとなしく従う。
「あんまり無理しないで。
………と言いたいところですけど、
そういうワケにはいかないんですよね。」
少し悲しそうに笑うシェリルを見ながら、
リアムは言われたとおりベットの上でおとなしく横になる。
「でも寝不足で不機嫌そうな顔してると、
周りの人が怖がって手伝ってくれなくなりますよ?」
自分が不機嫌そうな顔で仕事しているのを想像したのか、
苦笑いを浮かべ、自分の髪を撫で始めたシェリルの腰に、
リアムは腕をまわしてしがみつく。
その動作に一瞬ピクリと体を強張らせるが、
シェリルはリアムの腕を拒否することはしなかった。
「…………疲れた。」
「お疲れ様です。」
「…………自分の結婚式じゃないのに。」
「大事なお兄さんの結婚式ですよ。」
「…………シェリルが足りない。全然足りない。」
「えぇ?」
「…………早く、
もっと俺におちてきて、シェリル。」
「!」
「…………早く言って。俺のこと愛してるって。」
「リア…………。」
「…………早く、俺のモノになって。シェリル。」
不安そうな声で気持ちを吐露したリアムが、
静かに寝息を立て始めたのはそのすぐ後だった。
腰に回されていた腕の力が抜けたのを感じて、
彼がちゃんと眠りについたのだと確信したシェリルは、
そーっと彼のそばから離れる。
「……………………。」
リアムの零した言葉を、
シェリルはどう受けとめていいのか悩んでしまう。
まだ、素直に口に出して言えるほど、
自分がリアムのことを"愛してる"のかはわからない。
彼のそばにいたいのも、
あの"へにゃり"と笑う顔に弱いことも、
いろんな場面で心臓が跳ね上がるのがどういう意味なのか、
いくら鈍感なシェリルでも気づいている。
「………好きですよ、リアム様。」
でも、きっとまだ足りない。
リアムが自分を想っているのと同じぐらいの気持ちが、
まだ自分には芽生えていない。
ただの"好き"だけじゃ、きっとこの人は満足しない。
だからもう少しだけ、
いろんな意味で甘えさせてもらおうとシェリルは思う。
「…………おやすみなさい。リアム様。」
寝息を立てるリアムの頬に軽く自分の唇をあて、
シェリルは静かに、部屋から出たのだった。




