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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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その日。

城にある謁見の間には王家の関係者を始め、

王室と近い関係にある公爵家の面々が集められている。

集まった皆の顔を見据え、

王太子であるバルドが威厳ある、落ち着いた声で宣言した。


「世の戴冠が決まった。一ヶ月後、戴冠式を行う。

 それと同時に婚約者であるアイリーンとの 

 結婚式も執り行うことにする。」


王太子の宣言を聞いて、

その場にいる者たちが一斉に頭を下げる。

これでバルドは一ヶ月後には国王となり、

リアムは王弟となる。

バルドの宣言を聞き終えたシェリルは、

その場に張り詰めていた緊張感から解放され

ふぅ、と小さく息を吐いた。


「これで、正式にバルドが国王になるのねぇ。」

「………そうですね。」


今シェリルの隣に立っているのは

自分の王子妃教育の先生であり、

リアムとバルドの従兄弟でもあるヴィンセントだ。

さすがに今日はいつもの派手な格好ではなく

正装に身を包んでいるが、

その身長の高さもあってかやはり目立つ。

だがそのヴィンセントが隣にいてくれたおかげで

シェリルはその場の緊張感に飲まれずに済んだ。


「………で、あれが言ってた外交官?」

「!………はい。

 あの黒髪にメガネをかけているのがそうです。」


自分たちから少し離れた場所に、ゼインの姿を見つける。

彼もこの場にいるということは、

正式にアイリーンの側近として

輿入れについてくる者に決まったということだ。


「いかにも仕事が出来る有能な男って感じねぇ。

 ………それで?

 あのゼインとかいう外交官に

 目をつけられちゃってるのね?シェリルちゃんは。」

「……………………。」


この場に来る少し前、

シェリルとヴィンセントはリアムに呼ばれ、

二人は離れず絶対隣にいるようにと鋭い眼光で命じられた。


「………あの男も、その場に出席する。」

「!」

「は?あの男ってだれ?

 シェリルちゃんの隣にいるのはいいけど、

 一体どういうこと?」

「………アイリーン様の側近として

 城に出入りしてるゼインとかいう外交官、

 それがシェリルに目をつけてる。」

「!…………へぇ?」

「他にも人がいるところで何かしてくるとは思えないけど

 万が一のこともあるから

 シェリルのそばにいて俺の代わりに守って。」

「………それは構わないけど、

 それならアンタのそばに置いた方がいいんじゃないの?」

「俺は兄さんのそばで

 関係者の相手をしなきゃいけないし、

 そうなると少し目を離した隙に声をかけられて、

 簡単にシェリルを掻っ攫われる可能性もある。

 アンタならその見た目だけでも十分牽制できるし

 シェリルも信頼してるみたいだから。」

「はぁ………まぁいいけど。」

「わかった?シェリル。

 絶対にコイツのそばから離れちゃダメだよ?

 万が一声をかけてくるような事があっても、

 相手はヴィンセントに任せればいいから。」

「…………………。」


そういうわけで自分の隣に立っているヴィンセントは

王太子の従兄弟としてだけでなく、

ボディガードとしてもこの場にいる。


「あのクソガキがここまで警戒するってことは

 今までに何度もちょっかい出されてるの?」

「ま、まぁ………

 向こうが何を考えているかはわからないですけど、

 近づかれるとちょっと不都合なことが………。」

「やぁねぇ。襲われでもしたの?」

「ち、違います!!

 ………あの方に近づかれると

 どうにもわたしの苦手意識というか、

 変な抵抗感みたいなものが出てきちゃって………

 それにわたしが相手をうまく交わせないから

 リアム様が気にしちゃって…………。」


しどろもどろになりながら答えるシェリルを

じぃぃっと怪しむような目でヴィンセントが見てくる。

その視線に耐えられず、シェリルは自然と下を向く。


「………本当は、

 ヴィー先生に守ってもらったりせずに

 わたし一人でうまく対処しなきゃいけないんですけど。

 ………リアム様に

 余計な手間をかけさせてばかりで。」

「シェリルちゃん………?」

「この先リアム様の婚約者として

 いろんな方と社交の場で話すことも増えていくし

 そのたびにリアム様に助けてもらわなくても

 王子妃として

 ちゃんと一人で対応できるようにならないと。」

「シェリルちゃん、あなたちょっと………。」

 

下を向いたままのシェリルを

ヴィンセントが覗き込むようにして様子を伺う。

………決めたはずでしょ、

王子妃として仮面をつけるんだって。

どんな時でも感情を表に出さず、ただ微笑んで、

相手に悟られないようにしなければ。


「ねぇ、シェリルちゃん?

 あのクソガキはあなたの為に何かするのを

 手間だなんで思ってないはずよ?

 それよりあなたに何かあった方が………。」

「ダメなんです!甘えてばかりじゃ!」


バッと顔を上げ、

シェリルはヴィンセントをまっすぐに見つめる。


「………大丈夫です、ヴィー先生。

 これは、わたしの為でもあるんです。」


そう言ってシェリルはゼインを視界に捉える。

あの人のことも、

ちゃんと自分の中でハッキリさせないと。

あの人に対する感情がなんなのか、

アザが薄くなった原因が本当にあの人にあるのか。


「…………大丈夫。」


小さくつぶやいたシェリルの独り言を、

ヴィンセントは聞き逃さなかった。





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