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「と、いうわけで、
この国は小麦を栽培するのに適した風土なのよ。」
「なるほど………
だからうちもここからの輸入量が多いんですね。」
書庫での"告白"から数日後、
シェリルは王子妃教育のため城を訪れ、
先生であるヴィンセントから授業を受けている。
「この国とは輸出入の関係でよくやりとりしてるし、
クソガキも行ったことがあるんじゃないかしら。」
「へぇ………
じゃあリアム様にも話を聞いてみようかな。」
「まぁシェリルちゃんもこの先、
行くかもしれない可能性が高い国ではあるわね。
それに、バルドの戴冠式にも来るんじゃないかしら。」
「それなら、
直接話を聞く機会があるかもしれないですよね。
小麦の栽培が盛んな国なら、
特産品も小麦が使われた食べ物かな………。」
一人ブツブツとつぶやき始めたシェリルを見て、
ほんとに勉強熱心ね、この子は………と、
ヴィンセントは少し困ったような笑みを浮かべる。
数日前に会った時の彼女は、思い詰めた表情をして、
王子妃になるプレッシャーに悩んでいる様子だった。
しかし今はそんな表情を見せることもなく、
王子妃教育も真剣に、楽しそうに受けている。
「………そういえば、
シェリルちゃんも準備は進めてるの?」
「え?」
「戴冠式と二人の結婚式、
シェリルちゃんも出席するんだから
ドレスやらアクセサリーやら手配しなきゃでしょ?」
「それなら大丈夫です!
ドレスは既製品から選びますし、
アクセサリーは……て、適当につけます。」
「………あなた、
年頃のご令嬢なのにそういうことには
まったく興味がないのねぇ。
こういう時こそあのクソガキにねだればいいのに。」
「リアム様に?………なにを?」
「そのドレスやアクセサリーを、よ。
まぁシェリルちゃんは婚約者になって日も浅いし、
アイリーンのように準備期間が長かったわけじゃないから
ドレスを今から作るのは難しいかもしれないけど。」
「準備期間が長かったとしても、
ドレスやアクセサリーは何でもいいです。
今回もうちのメイドに適当に選んでもらいます。」
「適当、適当ってあなた………
いろんな国から来賓がくるのよ?
自国の王子の婚約者がそんなんでいいワケ?」
「え、でも主役はバルド様とアイリーン様ですよ?
わたしが着飾って目立つ必要はないし、
まぁリアム様は王弟になるんだから必要かもしれないけど
むしろわたしはあんまり目立ちたくないというか。」
「王子の婚約者ってだけでもう目立つ存在でしょ!
こういう時こそ派手に着飾って
他の国の連中に自分を売り込むチャンスなのに。」
「う、売り込むって………。」
「それに!
来賓者の中には女性も多くいるはずだし、
そうなると間違いなく、品定めが始まるのよ。」
「………品定め?」
「やれ、あの方が着てらっしゃるドレスは地味すぎるだの、
やれ、身につけてるジュエリーのデザインが古いだの、
女は見た目から相手を陥れようとする生き物なのよ。」
「………うわぁ、めんどくさ。」
シェリルはそういうことにまったく興味がない。
誰がどんなドレスを着て、
どんなアクセサリーをつけていようとも、
自分にとっては関係のないことだと思っている。
その人が気に入ったものを着て、
可愛いと思ったアクセサリーをつければいい。
それに、シェリルにはドレス選ぶ基準として、
もっとも大事なことがあるのだ。
「………今回は長袖のドレスにしようかな。」
自分の腕に浮かび上がるアザを隠すためには、
前回のように長めの手袋を着用するか、
もしくは長袖のデザインのドレスを着るしかない。
そのことはドレスの選定を頼んだメイドに
伝えてはおいたが、なぜかわからないが渋い顔をされた。
………もっと肌を出していきましょうよ!!と。
「まぁシェリルちゃんなら何を着ても似合うわよ。」
「………残念ですけど、
わたしは見ての通りナイスバディでもないですし
顔も歳より幼く見られる童顔ですから。」
「あら。
顔なんて化粧でどうとでも化けられるわよ。
今はシミやシワも綺麗に隠せる商品がたくさんあるし。
………あなたには必要なさそうだけど。」
「……………隠せる?」
ヴィンセントの言った何気ない言葉に、
シェリルはピクリと反応する。
「ヴィ、ヴィー先生!!
シミやシワも隠せるものがあるなら、
"アザ"も隠せる化粧品ってあるんですか?!」
「えっ、えぇ………
まぁ完璧に隠せるかどうかは知らないけど、
顔に傷跡や生まれつきのアザがある方もいるし、
そういうのを隠すクリームがあるって聞いたことが。」
「それっ!!どこで手に入りますか?!」
体を前のめりにして聞いてくるシェリルに
ヴィンセントは少し驚きつつも入手方法を答える。
「そ、そうね。
それなら私が使ってる店にあるはずだけど。
………シェリルちゃん、欲しいの?」
「はい!!」
「じゃあ私から頼んでおくわ。
でもあなたには必要ないんじゃ………。」
「いります、必要なんです。」
不思議そうな顔をするヴィンセントを尻目に、
シェリルは満面の笑顔で頷いた。




