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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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王子妃教育の授業を終え、

シェリルはヴィンセントとたわいもない話をしながら

リアムがいるであろう執務室へと向かう。

あの書庫での一件があってから登城した際には

必ず自分のところへ顔を出すようにと、

リアムに口酸っぱく言われてしまったからだ。

もちろん、ヴィンセントを護衛代わりにして。


「そういえばヴィー先生、

 この前オススメしてくれた本なんですけど。」


書庫から借りてきた本について

聞きたい事があったのをふと思い出し、

シェリルがヴィンセントに声をかけた時だった。


「ヴィー!」


後ろから彼を呼ぶ声が聞こえ、振り返ってみると、


「やだーぁ!

 ヴィーが女の子と歩いてるー!!」


きゃあきゃあと声をあげる背の高い女性と、

どこか見覚えのあるホワイトブロンドの髪の女性が

並んでこちらへと向かって歩いてくるところだった。

どうやら背の高い女性の方は

ヴィンセントと知り合いのようだが、

隣にいる彼の表情は凄まじく歪んでいる。


「ねぇねぇ、

 その子が言ってたリアムの相手?

 ちっちゃいし、可愛いし、なにこの生き物〜!」

「………黙れ、ババア。ドン引かれてるだろうが。」


近づいてきた背の高い女性にジッと見つめられ、

今にも自分に抱きついてきそうなその雰囲気に、

シェリルはあっけにとられポカンとしてしまう。


「………そうよ、お姉様。

 あんまりその子に構いすぎると、リアムに怒られるわ。」

「えぇ〜………大丈夫!

 今ここにリアムはいないわ!!」

「ぬわっ?!」


そう言って背の高い女性は、勢いよくシェリルに抱きつく。

その行動に驚き、声をあげながらもシェリルは、

もう一人の女性を見ながらおそるおそる声をかける。


「あ、あのっ………王妃様ですよね?」

「!

 あら………私の顔を知っていたの?」

「いつぞやのパーティーで

 お顔は拝見させていただいていましたから。」

「そう………

 挨拶が遅くなってごめんなさいね。

 あなたのことはリアムから聞いていたんだけど、

 私も国王も隠居の身だから口を出す必要もないと思って。

 ………それに、

 あの子が自分で選んだ相手なら文句はないわ。」

「!」

「これからよろしくね?シェリルちゃん。

 あの子は手が………ものすごくかかる子だけれど、

 あなたを大事にするのだけは保証するわ。」

「は、はぁ………。」


初めて言葉を交わした王妃は、

そう言ってニッコリと微笑む。

本来ならこちらから挨拶に伺わなければならない相手だが、

リアムにその必要はないと言われ

今の今まで会うことが出来なかったのだ。

………しかし、初対面がこれでいいんだろうか。

謎の女性に抱きつかれたまま、シェリルは真剣に考える。


「ねぇ?

 あなたたちもリアムのところに行くのよね?

 それなら一緒に………!」

「だめよ、お姉様。

 私たちがリアムのところへ行くのはまだ後。

 先にアイリーンのところに行く予定だったでしょ?」

「あの子のところへ行っても

 式で着るドレスの話をするだけでしょ?

 今時結婚式で花嫁が着るドレスのことを、

 嫁ぎ先の女性陣がアドバイスするなんて古臭いのよ。

 それにもうほとんど出来上がってるんでしょ?」

「形だけよ。

 それに、おかしなところが無いか確認して欲しいって

 アイリーンが言うんだもの、仕方ないわ。

 ………きっとあなたの時は、

 リアムが口を出させてくれないでしょうね。」


わたしの時?と首を傾げるシェリルを

クスクスと笑いながら見つめていた王妃だったが、

すぐに視線をシェリルに抱きついている女性に移し、


「さぁ、シェリルちゃんから離れて。

 ………ヴィンセント、

 リアムのワガママに付き合わせてごめんなさいね?

 この子にもちゃんとした護衛をつけるように

 私からもリアムに伝えておくわ。」

「俺は構いませんよ。"可愛い"生徒のためですから。

 ………それよりババア!

 いい加減にシェリルちゃんから離れろ。」

「やだぁ〜大男が怒鳴ってくる〜。」


渋々といった感じで

自分から離れようとする背の高い女性に、

シェリルは声をかける。


「あっ、あなたは………。」

「あっ、私ー?

 私はその大男の母親で、王妃のお姉サマよ。」

「!」

「またね、シェリルちゃん!

 この大男、格好と話し方は気持ち悪いかもしれないけど

 あなたを守るぐらいは出来るはずだから

 こき使ってやるといいわ!」

「うるせぇ!ババア!サッサと行け!!」


ヒラヒラと手を振りながら、

ヴィンセントの母と王妃は風のように去って行く。


「………ヴィー先生。

 王妃様との初対面があれでよかったんでしょうか?」

「………大丈夫よ。

 堅苦しいことは嫌いな方だから。」


去って行く二人の後ろ姿を見つめながら、

シェリルとヴィンセントは静かに息をついた。



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