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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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「…………リアム様?」


自分の肩に顔をうずめ、黙ったままでいるリアムに

シェリルはそっと声をかける。

自分が悩んでいることを、この人は知っている。

もしかしたら誰かに聞いたのかもしれない。


「………リアム様の知らないわたしになんてなりません。

 どんな格好をして、どんな話をしていても、

 リアム様の目に映るわたしがわたしなんです。」

「…………………。」

「………だから、

 悩んでるわたしも、わたしだから。

 ………リアム様に見てもらわないといけないですね。」

「!」


そっと顔を上げたリアムに、シェリルは微笑んでみせる。 

………ごめんね、リアム様。

たとえ"嘘をつく"ことになっても、

やっぱりあなたを困らせることはできない。


「………ほんとうは、

 王子妃になる覚悟がまだ出来ていなくて、

 リアム様の隣に立つのを、少し、重荷に感じて。

 わたしは考えてることがすぐ顔に出ちゃうし

 言わなくていいことまで言っちゃうこともあるし

 この先王子妃としてみんなの前に出た時、 

 うまく対応できるか自信がなくって………。」


ははは。と乾いた笑いをもらしながら話すシェリルを

リアムはただジッと見つめる。


「きっとその不安が、顔に出てたのかもしれないですね。

 ………って、やっぱり顔に出てたのかな。

 誰かに聞いたんですか?わたしが悩んでるって。

 ………あ、ヴィー先生ですか?」

「…………………。」

「でも大丈夫です、リアム様。

 これからはちゃんとリアム様に相談しますし、

 王子妃教育の先生はなんといっても

 あのヴィー先生ですから!

 ………大丈夫、ちゃんとうまく隠せるように………。」

「ちがう。」


矢継ぎ早に言葉を口にするシェリルを、

リアムが語気を少し強くして止める。

その口調にビクッと体を揺らし、シェリルは口をつぐむ。


「………考えてることがすぐ顔に出ることぐらい

 俺だってもう知ってるよ?

 ………そうじゃなくて、

 どうして俺じゃないほかの人間の口から、

 シェリルが悩んでることを聞かなきゃいけないの?」

「!」

「王子妃としてうまく対応できるか?

 そんなのどうだっていい。

 シェリルはただ俺のそばにいてくれれば………。」

「だからっ!!

 ………っ、それじゃあダメなんです。

 そんな、"お飾り"の存在になんかなりたくない。

 わたしはちゃんと、リアム様を支えて、

 対等にまではなれなくても、ちゃんと隣で………。」


隣で笑っていられるように。

その笑顔が、作られたものだとしても。

それが王子妃としてこの人の隣に立つと決めた自分が

"ひとり"でやらなければいけないことなのだ。


「………相談しなかったことは謝ります。

 これからはちゃんと相談しますから………

 リアム様に心配させたり、

 王子妃として恥ずかしくないように振る舞って。」

「………王子妃、王子妃って、

 馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返さないでくれる?」

「!」

「王子妃になるのがそんなにシェリルの負担になるなら、

 そんなものならなくてもいい。

 ………そんな立場なんてなくても、

 そばに置いておく手段はいくらでもあるから。」

「………リ、リアム様。」

「やっぱりダメなのかなぁ?

 婚約者になって、ゆくゆくは王子妃になって、

 法的にも自分のものに出来たと思ったのに、

 それすらも邪魔になるなんて………

 どうしたらシェリルは、本当に俺のモノになるの?」

「な、なに言って………。」

「俺はね、シェリル。

 キミに王子妃になってもらうために

 そばに置いておきたいわけじゃないよ?

 ただ甘やかして、可愛がって、

 自分以外の誰の目にも触れさせないように

 閉じ込めておきたいだけなんだよ。」

「!!」

「待つって言ったから素直に待ってるけど、

 いい加減、それも我慢できなくなる。」

「っ…………。」


身の危険を感じてリアムから距離を取ろうとするが、

掴まれた手に力を入れられて、逃れることが許されない。

なんとかリアムの変わってしまった空気を変えようと

シェリルは止める言葉を頭の中で考え、口にする。


「わっ、わたしは!!

 ………わたしだってっ、

 王子妃になりたくて

 リアム様のそばにいるワケじゃありませんっ。

 ………ただっ、

 頑張って自分の気持ちも殺して、

 作り物の笑顔を貼り付けて王子妃として頑張らなきゃ、

 リアム様のそばにいられないからっ………!!」

「!」


勢いよく口からついて出た自身の気持ちに、

本人と同様に、目の前のリアムも驚いた顔をする。

だがその顔に気づきながらも、

シェリルは思いを吐露することをやめられなかった。


「………リアム様のそばにいたいから頑張るのに、

 それすらやらなくていいって言われたら、

 わたしはどうやってリアム様に

 そばにいたいって気持ちを伝えれば………っ。」

 

顔を歪め必死に自分の気持ちを伝えるシェリルを

唖然とした様子で見ていたリアムの手から

スッと力が抜ける。

だがシェリルは逃げ出さず、

自分の口から出た言葉にハッと驚き、立ち尽くしていた。


自分の感情を殺してまで頑張ろうと思ったのは、

この人のそばにいたいから………?


不意に自分の気持ちを自覚したシェリルは

恥ずかしさから顔を赤くし、口を手でふさぐ。

だがすぐにこの状況のマズさに気づき、

慌てて弁解しようとするが、時すでに遅し。

自分を見つめるリアムの顔が、

………"あの"へにゃり顔だったから。



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